Marry You
「惚れた男と結婚するのと、惚れてない男と結婚するのとじゃあ、断然、惚れてない男と結婚するほうがいいね。なあ、不動?」
「それに対してあたしが答えるとするなら、惚れられてる惚れた男と結婚するのがいいんじゃないか、ってんですけど」
「つまらねえ女だな、おまえは」
つまらない女で結構ですと言わんばかりに成田和哉を見つめるのは不動はつね。
「飲み過ぎだよ、あんた。明日仕事は?」
「仕事? やめだ、やめだ、あんなくだらない野郎の話なんかするんじゃねぇ」
赤ら顔でそうのたまう成田。
そこら中から「そうだそうだ」「労働なんかくそくらえ」「金だけ寄越せ」と歓声、歓声、拍手喝采、舞う座布団。
「呆れた。ま、人それぞれの価値観だし」
「しかし、不動よぅ」
「あぁ? 今度は何?」
「仕事に浮気たぁ、おめえも悪女だなぁ」
「知ってる? あたしの正妻は仕事。愛人は男。それだけ」
「他にも男がいんのかよ。この浮気者、不倫中毒、純愛撲滅主義者」
「はいはい」
車で来たからと酒を一滴も口にしない不動を成田は睨みつける。
どっちも酔ってるからこそ言えることがある。酔っていないと言えないことがある。それをこの女は言わせない。なんてズルい女だ。
男はいるのか? 恋をしているのか? 聞きたいことばかりなのに、この女は。
「俺のことは遊びだったのかよぅ」
カウンターに突っ伏す成田。その目からはまるでダムの放水のように水が吹き出した。鼻水もカウンターを汚す。アラサー男の体液にはなんの価値もないというのに。
「遊びだったらもっと丁寧に扱ってるわ。それこそ自分の子供のように」
「最低だ、最低だよ、この女」
「勝手に言ってな」
「勝手に言ってるよぅ」
成田は胸にこみ上げてくるのは吐き気か彼女への言葉か、分からなくなった。
今にも吐きそうだけれど、不動の前だ。男にはプライドというものがあった。
「……オレがここにゲロをぶちまけたら結婚してくれるか?」
「はあ?」
ポカンと理解できずに口を開ける不動。
こういう日常が成田は好きだ。
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