第8話 ストロベリーブロンドの娘

 今日もカインは早朝から鍛錬を行っている。どうやら本気で私の護衛になりたいと思っているのかも知れないわね。


人間って飼うのは面倒だと思っていたけれど、居れば居たで面白いのね。私はカインの鍛錬に手を貸す事にしたわ。


体の調子が良くなったカインは森を自由に歩けるのだけれど、鍛錬の一環として魔獣を狩りたいと言ってきたの。


カインの鍛錬を見るに、まぁ程々には倒せるけれど、森の奥に潜む物にはまだまだ敵わない。


だから私のゴーレムを出してあげたの。素敵でしょう?


「カイン、よく見ておいて。このゴーレムちゃんはね~カインの強さに合わせて攻撃してくれるわ。これを貸してあげる。壊れるまで頑張ってみてね?」


カインは土人形を見て不思議そうな顔をしていたけれど、使い方の説明をしたら理解したのかとても喜んでいたわ。


犬の尻尾がブンブンと振っているように見えた気がするもの。


ゴーレムを与えてからのカインは嬉々として剣術の練習を行うようになったの。


 私は部屋に戻ると魔法郵便の整理をする。たまに友人や家族から魔法郵便が届くのよね。


内容は薬を寄越せが大半だけれど。今し方来た曽祖母からの手紙は海底王国で客人として海の中で滞在しているらしいわ。曽祖母らしい。


ー コンコン ー


「はぁい」


私はいつものように扉を開けるとそこには若い娘が一人立っていた。ストロベリーブロンドで一般的に可愛いと言われるであろう顔つきをした若い娘。


その娘は私にニコリと微笑んで


「魔女様のお家ですか?」


と聞いてきたわ。一人でこの森に入るなんて見かけに寄らず豪胆なのね。


「あら、そうよ。さぁ、こちらにいらっしゃいな。」


私は手招きをして部屋に入れると娘を椅子に座らせる。後から部屋に入ってきたカインは黙ってお茶を淹れてくれた。


その手付きはやはりいつ見ても上品ね。ストロベリーブロンドの娘はカインを見るなり、目を潤ませて上目遣いに見ているわ。


あらあら、挿れてくれた紅茶のカップを取るついでにカインの手を触って。格好良い男には目がないのね。ふふっ。


「さて、ご用は何かしら?」


私はカインに視線を向けながら女の子にここに来た訳を聞いてみる。カインは私と視線が合うとニコリと微笑んでみせた。


この娘には全く興味が無さそうだわ。まぁ、この手の娘は沢山居たでしょうから興味も湧かないのね。


「はいっ。魔女様、惚れ薬が欲しいです。飲ませたい人がいるの。とびきりのやつがいいわ!」


「惚れ薬ねぇ。いいわよ?対価は後で頂くからいいわ。少し待っていてね。」


私は立ち上がり、釜に魔法液と数種類の薬草を混ぜる。そしてナイフで指を傷付け、釜の中にポタリと血液を流し呪文を唱える。


すると液体は淡いピンク色を帯び、甘い香りが一面に漂い始めた。


そろそろね。


私は出来上がった液を掬い小瓶に詰める。


「さぁ、出来たわよ。これをお持ちなさいな。飲み物でも食べ物でも混ぜて体内に取り込ませてからニコリと笑えば大丈夫よ。使い過ぎないようにね。」


娘に手渡すと娘は目の色を変え、


「これで王子は私の物よ。」


そう口から言葉を溢し、軽い会釈をしていそいそと帰っていった。


「エキドナ様、女って怖いですね。」


娘の様子を見ていたカインは少し引いていたわ。


「ふふっ。可愛い娘だったわねぇ。」




・・・ひと月後。


「面白い事になっているわ。カインも一緒に水晶を覗いてご覧なさいな。」


そう私が促すとカインは向かい側に座り、水晶を覗いている。カインは眉を顰めて溜息を吐いていた。


「さて、カイン。私は彼女から対価を回収しに行ってくるわ。貴方もくる?」


カインは黙って頷く。いつものように私は魔法で尾を足に変えてローブを深々と被り、錫杖を持つ。


「カイン、私の手を取りなさい。」


カインは差し出された手をそっと取ると同時に私は転移呪文を唱えた。


「・・・ここは王宮の一室、ですか?」


「ふふっ。惜しいわ。ここは後宮の片隅にある部屋よ。」


私とカインが話しているとストロベリーブロンドの娘は私達に気づいたようで駆け寄ろうとしたが、鎖で繋がれていたためジャラジャラと鎖の鳴る音がしただけだった。


「あんたどういう事!!酷いわっ。私を外に出して頂戴!」


「あらあら、可愛いお嬢様。どうしたのかしら?」


「惚れ薬を王太子や格好いい側近達に使ったらここに監禁されて毎日娼婦のように抱かれているのよ!こんなの聞いてない!」


「ふふっ。おバカさんね。私は注意したでしょう?使い過ぎないようにって。それに、ここに来たのは対価を貰うためよ?まだ貴方から対価を頂いていないもの。」


ストロベリーブロンドの娘は喚きながら私に逃がせと言っているわ。


「可愛いお嬢様。対価はその宝石のような目を頂くわ。大丈夫、痛くないし、目が見えなくても彼等は変わらずに貴方を愛してくれるわ。」


私はそっと目元に触れて魔法で目を取り出すと持っていた瓶に目玉を入れる。


「では私はこれで。さようなら、可愛いお嬢様。あぁ、忘れていたわ。貴方はもう私の事を口に出さないようにね?その可愛い声が枯れてしまうわ。気をつけてね。」


ニコリと微笑み転移で部屋に戻るとカインがすかさずお茶を淹れてくれたわ。気遣いはばっちりね。


カインは一言、


「やっぱり女って怖い。」


と溢していたわ。

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