第161話 不憫なひと
放課後、クラスのみんなが思い思いに散らばっていく中、鬼柳ちゃんも席を立ったね。
カバンも持たずに席を離れようとするから、
「忘れてるよ、ドジっ子だなあ」
と教えてあげたら、
「置いてるの」
とぼくを睨んだあとのことだよ。
職員室に用があると鬼柳ちゃんが出ていったすぐあとに、ガラリとドアを開け、大矢さんがきたんだよ。
もう教室には、ぼくしか残っていなかったね。ぐるりを見回して、明らかに肩を落としたまま言ったよ。
「守屋さんしかいませんの?」
ってね。
「すぐに帰ってくるよ」
苦笑いでそう答えると、大矢さんはツカツカストンと鬼柳ちゃんの席に収まったんだ。
「みほ先輩を待ちますの」
まあね、誕生日プレゼントは誕生日に渡してこそという気持ちもわかるからね。そういう物だと思ったからこそ、ぼくも残っていたんだよ。
そうして待っていると大矢さんはプレゼントを手に、じっと見つめててさ。しおらしく言うわけだよ。
「おねえさま、喜んでくださるかしら」
なんともまあ。大矢さんらしからぬ、いじらしさじゃないか。ぼくもひと役買った身だったからね。それに知らない仲でもなかった。励ましてあげようかな、と思ったんだ。
「大丈夫だよ。そこに愛さえ詰まっていれば、きっと喜んでくれるさ」
チラと視線を飛ばし、
「……守屋さん。言ってて恥ずかしくありませんの?」
だってさ。
「うん、可愛くない後輩だよ」
にへらと笑うと、
「失礼ですわね」
と笑い返されたね。
ぎゅっとプレゼントを握りしめ、うんうんと、うなずいていたかな。
勝手に元気になった大矢さんは、
「聞いてくださいですの」
と両の拳を振り上げたよ。
余計なことをしてしまったかもしれないね。しおらしいままの方が良かったかなと後悔しつつ聞いたよ。
話の内容は主に唐津くんのことだったな。ぼくの聞いたかぎりでは、あいかわらず甲斐甲斐しく面倒をみているようだったね。
大矢さんの暴走を食い止め、やり過ぎたりしないように、または傷付けられないようにと、いろいろ手を差し伸べている風に見て取れたよ。
「まったく、唐津さんはもう。心配症で困ったものなんですわ」
ただ前ほどは憤ってもいなかったよ。唐津くんから、『好意』が向いてるのは知っているはずだからね。あれはもしかしたら、どうしたらいいのかが分からずに、大矢さん自身も戸惑っているのかもしれないね。
「あんまり唐津くんに迷惑をかけるんじゃないよ」
と、話をまとめてみると、
「かけてませんのよ」
と反論されたね。
ふふん、と腕を組み、アゴを高くあげ、得意気に言うんだよ。
「迷惑はどちらかと言えば唐津さんが、わたくしにかけてますのよ」
そんなおかしな話の伏線が、いままでにあったろうかな。大矢さんにも分かりやすいように、ぼくは大袈裟に小首をかしげてみせたね。
「きょう唐津さんから、『詫びだ』と侘びの品もいただきましたもの。唐津さんも悪いと思って反省してなさいますのね」
「侘び?」
コクリとうなずく。
「正確には、どう言ったんだい」
「『いつも言い過ぎる侘び』と言ってらしたわ」
うむ、唐津くん。残念ながら、君の気持ちもうまくは伝わっていないみたいだよ。何と言っても相手は大矢さんだからね、これは手強いぞ。
「でも唐津さん、いい趣味してますのよ。偶然にもわたくしの好みの品でしたわ。不思議ですわね」
喜ぶ大矢さんを眺めながら、唐津くんも不憫なひとだよなあと、ぼくは思ったよ。哀れなりけり、とね。
「恵海ちゃんったら……」
ガックリと肩を落とすのは、アオハル博士こと、鬼柳ちゃんだった。
その時に博士が側にいれば、また変わった未来になっていたのかもしれないね。唐津くんには運の持ち合わせもないのだろうか。
「そんな事があったのね。でも唐津くんとの仲も、まあ、良好よね」
良好なのだろうか、と悩む。
「恵海ちゃんと話したことは、それだけ?」
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