Beautiful

「泣くんじゃねえ、泣くんじゃねえっつてんだろ」

 男がいくら言葉を重ねても、不動はつねが泣き止む様子はない。

 男、竜海龍之は焦っていた。いままで、女は泣かせても、その後のアフターケアなんてしたことなかったものだから、どうしたらいいのかまったくもって分からないのだ。

「ねえ、ぐすっ、恋ってこんな苦しいの?」

 不動の顔がひどいことになっている。涙も鼻水も垂れ流し、メイクも崩れて、まるで山姥か祟り神のようだ。

「それだったらオレはおまえに苦しめられてるなぁ」

「……冗談でしょ?」

「オレがおまえに嘘吐いたこと、あるか?」

「両手の指と両足の指を合わせても足りないくらいには」

「そりゃ、すまん。けど、オレ、今回は本気だから」

「もう、やめてよ。本気で惚れそうだから」

「惚れてもいいぜ」

「やぁらぁ」

 くしゃっと顔を歪めて笑うブサイクな不動。しかし、ブサイクだなぁ。

「あたし、兄貴の隣に立てるような子じゃないもの。せいぜいが周回遅れで並ぶってくらい。全然追いつけないの」

「それがどうした」

「だからさ、あたしが兄貴と肩並べられるくらいになったら、そんときはよろしくお願いします」

 にへらと顔をほころびさせる彼女。

 竜海は照れたみたいに顔を背けて、頭をかいた。

「その、なんだ。おまえ、他人の評価でそういうの決めんなよ」

「なんでよ」

「他人の評価なんてあてにならん。酒のあてにもな」

 このジョークが伝わらなかったのか、不動はポカンと口を開けて、ブサイクな顔をさらしている。

「この話は、オレとおまえ、登場人物が二人だけなんだぜ。外野がおまえとオレが釣り合わねえって言ったって関係ねえ。そんなん、言わせんな」

 竜海は不動に顔を近づけて、額と額をくっつけた。

「ち、近いって……」

「自分に正直になれよ」

 竜海は不動の真っ黒な瞳に映る自分を見つめた。自分に言い聞かせるように、言葉を続ける。

「おまえはおまえ。他人のレビューを気にすんな。自分は自分だ」

「そう、だね。兄貴、ありがと」

 不動は鼻をすすって、相変わらずのブサイクな顔を竜海に見せた。

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