Closer

「君ってちっとも変わらないね」

「バカにしてる?」

 男の言葉に眉をひそめる彼女はちょっぴり大人になっていた。

「さあね。君が思うようにまかせるよ」

  男、瓜実ヒロはくすくす笑った。

「相変わらずって言葉はあんたのほうが似合うんじゃないの、ヒロ」

「そう?」

「その何言ってるか分かんないトコとかさ」

「ふうん」

 なるべくクールに、興味なさそうに頷く。まともに彼女を見たらむっつりと押し黙ってしまいそうだったから。

 不動とは、4年前に別れてから一度も会っていなかった。

 なのに、どうしてこんな場所で。

「ヒロ、こんなトコ来るんだ」

「流石にあの頃とは違うさ。俺だって成長する」

「ふうん」

 どうでもよさそうに、自分じゃない、他の男の酒を飲む不動の横顔が、昔と変わらなく見えたのは気のせいか。その唇に触れるものが自分の唇であったら……と、ぼんやり、瓜実は思った。

「一人?」

「見りゃ分かるでしょ? 一人。フラれたの、今さっき」

「それにしちゃあ冷静だね」

「昔の男の前で涙を流すほどバカな女じゃないよ」

 そういう不動の目は潤んで、涙腺は今にも決壊しそうだ。

 だが、慰める資格を瓜実は持っていなかった。少なくとも今は。

「あーぁ、フラれっちゃった」

「ね、そんなヤツやめて俺にしなよって言ったら笑う?」

 不動は目を丸くして、瓜実を見つめる。

「……笑える、かな。笑えたらいいね」

「笑って、とは言わないけど。君は笑ってるほうが素敵だから」

 昔は彼女の笑顔ばかり見ていた。それが今では懐かしい。

 不動は指で頬を引っ張って、むりやり口角を上げた。

「にーっ」

「にーっ」

 不動の真似をして、指で頬を引っ張る。

 そんなバカバカしいことをしていたら、なんだかおかしくなって、二人して昔みたいに笑った。相変わらずである。相変わらずのことだ。

「笑ったけど、今のあたしって素敵?」

 あははと笑う不動は、確かに素敵だった。

「さあね、君が思うようにまかせるよ」

 だから、教えてやらない。

 素敵だ、愛してる、なんて言ってやらない。

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