第12話 母からの苦情

 最近のカインは以前にも増して鍛錬を行っているわ。午前中は鍛錬に励み、午後からはガロンによる勉強をみっちりとしているわ。


なんだかつまらないわ、暇なんですもの。

たまにカインの様子を覗き見るとカインの優秀さにびっくりするのよね。ガロンが嬉々として教えているのが分かる。


「ガロン、いつ仕上がるかしら?」


ガロンは宙を舞いながら考える素振りをしている。


「エイシャ様、わしの予想では後3ヶ月ですな」


「分かったわ。それと母からの手紙であの国の森にいるらしいのだけど、早急に手を打てと催促が来ているのよね。全くもって面倒な事だわ」


ガロンはシシシッと笑いながらお茶を淹れてくれる。たまにくる母からの手紙。曽祖母同様に我が一族は好き勝手に生きて、気ままに暮らしているのよね。

私はここに定住しているけれどね。あ、因みに私の父は曽祖母から引き継いで魔力が膨大なの。脳筋だけど。


 何処で接点があったのかは分からないけれど、人間達は神話を作ったりしているわ。物語に私達一族が出ていて、怪物としての話が出ているのよ。こんな美女を捕まえておいて全く失礼しちゃうわよね。


 そんな話はさておき、今日は久々に出かける事にするわ。


「ガロン、今日は出かけるわ。お母様の手紙もあったし、あの国をお母様の希望に添うように地均しをしてあの森で育つ卵を増やしに出かけないといけないの。カインの事を頼んだわよ?」


お茶を飲みながらガロンに話す。ガロンは人間の執事姿へとポンッと変身した。


「エイシャ様、1人で行かれるのですか?ワシは心配です。たかだか人間とは言え、エイシャ様に何かあればワシはエキドナ様に顔向け出来ませんからな」


「大丈夫よ。まぁ、何かあれば知らせをよこすわ」


私はガロンにそう言うと、カインの部屋へ入り、少し出てくると伝える。彼は付いて行きたいと言っていたけれど、今回はお留守番をお願いしたわ。


カインはしょんぼりしながら渋々承諾していた。


 私はいつものように魔法で足を作り、ローブを深々と被り、錫杖を持って転移魔法を唱える。カインは何処か心配そうな表情で見送りをしてくれていた。





「誰じゃ!」


目の前にいた白髪で顎髭の老人が驚いたように私に声をかけてきたわ。


「ふふっ。間違っていなければここはナタクール国の王宮であっているかしら?」


私は和かに老人に聞いた。老人は急に現れた私に驚いていたけれど、私の恰好を見てピンと来たらしい。


「私、ナタクール国の宰相であり、現在国王の代理を務めているファル・ヤーン・アローサと申します。お見受けするに魔女エキドナ様でございますか?」


「あらあら。宰相さんなの?丁度良かったわ。私は貴方を探していたのよ?」


 私は宰相と名乗る顎髭の初老と一緒に王の執務室から王宮の一室へと通された。一見豪華な作りの家具に目を奪われるけれど、問題はそこでは無いわ。


この部屋には魔法が仕掛けられているもの。防音と何かしら?攻撃する者を排除させるような魔法ね。人間にしては頑張っているわね。後で詳しく視てみようかしら。


 それはそうと、宰相を見た感じでは気の良いお爺さんという感じで王族を殺した大臣達を捕まえて処刑し始めてるようには見えないわ。所為、狸ジジイとはこういう人の事なのかしら?


