第99話 変わった脅し文句
「先輩、調査を手伝って欲しいのですわ」
やっぱり、ぼくの聞き間違いじゃなかったんだね。幽霊騒ぎの事だろうと察したので、男友達とはその場でわかれ、別行動することにした。
しかし大矢さんも鬼柳ちゃんではなく、ぼくに助けを求めるなんてね。なかなか可愛い所もあるじゃないか。
なんて思っていたぼくは、どうやら甘かったようだ。
「先輩は何もなさらなくて、構いませんことよ」
「ん?」
どういう事だろうか。
「グループ行動をしないと、先生に目をつけられてしまいますの。先輩はそこにいてくれさえすれば、よろしくってよ」
ああ、そういう理由なんだね。
「その役は、鬼柳ちゃんではダメだったのかい?」
「みほみほ先輩は、きっとわたくしを止めますわ。お優しい方ですもの。でもその点、先輩なら問題ありませんわ。ホホホ」
さいですか。
しかしなあ、この状況は好ましくない。ぼくが焚き付けたんだけど、まさかここまで暴走するとはね。
しかたないね。鬼柳ちゃんも巻き込んで、いっそ解決してもらった方が良いのかもしれない。
「鬼柳ちゃんも呼ぼうよ」
「何を仰るの、先輩。ダメですの。止められますわ」
面白いくらいに慌てふためいている。
「大丈夫なんだ。ぼくに秘策がある」
任せとけと、胸を叩いた。
玄関口で鬼柳ちゃんのグループを見かけ、チョイチョイと手招きをする。目ざとく気付いた鬼柳ちゃんは、
「なに?」
「大矢さんが幽霊調査に向かう気なんだ」
くわっと大きな瞳が開かれる。
「危ないわ、止めさせないと」
「止まらないんじゃないかな。ぼくも面白そうだから付いていく事にしたよ」
眼光鋭くにらみ付けてくる。どうやら、ぼくは心配してもらえないようだね。
「だから鬼柳ちゃんも一緒に行かない?」
「行かない。守屋くんだけで行って来て」
まるで、ぼくが行きたがっているように聞こえるじゃないか。困ったものだね。やっぱり秘策を使うしかないようだな。
「鬼柳ちゃんが来ないと、ぼくと大矢さんがふたりっきりになるよ」
「そうね」
「良いの?」
しばし、間が空いた。
「どういう意味?」
「分からないのかい」
と言いたげに眉根を寄せて、ぼくは言った。
「ぼくと大矢さんがふたりでいると、どうなると思う?」
「……ろくな事にならなさそうね」
「まったくだね」
ぼくもそう思うよ。しかし、我ながら変わった脅し文句だ。
鬼柳ちゃんはやはり優しいね。女友達に断りを入れ、ぼくらに同伴してくれる事となった。恨みがましい目でぼくを睨めあげてはいるけれども。
大矢さんは鬼柳ちゃんの突然の参加に、ソワソワとしている。参加の理由を話したらどんな顔をするだろうか、すこし見てみたい気もするね。
「さてと、どこから調べるんだい」
と、ひとりニコニコしているぼくが切り出してみた。
「そうですわね。まずは学校の近辺で話を聞いてみようと思いますの」
思ったよりも地味でまともな調査におどろいてしまった。思わず鬼柳ちゃんと顔を見合わせる始末だ。
「もっと無茶苦茶するかと思ってたよ」
「先輩は失礼な方ですわね。わたくしこれでも、きちんと探偵に憧れてましてよ」
へえ、すこし見誤っただろうか。もっとミーハーで、お嬢様風味のただの面白い人かと思っていたよ。
「何か憧れるキッカケでもあったの?」
ほんの少し、先輩としての親心のつもりで聞いた。変な探偵に憧れていたら、大変な事にもなりかねない。
ぼくは本物の探偵で手痛い目にあっていたからね。いまだ胸に苦味を残している。傷は小さくなったけれど、これからも消えることはないのだろうな。
「乙女の秘密を聞きたがるなんて。野蛮ですわ。クレイジーですわ」
うん、実にかわいくない後輩だ。
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