第126話 (鬼柳)華ちゃんはノッている

──♡08


 弟くんのことも気になるけれど、まずは鱈夢小学校の卒業生を探そうと思う。四年前の文化祭でなにがあったのか、詳しく話を訊きたいな。


 何人かの友達にメッセージを送り、部活で残っている友達にも話を訊いてみた。みんな口をそろえた様に、『カマイタチの仕業』と言う。


 でも、すこし気になったのは反応のちがいだった。


 問題のクラス以外の生徒は、カマイタチの名をスラスラと出すのに対して、その問題のクラスの生徒は、なぜかみんな口淀むのだ。


 そして、

「カマイタチが出たの?」

 と訊くと、水を得た魚のようにスイスイと話しだす。


 それでもみんな、どこか口が重いのかな。恵海ちゃんから訊いた以上のことを、なかなか語ろうとはしなかった。


 あ、ひとつあったな。それはこんな会話だった。


「どうしてそんなの調べてるの?」

 と訊かれ、

「古越さんになにがあったのか知りたいの」

 そう答えると友達は苦々しい顔をした。


「あと守屋くんが」


 ──何をしたのかもね、と言いかけたところで思い留まる。おっと危ない、口がすべるところだった。


「守屋? あれ、アイツ文化祭来てたっけ?」


 ん、と思うと、ああと聞こえた。


「来てた、来てた。文化祭の日は」


「ほかの日は?」

 と訊く。


 知ってる? と前置きされ、

「親が離婚したとかで、アイツ、あのころ休みがちだったんだよ」

 渋い顔でそう言う。


 そうか、文化祭は守屋くんが傷付いたころの話なんだね。探偵に失望していたであろう、その時の。


「でも絵だけは持ってきて、参加したみたい」


 んん?


「え、絵?」


 驚いたせいで上手く伝えれなかった。絵とは、あの絵なのかな。壊れてしまった塔に貼り付けてあったという、あの絵。それを守屋くんも書いた、ということは──。


 深く息を吸ってから吐く。


「守屋くんも同じクラスなの?」


 友達はわたしを見て、キョトンとした顔つきでつぶやいた。


「うん、そうだよ。守屋も古越さんも、みんな同じクラス」

 だって。


 守屋くんの嘘つき。


 なにが、『そのうわさは知らないけど、塔が壊れたのは知ってる、かな』よ。


 知ってるどころか、あなたクラスメイトじゃないのよ。


 にへらと笑う顔が頭に浮かぶ。古越さんが怒ってるのも、守屋くんの性格による部分が大きいのではと不安になりながらも、わたしは書道部の部室へとたどり着いた。


 書道部部長の小林華こばやしはなちゃんも、守屋くん達と同じクラスだと聞いてやってきたのだ。ドアに手をかけたとき、中から声が聴こえてきた。


「ハッ、フッ、セイッ」


 ここ、書道部で合ってるのよね?


 空手部とまちがえたかなと思いつつ、そおっとドアを開けると、やっぱりちがったみたいね。わたしの知ってる書道部ではなかった。


 中では華ちゃんが、体操服姿で書をしたためている所だったのだ。頭にはハチマキまでしている。


「なんで体操服なの?」


 半紙に向き合う華ちゃんは、ちらりとわたしを横目で見て、

「墨が飛ぶからね、セーラー服だとシミになっちゃうじゃない」

 眩しい笑顔でそう言った。


 いったいどれだけアグレッシブに書くつもりなの。


 冗談かなと思って笑うと、顔を上げた華ちゃんのほっぺが真っ黒で、わたしの笑顔は固まってしまう。


 ああ、本気だったのね。


「今日はひとりなの?」

 と訊いてみる。


 部室には華ちゃんの姿しか見当たらなかった。筆をコトリと置き、首をカクリと傾げながら、さも不思議そうに彼女は言う。


「最初は他にもいたんだけどね。私の筆がノッてきたあたりで、みんな先に帰っちゃった」


 華ちゃんの筆がノッたから、帰ったんだろうな。とは言えそうもないかな。わたしも華ちゃんの筆がノる前に帰ろう、そう心に決めた。


「美保ちゃんはどうしたの? こんなトコ来るなんて珍しいじゃんか」


「華ちゃん、鱈夢小学校だよね?」


「うん」


「六年生の時の文化祭であったことを訊かせて欲しいの」

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