第134話 (鬼柳)クラスのみんな

──♡13


「生徒会長はカマイタチを見ましたのね!」


 大きく見開かれた瞳は、きらりと輝きを持ったようにみえた。けれどそのままカクリと、首といっしょに傾げられていく。


「でも、関係がありますの?」

 

 うん、と頷き、どこから話そうかなと頭を悩ます。やっぱりカマイタチと呼ばれる理由からかなと思い、軽く深呼吸をしてから話す。


「その塔はね。倒れて、破かれて、濡れていたそうなの。まるでカマイタチ伝説みたいにね」


「たしか転ばせて、切って、治す。と言ってましたわね。……守屋さんの知識も、たまには役に立つこともありますのね」


 思わずクスッとしてしまう。褒められてるよ、守屋くん。


「華ちゃん、わたしの友達がそのクラスにもいてね。その子がね、本当はネコのしわざだったと言うのよ」


「ネコさんですの?」


 今度はわたしは頷かなかった。頷く代わりに曖昧に微笑む。


「先生からは、そう説明されたと言ってたの。侵入したネコが、教室内で暴れたのが原因だろうってね」


「カマイタチではありませんでしたのね……」


 落胆の色を隠さず、恵海ちゃんはガックシとうなだれた。どこか拗ねたように口をとがらせ、つぶやく。


「でもネコさんのしわざなら、仕方ありませんわね。……そういえば、みほ先輩、聞いてくださいの」


「ん、なあに」


 まるで秘め事を打ち明けるかのように、両手で口を覆い、こそこそと耳もとで囁やいた。


「守屋さん、ネコさん好きじゃありませんでしたのよ。なんでもネコさんに恩返し、してるとかなんとか」


 恩返しなのねと、ひとり得心が行った。そう、あのエサやりは守屋くんなりの恩返しだったんだね。


 きっと校内にネコを招き入れたのは守屋くんなのだろう。じゃあ、彼はどうしてそんな事をしたのか。


 塔を壊すため。


 ううん、守屋くんはきっとそんな事はしないと思う。なら、ちがうんだ。おそらくは逆なんだね。ネコを入れたからではなく、塔が壊れたからネコを入れたのだ。


「きっとね。クラスのみんなが、そのネコに恩があるのよ」


「みなさんが? どうしてですの?」


 本当にただ、ネコのしわざで塔が壊れただけだったのなら、クラスメイトは口ごもらなかったはずよね。


 部外者がカマイタチのしわざだと軽く噂をするように、ネコのしわざだったと軽く打ち明ければいい。


 でも、そうはしなかった。なぜ?


「華ちゃんがね。『話したい思い出じゃない』『みんな話したがらなかったでしょ』『イヤな思い出になった』って言うのよ」


 ちらりと様子を窺うと、悠斗くんは苦々しい顔をしていた。口もとはきつく結ばれているが、去るでもなく、否定するでもなく、わたしの話をただじっと聞いている。


 恵海ちゃんは、うーんと唸り、

「どうしてですの?」

 と訊いてきた。


「クラスのみんなはね。ネコのイタズラに、そのネコに、自分たちの罪も被らせたのよ」


「罪、いったいなんの罪ですの?」


 悠斗くんは知っているはずよね。腕に力が入っているのかな。わずかばかり小刻みに震えている。怒っているのか、恐れているのか。


「守屋くんがおかしなことを言ってたでしょ?」


「守屋さんはいつもだいたい……。ううん……、どのことですの?」


 苦笑い。


「文化祭のことよ。クラス展示は中止にはならなかったみたいなの」


「そう言ってましたわね」

 とコクリと頷く。


 わたしも頷き、つづける。


「塔は展示されなくて、塔に貼り付けるはずだった絵を教室に飾って、お茶を濁した。そう言ってたよね」


 顎に手をやり、会話を思い返し、視線は右から左へとキョロキョロ動き、恵海ちゃんは口を開く。


「壊れてしまったのですから、仕方ありませんわよ。なにかおかしな所がありまして?」


 スッと瞳を閉じ、パッと開く。


「恵海ちゃんも聞いたよね。塔は文化祭当日に壊れてたって。華ちゃんも言ってたの。前日に塔をくみ上げたから、壊れたのはその後だって」


 視線はきろりと悠斗くんを捉える。


「おかしいよね。塔がビリビリに壊れたのなら、貼り付けてあった絵も破かれていたはずよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る