第2回 心荒んで若芽育む
「んん?ふわぁ......」
目を覚ましたクレアは可愛らしい欠伸と伸びをした。ピクンと筋肉痛の痛みに顔を顰める。
「いたた......」
痛む両腕と腹筋、右脚を見る為麻の布団を捲る。とりあえず目に見える青アザなどができていないことに安堵する。この様子なら治るのにそう時間は掛からない、と。
パチパチと薪が火に弾ける音に香ばしい香りが漂う。焚き火と言われ想像するものより少々大きすぎる火に削った丸太に刺さった半身の小竜が火に炙られている。
「起きましたか。」
枝を折っては焚き火に焚べるユウキの姿が小竜越しに見えた。クレアはハッと、ユウキが布団を用意してくれた事に気付く。鎧は外され枕元に置いてあり、その下に来ていた簡素な旅服の姿になっていた。
「ありがと。」
「別段、御礼を言われるほどの事では有りませんから。」
「今何時くらい?」
「私が知るわけないでしょう。気を失っていたのは1〜2時間ほどです。」
「そっか、良かった。」
クレアは安堵の短い溜息を付き、もう一度伸びをする。
すると、クレアの伸ばしたお腹から腹の虫が少し高めの音で鳴る。
「丁度半分です。どうぞ。」
ユウキは少し意地悪な笑い顔をしながら太い串ごと小竜の半身を渡す。
クレアは両手でそれを受け取ると......
「いいの!? 竜なんて初めて食べるよ、いただきまーす !!」
と、夢中で肉に食らいつく。みるみるうちに骨だけになっていく小竜のサマにユウキは少しヒいた目で見る。
焦がしても腐らせても無駄になるだけなのでとりあえずユウキも食べ始める。3分の1を食べ終わる頃にはクレアは既に食べ終わっていて何故か楽しそうな目で此方を見て待っていた。完食まで食べるペースを上げるがあの速度にはとても届かない。
「じゃあ第2回戦に行こう!」
意気揚々としたクレアとは対象にユウキはげんなりとしていた。
「2回戦なんて聞いてないのですが......」
「言ってないからね!1回でダメなら2回、3回4回だよ!やあああ!!」
クレアは剣を右肩に担ぐように両手で握って前のめりに突撃して来る。
代わり映えのしない攻撃に溜息を付きながら前と同様に容易に弾く。大した手応えも感じない軽い一撃だ。
「うわっとっと。まァだあ!!」
弾かれたものの今度は何とか体勢を保ち、片手は着くものの倒れはしない。そして次の一撃を入れにかかる。
「しつこい!煩わしい!」
下手糞な剣撃を懲りずに何度も繰り返され少しずつ呆れが憤りに変わる。
それに併せて弾き返す腕にも段々と力が入る。
それでもクレアは倒れない。懲りずにユウキへと切りかかる。爛漫な笑顔は消えかかり、輝いた目も虚ろな半開きになっていく。
だが、その踏み込みは速く、剣は鋭くなり相変わらず滅茶苦茶ではあるが、出鱈目では無くなり動きに筋が通る。
ユウキがその事に気づいた頃、クレアはとうに限界は迎えており意識は朦朧としていた。
そしてある時、力の足りなくなった足は踏み出したものの間合いには届かず、剣は空振る位置。
それでも意識なくとも気合いで届かせようと腕には力が籠る。
(何年ぶりだろうかこの感覚は......!!)
ユウキの背筋に悪寒が奔る。初めて魔獣と相対した時のような命の危機。
詰まるところの恐怖だが、思考を介さず上半身を後ろに仰け反らせる。
クレアの斬撃は文字通り空を斬り、光の弧を描き幅凡そ100メートルにも及ぶ滝の端から半分を過ぎた所まで斬り裂いた。
クレアは力を使い果たし、前のめりに倒れ込み静かな寝息を立て始めた。剣を握った水気の多い柔らかな掌は擦過傷と血でボロボロになっており痛ましい。
ユウキは腰から力が抜け、へたとその場に腰を落とす。
笑いが込み上げてきて止まらなかった。
我が身修羅なるを、異世界に求む 四々十六 @isoroku4416
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