宰相がお茶を淹れてくれる。上手に淹れるのね。美味しいわ。


「魔女エキドナ様、先日サン国の王子から連絡を受けました。カイン様を保護して下さっていると。有難う御座います」


宰相は深々と頭を下げている。


「あらぁ。保護?確かにあの子を拾ったけれど、あの子は私の従者になりたいと張り切っているわ。国に戻る気なんてあるのかしら?」


私はニコニコお茶を飲みながら宰相に言葉を返す。


「魔女エキドナ様の家がカイン様にとって居心地の良い場所で良かった。今は内乱を平定中ですので全てが終わりましたらお迎えに上がるとしますかな」


「ふふっ。カインは皆に思われていて幸せなのね。ところで聞きたいのだけれど、内乱はいつ終わるのかしら?」


「保ってあと半年でしょうか」


半年ね。やはり人間に任せると少し時間がかかるわね。産卵期には間に合わせたいのよね。


「遅いわ。3ヶ月で何とかして頂戴な。私に苦情が来ているのよ」


「そう申し上げられても、幾分向こうは兵士を沢山抱えておりますゆえ、すぐには無理かと」


私は指を顎に付けて考えるふりをする。


「そうだわ。私が協力してあげるわ。対価は頂くけれど。反抗的な貴族とその一族諸共根絶やしにすれば良いのでしょう?今からやれば残りの3ヶ月は復興に回せるわ」


 宰相は目を見開いていた。まさかこんなに美人な魔女が手伝うとは思っても見なかったみたいね。


「さぁ、急いで処刑リストを持ってきて頂戴な」


宰相は動揺している様子ではあるけれど、側近従者に指示をしてリストを持って来させる。


「仕事が早い男は好きよ。ふふっ。では早速行きましょうか、宰相様」


私はリストを受け取ると早速目を通した。上から順番に始末していけば良いわね。私は立ち上がり宰相の横につく。錫杖で床を軽く叩くとシャランと鳴った音と共に床には魔法陣が浮かび上がる。


パッと一瞬で景色が変わると横にいた宰相は目を溢しそうなほど驚いていた。何故ならそこには処刑リスト第一位の大臣とその家族が目の前で食事をしていたからだ。


「あらあら。皆様お集まりで良かったわぁ。手間が省けていいわ。素敵よ」


 執事は突然現れた私達に向けてナイフを投げたけれど、ナイフは透明な壁があるかのようにカランと音をたてて床に落ちた。執事は優秀なのねぇ。


私はふっと口角を上げ錫杖で床をトンっと突く。その場にいた宰相以外の者は身体に輪が巻き付いたような簀巻きにされたような恰好となり、抵抗する間もなく床に転がった。


「あら、もう終わりかしら。何か反撃があると思ったのに。残念、ガッカリだったわ」


私は頬に手を当て困ってような仕草をしてみる。宰相は冷ややかな目で見ていた気がするわ。


「さぁ、宰相様。この簀巻きは謁見室に送るから次へ行きましょう?」


パチンッと指を鳴らすと拘束された者は消え、私はまたシャランと鳴る音と共に次へ転移した。

転移しては捕縛する事を幾度も同じ事を繰り返し、リストの者全てを捕らえた。


「宰相様、終わりましたわ?謁見室へ戻りましょう。」


 煌びやかな謁見室に似つかわしく無い拘束された者達。謀叛を企てた者とその親族一同を捕らえたのだから50名は優に超え、謁見室は拘束された人でひしめきあっていた。


宰相の部下達は拘束された者達の顔を確認し、全員リストと合っていると報告しているわ。拘束された者の中には私達を見るなり顔を真っ赤にして叫び、謁見室は騒然となっていた。


「あらあら、うるさいわね」


私はそう言うとパチッと指を鳴らす。すると、拘束されていた者全ての頭が転がった。切り口からは血が吹き出し、会場中が血の海へと変わり辺りは一瞬にして静けさが漂った。


「ふふっ。宰相様、楽しい時間でしたわね。これで国も静かになったでしょう?」


宰相やその場にいた貴族や騎士達は青い顔を通り越して白い顔をしている。


「さて、対価は、そうねぇ。アベール地方は先程まで兵士達が駐留していて一帯の森が焼かれて困っていたのよ。アベール地方の3分の1を森にしてくださいな。種はこの袋の中に入っているわ。あとは復興をお願いね?」


「魔女様、本当にそれで良いのですか。約束通りアベール地方は植樹や種蒔きをさせて頂きます。復興した後にカイン様をお迎えに上がります」


「分かったわ。カインが望むならね。じゃあ、私はこれで」


私は沢山の種が入った袋を宰相に渡すと錫杖を鳴らして王宮を後にした。




「お嬢様、おかえりなさいませ。」


ガロンは人間の大きさのまま出迎えてくれた。


「ただいま。ガロン。カインは?」


「お嬢様が連れて行かなかったせいですよ。不貞腐れて捗りもしない勉強しております。」


ふふっ。カインはまだまだ子供なのね。


私はカインの部屋に向かう。カインはガロンから言われた勉強に取り組んでいたわ。


「カイン、ただいま。勉強は捗っている?」


「エキドナ様。お帰りなさい。勉強の方は、まぁまぁです。」


何となくカインからは連れて行かなかった不満がドロドロと漏れてきそうな雰囲気だわ。


「そう。お土産よ?これでやる気を出しなさいな。」


私はそう言って1本の万年筆をカインに渡す。カインは疑問に思ったようだが、その万年筆を受け取ると、しばらくじっと見つめていた。

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