第13話 母からの苦情 宰相side

 私はサン国の王子から連絡を受けた。カイン様は暗殺者達から無事に生き延びて今は魔女エキドナの所で保護されていると。


 一部の大臣達の謀叛により王族殺しが行われた。我々残った王家を支持する貴族達は失意のどん底にあったが、サン国の王子がもたらした一報により、一筋の光が見えた。


私は急いで宰相として国王代理の権限を行使して謀叛人を捕らえ、国の立て直しを図ろうとしていた。


 カイン様が生きている事で貴族達も私に協力してくれる者が大半で政権復活のために動いていたが、謀叛を企てた元大臣達は私達の動きを掴んでいたようで自領で兵士を集め、首都へ攻め入ろうとしている状況だった。


まさに内戦で国が大混乱する一歩手前だ。一度内戦が起ろうものなら国民は難民となり、各領地は荒れ果て国は終わるだろう。


被害を最小限に留めたい。私は執務を行いながら色々な策を練っていた。その時、目の前に光と共に錫杖を持ちローブを着た者が現れた。


「誰じゃ!」


そう声を出すとローブを来た者は


「ふふっ。間違っていなければここはナタクール国の王宮であっているかしら?」


女の声。魔法使いの出で立ち。魔法を使用した転移。もしや、噂の魔女エキドナなのか?私は魔女かと聞いたが、彼女は何も答えなかった。きっと魔女エキドナだろう。


私は魔女を警戒しながら一室へ通した。もし、彼女が魔女エキドナであればカイン様の現状も聞きたい。



魔女はカイン様の事が気に入っている様子。

従者になりたい?カイン様が?カイン様に何があったのだ?


そう疑問に思いつつも魔女は謀叛を企てた者達の捕縛、処刑と復興を3ヶ月でやれと言ってきた。

いくら何でもそれは無理だ。カイン様を安全に迎えるためにはどうしても時間はかかる。


魔女が手伝うだと?


 彼女は部下が急いで用意した処刑リストを持ち、有無を言わさず私を連れて瞬時に転移した。処刑リストの元大臣宅に。


私は驚きのあまり声も出なかった。魔女の圧倒的な魔力の差を思い知らされる。こんな魔法は見た事も無いし、人間の魔法使いが使えるとも思えない。驚愕とはこの事だろう。


 何度も転移を繰り返して捕まえていく。


謁見室に帰ると部屋は裏切り者達が騒いでいた。

謁見室にいた部下達は転送されてくる処刑リストの者達を逐一確認してくれていた。リストに違わず、全員捕縛していると確認出来た時に私は恐怖すら覚えた。



しかし本当の恐怖はここからだった。



 魔女は騒ぐ者達に煩いと瞬時に全員の首を刎ねてしまったのだ。ゴトリと頭部が床に落ち、身体は頭が切り離された事を理解していないのかピクピクと動いてはいたが、やがて吹き出す血と共にバタリと倒れていった。


一瞬にして謁見室が赤一色の部屋へと塗り代わり、静寂に包まれる。部下を含めて生きている者はあまりの出来事にもはや意識を失う事も忘れて固まった。


 ま、魔女は和かに話を続け、アベールの地を植樹を対価にしている。これを見せられて拒否する事は出来ないだろう。そして復興も急げと。



私はすぐさま部下と共に王国の立て直しを図った。一刻も早くカイン様をお連れしたいが、王族唯一の生き残りだ。


内乱一歩手前の国内情勢を安定させ、カイン様をお迎えに行こうと私達は気を引き締めて、一部の貴族に荒らされた土地の回復や王宮内の新体制に力を入れた。


 魔女との約束通りアベールの地に種を蒔くと、その種には魔法が掛かっているかのように土に植えると同時に芽が出てシュルシュルと伸び始めた。3日もすると辺り一帯が森に変化していた。

魔獣の出るような森とは少し違う雰囲気がある。魔女はやはり摩訶不思議な存在だ。




 3ヶ月後、我々はカイン様を迎えに上がった。魔獣の出る森だと聞いていたが、魔獣は出る事なく、我々は魔女の家に辿り着く事が出来た。


「はぁい」


と扉の向こうから魔女の声が聞こえ、カイン様が扉を開けた。私を見るなり、カイン様はとても驚いている様子。カイン様は魔女の家に辿り着いた時には瀕死の怪我を負っていたと聞いたが、その影は無い。むしろ国を追われる前よりも凛々しく、生命力に溢れているような気さえする。


私は魔女の案内で部屋の中へと案内される。


「お久しぶりです。カイン様、お迎えに上がりました。魔女エキドナ様のご指示通り、3ヶ月で国の立て直しやアベール地方の森化を行いました」


魔女は予想していたのか、面白そうな仕草をしながらこちらを見ていた。


「あらあら、久しぶりね。案外早かったじゃない?カイン、お迎えよ。後は国に帰って頑張りなさいな」


カイン様は眉を顰めて


「エキドナ様、俺は帰るつもりはないです」


そう言った。とても魔女を信頼し、心地良く過ごされていたのだろう。


「あら、それは駄目よ?そこの宰相様は必死で貴方の為に動いていたのよ。とりあえず、国に帰りなさいな。

貴方にはそのネックレスがあるでしょう?大丈夫よ。ガロン、貴方は当分カインに付いて補佐をしなさいな」


魔女はカイン様に国に帰るように促す。カイン様は仕方がないと思ったのか魔女の言葉の通りに帰る準備をしている。


ガロンと言う男は何処からともなく現れ、カイン様に付いて行くという。カイン様は魔女に最後の挨拶をしているのを黙って見つめる。


魔女がカイン様をそっと抱き寄せ頬にキスをし、そっと耳元で何かを囁いていた。カイン様は耳を真っ赤にし、一礼をして私達は魔女の森を出た。



 国に帰ってからカイン様は新しい国王としての名に相応しく、王子時代より政治や軍について優秀で文句をつけようのない程の手腕を発揮し、賢王として有名となった。


やはり魔女様に保護された後、カイン陛下は魔女様に色々と学ばれたのだろうと考える。カイン陛下の師匠であるガロン殿も賢王として良い方向へとカイン陛下を導いておられた。


近々、正妃様と側妃様を迎える事になるが、それによりカイン陛下の苦悩を少しでも減らせれば良いのだが。


ガロン殿が去る時にカイン陛下は涙を堪えつつも苦悶の表情で耐えておられた。


魔女様やガロン殿にも感謝の念が絶えない。

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