第57話 盗賊の頭

「エイシャ様!そろそろカインが帰ってくるようですぞ。ようやくですな」


そう言ってガロンはパタパタと羽根をばたつかせて宙を舞っている。


「そうね。カインの好きな食べ物を沢山用意しておかないとね」


ー コンコン ー


「はぁい。どなたかしら?」


扉を開くと1人の男が立っていた。


「ここは魔女様のお宅ですかい?」


「ええ。そうだけど。何かようかしら?とりあえず入ってちょうだいな」


男は促されるまま部屋へ入り、椅子に座った。男の身なりは清潔そうな服をしっかりと着ているのだが、感じられる雰囲気はあまり良くない。魔女の薬を使って誰かを利用する気なのだろう。


「それで?私に用事って何かしら?」


「はい。それがですね。ちぃーとばかり人を操るような薬が欲しいんです」


「人を操る?媚薬かしら?それとも呪いかしら?」


私は目を細め、あえて聞くことにした。


「いえね、森の奥深くにある洞窟に財宝が眠っているっていう噂なんですが、封印されていましてね。その封印を開けるにはとある男が必要なんです。その男に封印を破らせるために必要なんです」


「ふぅん?だからその男を操りたいのね?いいわよ。報酬はなにかしら?」


「封印を開けた後の財宝半分はどうですかい?」


それで取り引きになっていると思っているのかしら。馬鹿ね。でも人間が解けると言えばあそこの封印かしら。


「いいわ。少し待ってなさいな」


私はそう言うと、小さな魔法陣を手元に浮かべてその中に手を入れた。魔法陣から手を抜き取ると手の甲には1匹の蜘蛛が乗っている。


男は興味深そうにその光景を眺めていた。


「さぁ、これを肩に乗せて帰りなさい。操りたい人間の近くに立って蜘蛛に命令するだけで良いわ。でもある一定の距離があると効果は無くなるから気をつけなさいな。報酬は、そうね、洞窟の封印を解いたら取りにいくわ」


男は1匹の蜘蛛にそんな事が出来るのかと怪しんでいたが、蜘蛛が肩に乗る。不満気な様子だったが、そのまま帰っていった。


「エイシャ様。アヤツ、ズメイを起こすつもりですぞ?良いんですかな?」


「さぁ?いいんじゃないかしら?自業自得よね」





 男が去って1週間ほどした後、封印が破られたようで魔力の爆発があった。やはりズメイの封印を解いたのね。


「ガロン、行くわよ」


ガロンは頷き、一緒に魔力爆破があった場所へと移動した。


「あらあら、これはまた派手にやったわね。山の形が変わっているじゃない」


そう言葉を溢しながら周りを見ると、1匹の大きなドラゴンが私を見つけたようだ。


「おい、小娘。我は何年ほど寝ていたのだ?」


「…多分、400年ほどかしら?」


「まだ目覚めるには少し早かったな。まぁ、目覚めてしまったのだ。各地に遊びにでも行くかな」


「ズメイ、寝ていた場所のお掃除をしても良いかしら?」


「ああ。助かる。この間はエキドナが寝床を整えてくれたからな。今度も上等な寝床を用意してくれ」


「分かったわ」


私がそう返事をするとズメイは1人の人間に変身し、途轍もないスピードで空を飛んで行った。


「さぁ、ガロン掃除をするわよ」


「楽しみですな!」


 私は寝床の側に落ちている人間だったの塊を吹き飛ばし、寝床の掃除を始める。目的はもちろんドラゴンの鱗。寝ている間に鱗や歯が生え変わるらしい。たまに棘のある立髪も落ちている事がある。


 ドラゴンの素材は武器や防具、装飾品や薬として珍重されているので寝床の掃除は大事な素材の収穫ともいえる。


「エイシャ様!白銀の鱗を見つけましたぞ!」


「あら珍しいわ。ふふっ。これだからドラゴンの寝床を整えるのは楽しいのよね」


そうして掃除を終えて、空気の層のベッドを作り、スライムの皮で包みこむ。フカフカというよりポヨンとした触り心地で吸い付くように柔らかく一定の温度を保ち続ける私特製のベッド。


 部屋を片付けながら先程ズメイの魔力で壊された壁などを元に戻していく。


そしてまた人1人が通れる入り口を作り魔術陣で封印しておく。お祖母様同様、長い時を生きるドラゴンにとって封印は玄関の鍵位なのよね。人間にとっては財宝を隠すための封印だと思っているらしい。


 前回お祖母様が何故ある人間の血を鍵にしたのかは分からないけれど、今回は辞めておく事にした。


「ガロン、帰るわ」



そうして数枚の麻袋に詰めた素材を持って家に帰ってみると、部屋の中に見覚えのある人が立っていた。




「カイン、おかえりなさい」


「エイシャ様。ただ今戻りました」



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久々の更新です。大変遅くなりました。

ほんの少しですが更新します。(´∀`)

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