第125話 (鬼柳)生徒会長の弟くん

──♡07


 わたしだけぽつん、と生徒会室に取り残されちゃった。ちらりとみた会議机に目が奪われる。


 ふーん、三脚の机を寄せ合って、長方形の大きな机にしているのね。そおっと上座の真ん中、いちばん偉そうな席に座ってみる。


 両肘を机につき、手を組んで口元をおおい隠す。ぐるりを見渡し、オホンと咳ばらいをひとつしてみた。


 ふふ、一度やってみたかったの。


 満足した所で、この席を棒に振ってしまった古越さんの事を考える。古越さんずいぶんと怒っていたな(涙を浮かべるほどに、ね)。


 あんなに守屋くんをこき下ろしていたのに、かたくなまでに、何をされたか言わないのはなんでだろう。


 ひどい事をされたのなら、むしろ話したくなると思うんだけどなあ。守屋くんに遠慮するようにもみえなかったし、うーん。


 古越さんにもなにか、後ろ暗いところでもあるのかな?


 守屋くんに話を訊ければ、話は早いんだけどなあ。守屋くんはなあ。んー、きっと話してくれないよね。


 前もそうだったもの。


 推理して分かったことは素直に認めるのに、それ以外のことは頑として話してくれないのだ。普段はあんなにぺらぺら話すのにね。


 探偵が訊いちゃいけない、とか言うんだよ。謎にひたむきというか、なんというか。


 もう一度ぐるりを見渡し、こっそりとスマホを取り出す。守屋くん宛にひとつメッセージを送った。


『カマイタチが出た時、守屋くんは探偵にあこがれていたの?』


 これなら答えてくれるかな?


 返信を待つ間、恵海ちゃんが話したカマイタチのうわさを思い返す。


 鱈夢たらむ小学校の文化祭当日、あるクラスの作った大きな塔がビリビリに壊されていたのよね。その犯人がカマイタチだとうわさになっている。


 何人ものひとからそう聞いた、と恵海ちゃんは言ってたな。中には、お兄さんが当事者の子もいたみたいだし。


 不思議な話よね。


 カマイタチが本当にいたのかは分からないけれど、その事件が解決してるのはすこしおかしいと思うの。


 犯人がカマイタチだなんて話、


 小学生はカマイタチの犯行で納得したとしても、先生は犯人を気にせざるを得ないはずだよね。だって不審者の可能性もあるんだもの。


 先生が納得できる犯人がいない限り、学校は警戒をゆるめない、事件はおさまらなかったはずなの。それなのに、事件はおさまり、そんな事もあったねと昔話になっている。


 先生は犯人を突き止めたんだ。


 気が付いたら、守屋くんから返信が来ていた。やっぱりそうなのね。スマホには、こう表示されていた。


『もう、あこがれてはなかったよ』


 そう、ならカマイタチ騒動の黒幕はきっと守屋くんなんだろうなあ。おっと、いけない。当てずっぽうな推理は、また怒られちゃうね。


 その時、カタンと音がした。


 生徒会室のドアがすこし開き、その隙間からひとりの男子生徒が中をのぞきこむ。


 わたしと目が合った途端、バンとドアを閉めて駆け出した。ううん、逃げ出したの?


 あっけに取られて廊下に出てみると、彼の後ろ姿はすでに遠くの方にあった。


「こら、廊下を走るな」


 先生とすれ違ったのかな、怒声が聴こえる。そのままわたしも先生の元へと向かった。


「廊下を走るな」


 叱られちゃった。思わずわたしも駆け足になっていたみたいだ。ごめんなさい。


「先生。さっき走っていった子は誰なんですか」


「んん? ああ、古越だ。生徒会長の弟のな」


 なんでとも、どうしてとも訊かずに先生は教えてくれた。ありがとうございます、とお礼を言うと先生は手を上げサッサと行ってしまった。


 いまのが生徒会長の、古越さんの弟くんなのね。名前は、……あれ、そういえば先生も言ってなかったから分からないな。


 髪をだいぶ明るめに染めた、眉毛の細い弟くんのことを、恵海ちゃんは野蛮人だと言っていたのよね。


 そんな弟くんが生徒会室に、なんの用だったのかな。

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