第10話 サン国の王子

 ふぁぁっ。今朝は少し眠いわ。薬草達のお世話もひと段落ついて私は部屋に入り読書をしている。

最近ではカインはゴーレムを壊しそうな勢いなのよね。そろそろ頃合いね。私は1匹の妖精の姿をした生き物を召喚する。


「エイシャ様、お久しぶりでございます。ワシは今か今かと呼び出しを待っておったのですぞ?」


私の周りをヒョイっと飛び回りながら口煩く喋っている。


「私も呼び出そうとは思っていたのよ?けれど忙しくしていてね。今日呼び出したのはガロンに家庭教師になって貰いたい子がいるのよ」


ガロンは小言を並べているが私が頼みたいと言うと嬉しそうに髭を撫でている。


「ほほぉ。エイシャ様のお気に入りですかな」


私はガロンと共に庭に出向き、カインにガロンを紹介する。カインは何事か分かっていなかったけれど、ガロンも私と同様に彼を気に入ったようだわ。


早速彼の肩に乗り指導が始まった。


「ワシに掛かればお前さんは剣聖でも世界一の施政者でも成れるのだ。有難き幸せと思え」


ふふっ。もう大丈夫ね。


カインは学生のようにまた剣術から勉強まで一から叩き直されるわね。私は上機嫌で部屋に戻り読書を再開した。



ー コンコン ー 


私は本を棚に戻してから


「はぁい」


と返事をして扉を開ける。


「どなたかしら?」


そう口にすると扉の前にいた3人の男達の内、1番立派な服装をした男が私を見ると、目をカッと見開き微動だにしなくなったわ。

動かない様子を心配した男の1人がそっと声を掛けるとアワアワと口が動き、声を発する。


「魔女殿、我が兄を見て欲しい」


と口を開き、手を取ろうとする。その様子に後にいる男達も慌てているわ。


「ふふっ。そんなに焦らないで?まずはお茶でも飲みましょう。カイン。お茶を淹れて頂戴な」


庭に居たカインを呼び、私達は部屋に入る。


「まぁ、そこにお掛けになって?」


私は椅子に座るように促すと、男が1人座り、残りの2人は後で立っている。後の2人は護衛なのね。


カインと同じくらいの歳かしら?


そう考えていると、カインがガロンを肩に乗せたまま部屋に入ってくる。


「さて、私にお兄さんを見て欲しいんでしたっけ」


私が話をしようと口を開いた時にカインがお茶を出してくれる。良い香りね。


男はお茶を淹れてくれたカインを一目みるなりまた目を見開く。


「カイン、お前・・・生きていたのか」


「魔女エキドナ様のおかげでな」


カインは男に向けてふっと微笑む。


「あらあら、知り合いだったのね。ところで、貴方のお兄さんはどういった事で私に見て欲しいの?」


男は私に向き直り、恐縮したように話をし始める。


「はい。魔女エキドナ様。私、サン国の第三王子、サウルと言います。


私の兄である第一王子のエゼルは何かに取り憑かれたように現在使われていない後宮へと通い、睡眠も食事も最低限しか摂っていないようで目の下は窪み、頬は窶れ痩せ細る一方なのです。


私や家族が注意をしても聞こえないようでふらふらと出て行くのです。聖女にも診せたのですが、呪いや毒では無いようなのです。

兄の側近達も同じ症状があり、どうしたものかと困っているのです」


私は水晶を取り寄せ覗く。


「ふぅん。良いんじゃない?彼等は楽しそうよ?」


ニコリと私は微笑みながらサウルに伝える。サウルは断られると思ったのか眉を下げてシュンとしている。


「いいわよ?治してあげても。でも、対価として私は何が頂けるのかしら?」


頬杖をついてふふっと笑う。視線をカインに向けるとカインは無表情だわ。


・・・面白いわ。


サウルは待ってましたとばかりにこちらを見つめている。サウルが犬だったら尻尾をブンブンと大きく振っていると思うわ。


「勿論対価は用意してあります。これではどうでしょうか?」


サウルが取り出したのは透明な液体と血液のような液体の入った瓶。私は手に取ると魔力を流してみる。


キラキラと魔力に反応して光を出す透明な液体。空気に晒しても凝固しない血液。


「これは人魚の涙と血液ね。面白い物を持っているじゃない。良いわ、薬を作ってあげる。しばらく待ってね。その間、カインと積もる話をしてるといいわ。」


 私は席を立つと釜の前で薬草棚から薬草を取り出し、薬草を入れていく。サウルはこちらを興味深く見ているようだったが、カインの事も気になるようでカインと話をし始めていたわ。


ガロンは『姫様忘れ物ですぞ』っとカインから離れ、ユニコーンの涙を釜に投げ込む。私は素材を入れてから呪文を唱えながら掻き混ぜる。


暫くすると、釜は淡い青色になり完成する。私は瓶に詰めてサウルに声を掛ける。


「出来たわよ。この瓶の中身を月夜の晩にひと匙飲ませなさい。そうね、それを1週間ほど繰り返せば元に戻るわ。けれど、暴れるかもしれないから拘束は必要よ?」


 サウルは瓶を受け取るとカインに『またな』と告げて帰って行った。


「カイン、話は終わったの?サウルに付いて行かなくて良かったのかしら?」


「ええ。私にはやる事が有りますので」


カインは真面目な顔でそう答えるが、横からガロンはカインの肩に飛び乗り、童、童と髪の毛を引っ張ってどこか最後まで締まらなかった。

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