第17話 情報収集

 噂には相応に押さえておかねばならないポイントがある。ひとの意図や思惑が根底にあるだけに、いつ何時も流行るものじゃない。


 流行り廃りがあるのだ。 


 どうがんばろうと、大きな噂がある間は小さな噂が流行るべくもない。だから噂を流すタイミングが重要になってくる。


 そして代わり映えしない噂はすぐに飽きられる。人は尾が生えるから興味をもち、誰かに伝えたく思うもの。勝手に変化して広まるわけじゃない。面白く変化したからこそ広まっていくのだ。


 つまり噂を広める為には楽しませる必要があるということ。楽しませ方は様々だ。明るく朗らかな物、暗くてあさましい物。


 加えて、誰がその噂を流したのかが重要なポイントになる。よく噂話の起点になる友達の友達は本当に存在するのかどうか。よく吟味して考える必要がある。


 悩み抜いた末、導きだした答えは。


 卵焼きをぱくりとひと口。追って白米。うん、美味しい。と舌鼓を打った。


 ただ今、昼休み中なのである。


 昼休みはもっとも噂の飛び交う時間帯。放課後と違い、生徒は学内に留まるという厳格なルールがあるせいだろう。


 同じ顔ぶれでの会話は、いつしか話題も枯れるのが自然の理。そこから向かう先はそう多くない。大概は同じ場所へとたどり着く。人の噂に花を咲かし始めるわけだ。


 というわけで、目下情報集めの真っ只中だった。思いどおりの噂を流す為にまずは噂を知っておかなきゃいけない。


 卵焼きに注力していたい所だけど、学友の話にも耳を傾けるとしようじゃないか。さてと、いまはどんな噂が蔓延っているのかなっと。


 最後の卵焼きをほおばり、耳を傾ける。大手を振って調べ周るわけにはいかない。秘密裏に、目立たぬよう、黒幕らしく。


「それでさ、昨日言いそびれた芸能人の話なんだけどな」


 小林くんは熱くスキャンダルを語った。おしゃべりな友人はこういう時に心強い。噂話をかき集めてきてくれる。うんうん、と相槌を打ちながら噂話をたずねていく。


 芸能人の話はそこそこで収めてもらい、ぼくが知りたかった学内の話をしてもらう。根を掘り、葉を掘り、細部までをより詳しく。やがては全貌がみえるまで、噂の主の顔が透けるようにと。


「じゃあこの話は聞いたか? バスケ部で揉め事があったんだ。何でも先生に食って掛かったやつがいたらしいぞ」


 運動部のいざこざ。


「後か、後はそうだ。見たって聞いたな。いじめだよ。あれは絶対にいじめだって。何年生かって? さあ、そこまでは知らないけど」


 いじめらしき騒動。


「隣のクラスの大木、三年の先輩に告ったんだってさ。しかも、OKもらったってよ。羨ましいよな。でも意外っちゃ、意外か。あの先輩、よくモテるっていう話なのに」


 同級生の色恋沙汰。


「そうそう。告白といえば、サッカー部キャプテンの話だ。そう、あの女の子取っ替え引っ替えしてるって噂のイケメン先輩。最近、振られたらしいぜ。ざまあみろ」


 先輩の失恋話。


 この話には、ぼくも内心スカッとした。ふぅん、イケメンでも振られもするのか。よく覚えておくとしようと、ほほ笑んだ。

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