第9話 ???
船に戻るとすでにティザー達は戻って来ていたようで、ゾアと一緒に僕達の帰りを待っていた。
「……アンタが付いていながら、随分と酷い様だね」
「うん。ちょっとね」
「けっ、小僧はそんなんで本当に使い物になるのかい?」
「大丈夫、蒼は強くなるよ。私が育てるんだもん」
「……そういう意味じゃないんだが、まあ、アンタがそこまで言うなら任せるよ。それより、目的は果たしてきたんだろうね?」
「うん。【
すると、ディアの目の前に大量の樽と銃と銃弾が現れた。
「ゴミは海に捨てな」
「ああ、ごめんごめん。【強奪】」
ディアは再び簒奪魔法を使うと、床に散らばった銃と銃弾だけが消えた。
「いつもながら、便利なもんだね」
「まあね。それより、蒼が持っているこの槍をお頭に見て欲しいんだけど」
「ああ、それか。さっきから気になってはいたよ。業物じゃないか。私の勘がそう言っているよ」
「うん、でもね。【ステータス】」
ディアが、再び槍のステータスを開く。そこには——
名称 黒鉄の槍
耐久値 5.00
「……ゴミだね」
「そうなんだよね。でも、ただの槍にしては装飾が多いし、何かの儀式用の槍なんじゃないかな?」
「ふーん……それで、何でそいつにそんなの持たせているんだい?」
「ちょっと、教育」
「……けっ。まあ、いい。お前らはこの食料を下の食糧庫に運んどきな!」
ゾアがそう言うと、気の抜けた返事と共に次々とティザー達は食料の入った樽を次々と運んでいく。
「ディア、ご苦労だったね。もう休んでいいよ」
「ありがとう、お頭。蒼の手当をしても良い?」
「好きにしな」
「うん。蒼行こう」
そうして、ようやく僕は解放される。
……良かった。正直、今にも倒れてしまいそうだったので助かる。
僕はそのままディアと共に船の中に入ると、医療室に向かう。
まあ、医療室と言っても、ただ薬などを投げ入れてあるだけの普通の部屋だが。
「浄化魔法【
ディアは医療室に着くと同時に、浄化魔法を使う。
たぶん、雑菌とかが傷口に入らないように部屋を除菌してくれたのだと思うのだが……出来れば、怪我をした時にも同じ魔法を使って欲しかった。
……もしかしたら、あの時ディアも結構動揺していたのかも知れないな。
ディアはそのまま椅子に腰かけると、目の前のベッドをポンポンと叩く。
僕は何も言わずに倒れるようにベッドに座り込むと、ディアに右腕を差し出す。
ディアは優しく僕の腕を支えると、ゆっくりと巻いていた布を解く。
真っ赤に染まった腕からは、チラリと白いものが見えている。
あまり考えたくはないが、想像以上に傷は深いようだ。
「一応、麻酔は打つけど、針で縫うから怖かったら目を逸らしてた方が良いよ」
僕はそれを聞いてすぐさま顔を逸らし、左手に持っていた槍を眺めることにした。
「……業物じゃなかったのかよ」
「うん? ああ、私は業物と思われると言っただけだし、間違った事は一つも言ってないつもりだよ。今回は違ったけど、例えば、相手が魔法の書を持っていたとしたら、間違いなく回収した方がいいしね」
「……あっそ」
「その槍は、蒼が手離してもいいと思った時に離しなよ」
「……責任を放り投げるってこと?」
「違うよ。責任を自分で負う覚悟が出来て、そんな槍に頼らなくて良くなった時って意味」
……それはつまり、海賊として生きていく覚悟を決めた時という事だろうか?
それとも、天海へ行くために人を殺す覚悟の事か?
