第124話 (鬼柳)守屋くんはどっち

──♡06


「アンタ、アイツの友達?」

 と古越さんは突然キレちゃった。


 友達ね、友達なのと訊かれたら、んーどうなのかな。これは難問ね。


 そんなことを言ってると、守屋くんはわざとらしく(大袈裟にね)泣いたフリでもするんだろうなあ。そしてわたしの方をチラチラと見ながら、こっそりと笑うんだと思う。


 わたしはそんな守屋くんにあきれつつ、うん、友達、友達と答えるのかな。そうしたら恵海ちゃんが守屋くんを睨みつけるの。ずるいですわとか言いながらね(かわいい)。


 ふふ、きっとそうだよね。


「なにニヤけてんの、アンタ」

 

 怒気を含んだ声が突き刺さる。おっと、いけない。古越さん怒ってるね(ああ、ダメだダメだ)。これはもう友達じゃないと言っても、おそらく信じてもらえないんだろうな。


「ううん、ごめんね。なんでもないの。守屋くんは、うん、友達だよ(たぶん、ね)」


 友達のようでいて、なんだかすこしちがう気もしている。やっぱりわたし達は、探偵と黒幕なのかな。


「ふーん。アンタ、あんな最低なヤツの友達なんだ」


 『守屋くんは良いひとだ』とは簡単に呼ばせてもらえない。だって彼をそう呼ぶのには、わたしもすこし抵抗があるもの。だからと言って、『悪いひとだ』とも呼ばせてもらえない。


 そう呼ぶには彼は、『いくぶんか優しい』のだ。とても回りくどかったりもするけれど彼なりの方法で、それはそれは愉快そうにニヤけながらでも、そっとだれかを助けたりするから。


 しっくりくる言葉なら、そう、『優しいひねくれ者』かな。


 腹の立つ所ならいくらでもある、

 数え切れないくらい、あきれてきた、

 睨みたくなることばっかりする。


 それでも守屋くんのことを語るのに、最低なヤツだなんて言葉はふさわしくないと思うの。


 怒る義理なんてどこにもないのに、わたしは今、まちがいなく腹を立てている。


 守屋くんも守屋くんだよ。古越さんにこう思われてるのを彼はきっと知ってるはずなのに、どうしてそのまま受け入れてるの。


 わたしは静かに燃えていた。突き止めてやる。いったいふたりの間になにがあってこうなったのかを。


「古越さんは、守屋くんになにかされたの?」


 腹立ち加減をおくびにも出さないようにと気を付けながら、穏やかな声になるよう努める。


 唇をギュッと噛みしめて、ふんっという擬音が似合うくらいに、古越さんはそっぽを向いてしまった。こんな風に拒否反応を示すのだ。いままでよく衝突しなかったものね、とすっかり感心してしまう。


 すこし記憶をたどってみよう。


 一年、二年と、ふたりはクラスも別だったはず。もちろん今年もね。いままでにそんな際だったうわさを聞いた覚えはなかった。こんなに険悪な仲なら、うわさくらいは立っていてもよさそうなのにね。


 中学での出来事じゃないのかな。


「小学校でなにかあったの?」


 古越さんの顔色はサッと変わり、

「なにもないわよ!」

 と真っ赤になりながらも、つんざくような声をあげた。


 カッと開かれた目は怒りにうち震えていたけれど、その瞳にはうっすらと涙を浮かべている。


「もう、放っといて」


 そう言い残して、古越さんは生徒会室を飛び出していってしまった。やっぱり小学校でなにかがあったのね。そしてそれが原因で、ふたりはこうなったにちがいない。


 たしか守屋くんは鱈夢小学校だって言ってたよね。


 ん、なんで知ってるんだっけ?


 あれは──、そうよ。恵海ちゃんが妖怪の話をしていて、たしかその時に訊いたんだよね。それにこうも言っていたはず。鱈夢小学校は、『カマイタチ』が出た小学校だって。


 とても無関係とは思えなかった。だって守屋くんが関わってるんだから、カマイタチくらい出てきてもおかしくないもの、ね。


 調べてみよう。カマイタチ騒ぎの真相を。きっとそこには、なにか隠されている気がするから。

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