Where Are You Now

「はつねって昔からそんな人だったけ?」

 松井昴はポツリと不動はつねに尋ねた。

「そんな人、ってどんな人?」

 首をかしげるのは今も変わらず好きな人。

「なんていうかさぁ、あんまりオレうまく言えないんだけど、キレイになったんじゃないかって。あ、いや、昔がダメだったとかそういうんじゃなくて」

「うん。だって、私、恋してるもん」

 恋。恋だって? 松井は目を見開いて硬直した。

 きっと自分じゃないだろうな。こんなぷよぷよで、まるでフグのような男、好きになってもらえるはずがないもの。

「こ、コイって、あの鯉? 魚の?」

 そんなはずがない。そんなはずはないのだ。ただ、彼女が言ったことを認めたくなかっただけ。

「文脈考えなよ」

 そんな松井を小馬鹿にするようにくすくすと笑った彼女は、可愛かった。

 ああ、恋とやらをしているのだ、と。頭の足りない松井にも理解できた。

「相手はどんな人なの? オレ、応援するよ」

「ありがとう。えっとね、素敵な人なの」

「カッコいい人?」

「うん」

「もしかして、オレも知ってる人?」

 不動は身体を縮めて、こくんとうなずいた。

「それじゃあ勝ち目なんかないじゃないか。君の周りの人はすごく素敵で、すごくカッコいい。オレは君に気持ちを伝えられないくらい臆病で、君とは釣り合わないくらい太ってる。どうしたって、君とは釣り合わない」

 松井は早口でつばを飛ばしながらまくし立てる。

「どうしたのよ、急に」

「オレは、オレは……」

 目から、鼻から汁が漏れる。不動がハンカチでいくら拭いても、無くならない。

「オレはおまえが好きだったんだよぉー!」

「好き『だった』? じゃ、今は?」

「嫌い、嫌い、嫌いー! 恋なんてするんじゃねえよお。今までの不動はつねはどこに行ったんだ! 返せ、返せ、戻ってこいよぅ」

「返せったってあたしはあたし。あたし以外あたしじゃないの。当たり前だけど、ね」

 さらりとなんでもないように言う不動。彼女のこういうところが好きだった。

 君が必要なんだ、と言えたら、どれだけよかったか。

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