第33話 虚偽と死の女王
「行け、ガイア」
『GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOッ!』
サズ子はガイアに乗ると、凄まじいスピードでディアの隠蔽魔法の範囲外から出て行く。
すると、すぐに水龍はサズ子に向かって圧縮された水を吐き出すが……。
「起きろ、ドゥルジナース。力を貸せ」
その瞬間、サズ子の持っていた鎌から黒い炎のようなモノが滲み出す。
サズ子が鎌で圧縮された水を斬り裂くと、水は一瞬にして蒸発するように消えてなくなった。それどころか、黒い炎は水を伝い水龍の身体にまで届くと、その身を燃え上がらせる。
「うわっ、何だあのヤバそうな炎。水が燃えてるぞ……」
「……流石、同じ悪器なだけあって、もう使いこなしているね」
しかし、水龍も負けてはいない。
黒い炎が燃え移った部分を切り離して海に落とすと、すぐさま失った部分を再生する。
だが、その時にはサズ子はもう水龍の真上にまで来ていた。
「【千変万化】。水龍よ。お前のご主人様までの道を開けろ」
サズ子が水龍に触れると、初めて水龍が怯えるように身体を震わせる。
「……チッ、やはり力が弱まっている。この程度のミミズを掌握するのに苦戦するとは、我ながら情けない」
サズ子が苦々しくそう呟くと、鎌は再び黒く燃え上がり水龍の全身を包み込む。
すると、水龍が再び苦しむように身をよじる。
「……余計なお世話。例え人間に堕ちたと言っても、お前に侮られるほど落ちぶれてはいない」
サズ子は鎌に語りかけると、チラリと僕の方を見た気がした。
「それに、今の私は一人じゃないから。【異海の支配者】」
その瞬間、とぐろを巻いて黒い穴を塞いでいた水龍が痙攣したかのように身体を震わせ、とうとう耐えきれなくなったのか身体を崩壊させる。
「今だよ、蒼!」
「お、おう!」
僕はその様子を遠目で見ながら、水龍がいなくなった穴に向かう。
……心なしか、アイツの方が僕のスキルを使いこなしているような気がするのは気のせいだろうか?
「蒼、油断しないで。これに入ったら、アリスを倒す以外に生きて出る手段はないからね」
「分かった」
ディアに注意され、僕は気を引き締め直す。
この二人といると忘れがちだが、これは命懸けの作戦だ。
アリスさんは本気で僕達を殺しに来るだろうし、僕達は絶対にアリスさんを死なせてはならない。
「行こう、ディア。絶対にアリスさんを止めるんだ」
「うん。頼りにしてるよ、蒼」
僕達は、上空の黒い穴に飛び込んだ。
****************
「……ようやく、行ったか」
私は左眼のスキルである夜空の眼で、隠蔽魔法を使っている二人が穴に飛び込んでいくのを確認すると、折れた右手を水龍から離す。
全く、人間の身体は脆くてしょうがない。あの程度の攻撃で、こうも簡単に壊れてしまうとは……これ、ほっとけば治るんだろうな?
その時、私の支配から解放された水龍が怒ったように暴れると、その巨大な身体で私に襲い掛かって来る。
『GYAOッ!』
しかし、私が鎌で防ぐ前にガイアが私を回収してくれた。
『あらら、支配を手放しちゃって良かったの?』
「どの道、今の私じゃあ一瞬だけしか神の力を支配出来ない」
『きゃはっ、終末の蛇ともあろう者がなっさけなーい。そんなんじゃあ……私がその美味しそうなスキルと一緒に、貴女の魂を食べちゃおっかな?』
「黙れ、ドゥルジ。海に投げ捨てられたいのか」
『うそ、うそ、冗談だよーっ! 折角、あの女から解放されたっていうのに、ここで捨てられたら、また薄汚い人間の手を借りなきゃいけないじゃん! なら、まだ貴女と一緒に元の世界に帰った方がマシだよ』
ドゥルジはそう言うと、楽しそうにキャッキャッと笑う。
こんな事を言っているが、コイツは私の魂が弱ったらすぐさま喰いにくるだろう。
私達は、そういう存在だ。
性格も口調も非常に鬱陶しい事この上ないし、本当に今すぐ海に捨ててしまっても構わないのだが……コイツの力は、強力だ。利用出来るのなら、利用したい。
『そうそう、お互い利用し合って行こうよ。そうすれば、WIN―WINだ』
「……何が、WIN―WINだ。私がいないと何も出来ないくせに厚かましい……あの女が寄生虫と言っていた気持ちも、今なら分かる」
『きゃはっ、おもしろーい。貴女、自虐なんて出来たんだ? そうだよ。貴女はもう、私達に一方的に喰われる側の存在になったんだよ。ていうか、むしろ、そんな姿になってまで生きたい理由ってなに? 私だったら、恥ずかしくて死んだ方がマシなんですけどーっ!』
「……」
『捨てたいなら、どうぞご自由に。最初に運悪くあの女に拾われたのが悪かっただけで、私は別に一人でも上手くやれるから』
ドゥルジはニヤニヤと笑いながら、私を煽る。
コイツ、間違いなく私が手放さないのを知っていて煽ってきているな。何て性格が悪いのだろう。最悪だ。
……彼女を見ていると、本当に良く蒼は私を受け入れてくれたものだと思う。
「黙れ。死体に群がることしか出来ないクソ虫が、その腐乱臭がする口をさっさと閉じろ。この身体だと臭くて堪らない」
『どうした、唯一の取り柄を人間なんぞに奪われたクソ雑魚蛇。お前にお似合いの不細工な顔が真っ赤だぞ?』
「蠅の美的感性で、美しいと言われる方が屈辱だ。お前はただ、私に力を与えていればそれでいい」
私はガイアから降りると、眼下にいる水龍に鎌を向ける。
「虚偽と死の女王、ドゥルジナースよ。私と契約しろ。代償として、お前を天海へ運んでやる」
『……ふふっ。まあ、今はそれでいいよ。精々、私に隙を見せない事だね。仮にお前が追い詰められる時が来たら、私はいつでもお前の魂を喰うから』
「そうか。それじゃあ、来るはずの無いその日を夢見ながら、永遠に笑っているがいいさ。本当の捕食者が、誰とも気付かぬままな」
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