第132話 (鬼柳)(守屋)犯人は

──♡11


 つぎの日、全校生は朝から体育館に集まっていた。朝礼はいつもどおりに進行されて、校長先生のお話もあったけれど、職員室の割れた窓ガラスについては触れないみたいね。


 つづいて生徒会長交代の説明になったけど、家庭の事情だからと、軽くひと言で済まされてしまった。んー、くわしくは説明しないのかな。


 そしていま壇上には副会長があがり、新任の挨拶をしている。どうやら副会長が、生徒会長代理を兼任していくみたいだった。


 古越さんからの挨拶はとくにないようで、壇上に彼女の姿は見当たらなかった。そしてわたしは途中で気が付いた。もうひとり、その姿が見当たらないことに。


 守屋くんがいない。


 朝、登校してとなりの席に座るのはみたけれど、この朝礼の列に彼の姿がないように思う。見間違いかと思って何度かふり向いてみても、やっぱりいない気がする、かな。


 朝礼が終わり体育館から教室に戻ると、守屋くんの席には恵海ちゃんが座っていた。いつもなら、もう授業が始まるよとあきれるところだけど、今日はちがう。きっとわたしのお願いをきいてくれたんだと思う。


 わたしが近付くのに気付き、

「ちゃんと呼び出しましたの」

 と可愛らしい笑顔を投げかけてくれた。


「ありがとね、恵海ちゃん。ねえ、守屋くんみなかった?」


「帰りましたわ」


「え」


 言われてみると、たしかに机にはカバンが掛かっていない。


「朝礼の前に帰るのをみましたの。忘れ物をしたとか言ってましたわ」


「忘れ物?」


 恵海ちゃんは不思議そうに首をかしげる。


「三年ほど忘れてたそうですの」


 どこまで取りに帰る気なのよ。


 軽く頭を押さえる。まあ、いいや。教室を出ようとしたら、

「わたくしも行きましてよ」

 と恵海ちゃんがついてくる。


「もう授業、始まるよ?」


「みほ先輩こそ、ですのよ」

 と口をとがらせた。

 

 それも、そうねと頬がひきつる。


「急ごう、チャイムが鳴る前に」


 以前、守屋くんに教えてもらったひとの来ない場所。屋上へつながる上り階段へ向かう、そこにはもう彼が待っていた。恵海ちゃんに呼んでもらったその子に声をかける。


 ううん、探偵ポーズは恥ずかしいからしないの。


「呼び出してごめんね」


 そっと目を閉じて、考えたことを確認する。うん、だいじょうぶ。


 パッと目を開き、

「古越悠斗くん。あなたが犯人ね」

 そう言った。



──♧13


 通勤、通学のラッシュが終わった後に、制服で街を歩くのはなんだか背徳感があって高揚してしまうね。思わず、ハマってしまいそうだよ。


 ぼくは学校を抜け出して、トボトボと歩いていた。はて、もう朝礼は終わった頃だろうか。


 そろそろぼくのサボタージュがバレたかもしれないね。鬼柳ちゃん辺りはあきれてるかもしれないなと思うと、口もとが緩んでしまう。


 遠目ながら懐かしい建物がみえてきた。あまりの大きさに当時は圧倒されていたけれど、今となれば、すこし小ぢんまりと感じるものだね。


 懐かしき我が学び舎、『鱈夢小学校』だ。まさかふたたび訪れる日がこようとは思わなかったな。もう授業が始まっているのだろうか。校庭のグラウンドには、人影ひとつなかった。


 こちとら中学校をサボタージュしてきた身だ、中に入っていくわけにもいくまいて。ぐるりと学校の塀周りをトボトボと散歩していく。学校のすぐ脇にあった公園には、すくないながらも遊具があった。


 ちいさなシーソーに、ジャングルジム、クルクルと回る謎の遊具は使用禁止の貼り紙がしてあった。楽しい遊具なんだけど、危険とみなされたのかな。時代だね。


 そして、ブランコには見知った顔がひとつ。うつむき加減にゆらゆらと揺れている。なんとなく、ここにいるんじゃないかとは思っていた。


 ぼくが近付くと顔を上げ、その視線はみるみるうちに鋭くなった。


「……守屋っ」


 苦々しく放たれる言葉に、ぼくも思わず苦笑いになってしまう。


「小学校をみにきたのかな?」


 返事はない。


 ひと呼吸おく。探偵ポーズをすれば怒るだろうね。やめておこうか。


 そして浅く息を吐き、

「古越芽生さん、きみが犯人だね」

 そう言った。

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