第115話 (鬼柳)古越さんは生徒会長

──♡02


 放課後、先生が教室を後にするのと同時に恵海ちゃんが飛び込んできた。ちゃんと授業には出ていたのかな(さすがに出てるよね?)と、すこし心配になってしまう。


 わたしの机に駆け寄り開口一番、

「どう思いまして?」

 と問いてきた。


 ……どうなのかな?


 隣の席からは茶化す声が聞こえてくる。


「おはやいお着きで」


「守屋さんには訊いてませんの」


 ぷーっと頬を膨らませる恵海ちゃんに、守屋くんは微笑みながらひらひらと手を振っている。わたしも同じような事を考えていたのは、恵海ちゃんにはナイショにしておこうっと。


「で、恵海ちゃん。どう思うってなんの事なの?」


「決まっていますわ。生徒会長の事ですのよ」


「立候補でもするのかい?」


 守屋くんもひとが悪い。もう分かっているはずなのに、恵海ちゃんをからかって遊んでいるようだった。


「ちがいますの、よろしいですわ。守屋さんにも分かるように、このわたくしが教えて差し上げましてよ」


 やれやれと首を振り、できの悪い子を諭すようにやさしい声色で話し始めた。そこまでされると思ってなかったのかな、守屋くんは面食らった顔をしている。その様子が可笑しくて、わたしはクスクスと笑った。


「職員室のガラスの件と生徒会長の失脚、きっとなにか関係がありましてよ。先生は誤魔化そうとしていたようですけれど、わたくしの目は欺けませんことよ。だっていくらなんでもタイミングが良すぎますもの」


「失脚だなんて、恵海ちゃん」

 とは言ってみたものの、確かにふたつの話がまったくの無関係だとはすこし考えにくい、よね。


 でも──。


「すると生徒会長が犯人なんだね」


 ない、と思った事を守屋くんは平然と言ってのけた。でもわたしは、その意見には賛同できそうもない。


「ないわよ。生徒会長はそんな事できるひとじゃないもの」


「えっ」

 と守屋くんは意外そうな顔をしてみせる。ん、どうしてなのかな。


 生徒会長の古越ふるしろ芽生めいは真面目な、いわゆる優等生タイプの女の子だ。すこし厳しい所もあるけれど、それだけじゃなくて、ちゃんと優しいひと。


 責任感もあって、要所要所で確認すべき所はきっちりと自分でこなすから、ミスもあんまり起こさずに周りからも、先生からも信頼が厚い。


 そんな彼女が職員室に殴り込みをするなんて、わたしにはとても思えそうもない。けれど、守屋くんのその反応はいったい……。わたしの知らない一面が彼女にはあるのかな?


 守屋くんは彼女のいったい何を知っているのだろう。


 と思っていたら、

「鬼柳ちゃんは知り合いなのかい、というより、生徒会長はなんて名前なんだい?」

 だって。


 ──あきれた。


 まさか名前も知らないで言っているとは思わなかったよ。わたしは今あきれた顔をしているんだろうなと確信しつつ、あきれた声を出した。


「古越芽生よ」


「ふぅん」


 気のない返事ね。名前を聞いても知らないのかな、と思うほどに反応は薄かった。まさか、ね。いくらなんでも生徒会長の名前くらいは知ってるよね。守屋くんよりも恵海ちゃんの方が反応している始末だった。


「古越──」


 恵海ちゃんも知らないのかなと思ったけど、それは違ったみたいで、

「──って珍しい名字ですわよね?」

 と訊いてくるので、そうねと答えたら小首を傾げている。


「わたくしのクラスメイトにも同じ名字がいます、──の?」


「疑問なのね……」


 でも、そっか。ひょっとして。


 訊いたことはなかったけれど、その同じ名字だという一年生は、生徒会長の兄弟なのかもしれないのね。


「男の子?女の子 ?」


「男ですわ」


「どんな子なの?」


 迷う素振りを見せないで、遠慮もまるっきりなしに、恵海ちゃんはハッキリと言い切った。


「野蛮人ですの」


「野蛮……」


 コクリと頷き、つけ加える。


「乱暴なんですの。クレイジーですわ」

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