第127話 (鬼柳)古越さんのリーダー性
──♡09
「文化祭か」
華ちゃんは当時を思い出す為か、そっと目を閉じた。運動服にハチマキのせいかな。どうかすると、その姿は運動会のように見えてしまう。
「あんまり話したい思い出じゃないね」
しかめっ面になった華ちゃんは、わたしの目を覗き込んでくる。
「だれかに何か訊いた?」
コクリと頷く。
「クラスの出し物の塔が壊れて、大変だったのよね?」
「そか、知ってんだ。だれから訊いたの。ふーん、そう。みんな話したがらなかったでしょ?」
問題のクラスにいた生徒はたしかに、そうだったな。口淀んでいた。
曖昧に頷くと、
「だよね」
と嘆息をつく。
そして華ちゃんは眉間に力強くシワを寄せて、ため息混じりに言葉を吐いた。
「あれはクラスの誰にとってもさ。イヤ〜な思い出になったからね」
クラス合作の作品が壊れたんだもんね、しかたないよね。とてもじゃないけど、いい思い出にはなりそうもない。壊されたのなら、尚更ね。
「古越さんも落ち込んでたの?」
と訊いてみる。
「古越か……。放心状態だったな。あの子、実質リーダーだったから」
「リーダー?」
今も生徒会長だし、昔からリーダーシップ溢れるひとだったのかな。そんなひとが、今は窓ガラスを割った犯人だと名乗り出ている。やっぱり、ちょっと信じられないよね。
「その時の先生が放任主義というのか、ほったらかしというかさ。そんなだったから、真面目で美術の成績のよかった古越にさ、白羽の矢が立ったんだ」
「うん、納得よね」
と相づちを打つと、
「そう?」
と返された。
「ちがうの?」
かぶりを振る華ちゃんは、すこしイヤな感じのする笑みを浮かべる。
「美保ちゃんは知らないからね。あの子、変わったのよ」
「どう変わったの?」
「今は生徒会長だけど、昔はもっと大人しい子でさ。とてもリーダーって感じはしなかったな」
「そうなんだ」
すこし意外だった。昔からバリバリとひとを引っ張っていく、そんなひとなのかと思っていた。
「だから嬉しかったのかな。古越、すごく張り切っててね。私もさ、何度も絵を注意されたな」
「注意?」
ペロと舌を出し、華ちゃんはおどけて見せる。
「私、絵ヘタじゃん?」
うーん、見たことないよ、華ちゃん。でもほっぺに墨をつけているその姿は、とても絵がうまそうなひとには見えなかった。
偏見かな?
「アドバイス……。いや、ダメ出しかな。あれこれさ、言ってくるんだよ」
華ちゃんは筆を手にとり、素早くババッと字を書き出した。わたしも素早く、一歩下がった。二歩かな。
差し出された半紙には、『爆発』と、味のある(味のある……)字で書かれていた。
「私はさ。芸術はやっぱ、もっとノッてないとダメだと思うんだよね」
得意気に笑う華ちゃんは、さっきよりも顔に墨が飛んでいた。古越さんじゃなくても、あれこれ言いたくなる気になっちゃう、かな。
古越さんがそんなに頑張っていたのなら、その塔は彼女にとって思い入れのある作品だったんだろうな。
そんな塔が何者かに壊されたのね。そりゃ、放心したくもなるよね、泣きたくもなっちゃう。
お、そういえば。
「守屋くんはどんな感じだったの?」
「へえ?」
怪訝そうな声があがった。
「なんで急に守屋の話。あ、美保ちゃん、あんた実は──」
きろりと華ちゃんを睨み、目で黙殺した。その先は言わせない。
「……目が怖いよ。えっと、守屋、守屋ね。どうだったかな。あー、なんか不機嫌そうだったかな」
不機嫌そう?
「いや、怒ってたかな。そうそう、ほとんど文化祭の準備してないのに、『なに怒ってんのコイツ』って思った気がする」
あの守屋くんが、怒ってたの?
「にへらとか、ヘラヘラとか、ニヤニヤとか笑ってるんじゃなくて?」
「美保ちゃんの守屋のイメージ、それなの?」
とあきれられた。
「休みがちになった頃から、あんまり笑ってるイメージないけどな」
華ちゃんはそう言った。
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