第6話 魔女の弟子

 さて、今日も早朝から薬草のお手入れをして、朝食の準備をしなくてはね。


ここ最近、カインは体力作りと剣の練習をしたいと家の前で鍛錬に励んでいる。カインは望んで家に来た訳ではないので、森の魔獣達が襲いかからないように小さな赤い魔石を金で細工した魔女特製ネックレスを渡したわ。

これがあれば森で迷わないし、魔獣が襲いかかる事も無い。


 午前中はカインは家の周りで鍛錬を行い、家に戻ると私に食後の一杯と称してお茶を淹れてくれるの。

本人は色々と従者のようにやりたいようだけれど、他の雑用をやらせると不器用過ぎて駄目だったわ。


けれど、お茶はとても上手に淹れるのよね。そこは評価してあげないとね。



ー トントントン ー



 本日のお客はどんな悩みを持って来ているのかしら。


「はぁい」


扉を開けるとそこには一人のローブを着た30代位だろうか、少し膨よかな男が立っていた。


「魔女エキドナ様のお宅でしょうか?」


「ええ、そうよ。まぁ、入りなさい」


私はそう言って男を家に入れ、椅子に座らせる。何故だか外に鍛錬に出ていたカインは外での訓練を止めてそっと部屋の中に入り私の後でジッと立っているわ。


ふふっ。護衛のつもりなのかしら。可愛いわね。


「で、ご用は何かしら?」


「魔女エキドナ様に魔法の師匠となって頂きたいのです」


魔法の師匠?この私が?


「ふふっ。可笑しな事を言うのね。私が弟子を取る?ふふっ。久々に可笑しな冗談で笑ってしまったわ」


笑っている私を見てローブの男が顔を真っ赤にして詰め寄る。


「冗談ではありません。私は国1番の魔法の使い手。エキドナ様の弟子に最も相応しいのです」


「あらあら。貴方が国1番の使い手なの?それは素敵な事ね。いいじゃない国1番って誇らしいわよ?残念だけど、私は弟子を取る予定は無いのよねぇ」


わざとらしく顔に手を当てて言うと、その言葉を聞いた男は立ち上がり、私の前で土下座する。


「魔女エキドナ様。是非、私を弟子にして下さい」


「あらあら、聞いていなかったのかしら?」


 男は涙を浮かべて私の尾にしがみつこうとしている。その様子を黙って見ていたカインが止めに入ろうとするが、私は手で制止する。


「仕方がないわねぇ。弟子になれるか診てあげるわ。私の弟子になるにはある程度の魔力が必要なの」


ふわりと棚から箱が浮き、男の前に差し出される。


「この種を額に付けなさいな。この種が魔力量を判断してくれるの。一定の魔力に達していなければ弟子にはなれないわ。諦めてちょうだい。けれど、魔力が足りないとこの種が魔力を貴方に補ってくれるわ。


弟子になれなくても魔力量が上がればそれだけで 箔 が付くわよ?魔力が足りていれば補う事なく種は額から落ちるの。1週間したならまたここに来なさいな」


私はニコリと笑を浮かべると男は喜び、種を額に付けた。


「さぁ、カイン。彼を森の外まで案内して頂戴。森の中では彼と離れては駄目よ?」


カインは無言のまま頷きローブを着た男を連れて行く。ふふっ。1週間後が楽しみだわ。

さてさて、彼は弟子となるのかしら?暫くしてカインが家に戻ってくる。珍しく憮然とした表情で口を開いた。


「エキドナ様、アイツを弟子にするのですか?」


「あら。カインは焼き餅を焼いているのかしら?ふふっ。弟子になれるかは彼次第かしらぁ?楽しみね、1週間後が。」




そして1週間が過ぎた約束の日。


この1週間、私はわくわくしながら待っていたの。

彼がどんな変貌を遂げたのか。


ー ドンッドンッ ー


 カインが私の代わりに扉を開けると、そこにはギョロリと目玉がこちらを見ていた。姿はグールのように爛れた皮膚で狼男のような出立ちの魔獣がそこに居た。カインは驚き、動きを止める。


「あらっ、カイン。お客かしら?」


私は機嫌良く玄関へ向かう。


「ググッ。キタゾ。…弟子に、なりに」


「あらあら。1週間前の彼?随分と変わったのね。素敵よ。でも残念だけど、弟子にするにはまだまだ魔力が足りなかったみたいね。ごめんなさいね。不合格よ」


私はパチリと指を鳴らすと扉がバタンと閉まる。扉の向こうからは唸り声と共に扉や壁を叩く音が響いていたが、暫くするとまた元の静けさに戻っていた。


唖然としているカイン。ふふっ、そんな顔も可愛いわ。


「エキドナ様、彼はどうしてああなってしまったのですか?」


「あら聞きたいの?教えてあげるからお茶を淹れて頂戴。」


私はニコニコしながらお茶を待つ。カインはお茶の用意をして私の向かいの椅子に座った。


「ふふっ。楽しかったわ。だってグールみたいなんだもの。彼に渡したのは聖魔獣の種なの。


あの種を取り込むと聖獣にもなるし、魔獣にもなるのよ。邪な考えをしていれば魔獣側に、反対に真っ直ぐで清らかな心であれば聖獣になる素敵な種なのよ。


もちろん、人間のままでいるには種を発芽させないように種を魔力を注ぐ必要があるの。彼の魔力は足りなかったのね。


発芽させちゃったからにはどちらかになる運命なのよね。素敵でしょう?」


カインは何故か青い顔をしているわ。


「彼は、扉を閉めてから静かになりましたがどうなったのですか?」


「気になる?彼は森の中へ取り込まれて他の魔獣と一緒に暮らす事になっているわ。大丈夫よ。

思考力も時間と共に魔獣へと変化するから人間だった記憶も無くなるし平気よ。 


幸せに暮らせるわ」

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