What Makes You Beautiful
女の夢を見た。
「アハ、アハ、アハハハハハ、ハァハァ、ハハハ……」
思わず、涙と空虚な笑いがこみ上げてきた。
嬉しいのか悲しいのか楽しいのか哀しいのかさっぱりだ。むしろ、これは感情から来るものではなく、生理的な自分ではどうにもできないものなのかもしれない。
そりゃあいい。そりゃあ都合がいい。福嶋裕而はそう思った。
ガタンと玄関のほうで物音がした。そこには女が立っていた。
垢抜けない眼鏡をかけた女、不動はつねこそがあの女だ。彼女が福嶋の夢にまで現れて、福嶋の脳内を支配している。
「夢で会ったな」
「なによ、それ。こう答えればいいの? 『それって恋じゃない?』って」
「別にいいよ、気にしなくて」
「そう言われると気になるなぁ…」
「悪い悪い。なんでもないから」
不動は、そう、とぶっきらぼうに呟いて、持ってきたレジ袋の中からコーラのペットボトルを一本取り出し、すぐにフタを開けて、そのまま中身を一息に胃に流し込む。
「美味いの?」
「普通」
「じゃあ、どれ、寄越せ」
あ、という声を漏らす不動の手から中身が半分に減ったコーラのペットボトルをかっぱらい、一口だけ口に含む。やはり、甘い。リップクリームの味とコーラの味が混ざって美味いとは決して言えなかった。
「不味いな」
「じゃあ、飲まないでよ」
不動は福嶋の手からペットボトルを乱暴に奪い返す。
福嶋は思う。女という未知の生物は砂糖とスパイスと素敵な何かで出来ているらしいが、この不動という女に限っては違う、と。
「愛してるぜ」
「そこに愛はあるんか? ってね」
そうくすくす笑う不動につられ、福嶋も笑い出す。
今はいい。今のうちはそれで誤魔化されてやる。
けど、いつかは――――。なんて、想像もしたりするけれど。……この距離が心地いいと思うのは福嶋が臆病だからなのか。
福嶋は思う。不動という女は、コーラとジョークと幻想で出来ている、と。
だから、彼女は素敵なのだと。
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