You Are Not Alone
これは予習的復讐なのだ。不動はつねという女が去る前の。
彼女はサヨナラも言わずに雪浦のもとを去っていくだろう。
何故、自分のもとを去るのか? 分からない、分からないが、いつかその日は来る。
「はつね、アタシってバカね」
女々しい口調に、女々しい格好、女々しい性格。そんな自分を彼女は好きと言う。けど、物珍しいからそう言うだけで、いつかは飽きて……。そんな、偏見まみれの想像ばかりが浮かんで消える。
「姉やんがバカならあたしはなんになるんだろうね?」
カラカラとベッドの上で笑う不動。そんな彼女が愛しくて愛しくて嫌いだ。
男の雪浦を簡単に自分の部屋にあげて、自分はベッドに横たわる。
卑怯じゃないか。卑怯すぎる。こんな試すようなことをして。
「あたし、姉やんがバカでも好きよ?」
ああ、もう。笑うあなたが憎らしい。
「都合良くあって欲しい。アタシのものでいて欲しい。そうならば、あなたを手放さない為の理由になるから。あなたに都合良く、あなたのものになれる理由になるから」――と、言いかけ、止めた。
これは、予習的復習なのだ。欲望に身を任せて彼女を傷つける未来の自分への。
「ね、今度の誕生日は、木綿のハンカチーフが欲しいわ」
「え、流行りのバッグとか、アクセサリーじゃないの?」
「そんなもの、あなたが買えるとは思えないけど」
「頑張れば、ギリギリのギリってかんじだけど、頑張る…」
「あなたって本当にバカねぇ」
だから、あなたを嫌いきれないし、憎みきれない。
雪浦は目を穏やかに細める。不動の左手を優しく握りしめて、薬指に顔を寄せた。
「なんか、こういうの流行ってるの?」
「さあね」
そんな退屈なことは聞きたくない。
彼女の耳元でこうささやく。
「ね、あなたは一人じゃないのよ。アタシはあなたと一緒にいるわ。アタシはずっと、あなたの側にいるわ」
「なぁに、ストーカー宣言?」
「イヤ?」
「実際にはやらないでね。トイレとかお風呂とか、そこはプライベートだから」
「分かってるわよ」
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