「……」
「……その様子じゃ、当分は離せそうにないね」
硬く槍を握り締めた左手を見て、ディアは苦笑しながらそう言う。
僕は溜息を吐きながら、今日の食事をどうするか考える。
……駄目だ。何も思いつかない。
ていうか、この腕で料理出来る気がしない。
「はい、出来たよ。薬が塗ってあるから暫くは外しちゃ駄目だからね」
「早いな」
右腕を見ると新しくなった包帯が巻かれていて、そこはかとなく独特な臭いがする。
「……そういえば、服ごめん」
僕は地面に捨てらている、血だらけになった服だったものを見て謝る。
ディアが迅速に応急処置をしてくれたから良かったものの、あのまま放置していたらどうなっていたか分かったもんじゃない。
それなのに、僕は今までディアにお礼どころか謝罪すらしていなかった。
「全然いいよ。それより、私の完璧なスタイルを見た感想は無いの?」
ディアはポーズを取りながら、おどけた感じでそんな事を言う。
今のディアは、下着とも言えないインナーのようなもの一枚来ているだけで、そのメリハリある身体を惜しみなくさらけ出している状態だ。
それにいつも近くにいるので忘れてしまいそうになるが、ディアは見惚れてしまうほどのとてつもない美少女なので、流石にこんな状況でもなかったら少しは照れていたかも知れない。
「……綺麗だよ」
「そ、そう? そんなにストレートに褒められると照れちゃうな」
ディアは少し焦ったようにそう言うと、ポーズを取るのをやめる。
僕はそんないつも通りだけど、少し新鮮なディアを見て……ようやく、自分が信じられないくらい歯を強く食いしばっていた事に気が付く。
……どうやら、ディアのおかげで僕にもほんの少し余裕が生まれたようだ。
「ありがとう、お姉ちゃん」
「……蒼、今日はゆっくり休んでね」
ディアは優しく僕を抱きしめると、静かに腰掛けていたベッドに僕を寝かせる。
僕は特に抵抗する事も無く、そのまま横になった。
「……寝る時まで、槍を握り締めてなくて良いんだよ?」
「こうなったのも、お姉ちゃんのせいだろ?」
「ごめんね。そこまで本気にするとは思ってなくて……」
「……いいよ。でも、流石に今日は離せそうにないや」
試しに離そうとしても、まるで左手と槍が一体化してしまったように離れる気がしない。
「……分かった。でも、ちゃんと寝るんだよ」
ディアはそれ以上何も言わずに、静かに医療室を後にする。
言われずとも、今は一秒でも早く寝たい気分だ。
僕はすぐに目を瞑ると、泥に沈むようにゆっくりと意識を落としていくのだった。
****************
夢を見た。
小さい頃、僕がいじめられていた時の夢だ。
……あの頃は、いつも兄貴が助けに来てくれるまで嫌がらせに耐える事に必死だったな。
——何で、やり返さなかったの?
そりゃあ、やり返したらまたやり返されるからだよ。
それに耐えていた時よりも、もっと酷い目に合わせられるかもしれないだろ?
——そうやって責任から逃げて、全部お兄さんに頼っていたんだ?
……え?
——だって、貴方の代わりに全部お兄さんが代わりにそいつらと戦っていたのだとしたら、そいつらが仕返しに行くのも全部お兄さんになるんじゃないの? だから、お兄さんは貴方の代わりにいつも戦い続けていたんじゃないの?
それは……。
——貴方は、もしかしたらお兄さんの皺寄せで不良達にリンチにあったと思っているかもしれないけど、本当は全部貴方の自業自得なんじゃない?
……。
——また、そうやって黙り込む。小さい頃から、何も変わってないのね。貴方は、この世界でもそうやってお兄さんが助けに来るまでずっと耐えてるつもり? 良い加減、自立するべきだとは思わないの?
……でも、僕は弱いから。
——本当に弱い人は、命を懸けてまで敵を助けたりしないと思うけどね。
……僕は誰も助けられてない。
——助けたよ。貴方のおかげで、悪い海賊達から大勢の人が逃げられた。
それは……全部、ディアのおかげだよ。ディアがいるから、僕はこの世界でも強がっていられてるんだ。
——……でも、あの子の行動に正義はあるの?
……え?
——あの子は、確かに君にとって、この世界でのお兄さん……お姉さんのような存在なのかもしれない。けど、あの子は君のお兄さんとは違うよ。正反対の存在と言ってもいい。
そんなの、当たり前じゃないか。ディアは、確かに兄貴みたいに僕のことを助けてくれるけど、兄貴じゃないよ。
——……いいよ。君に真実を見せてあげる。そうしなきゃ伝わらないと思うから……でも、もしも、困った事があったら、私の名前を呼んで。
名前?
——私は、サズウェル。
「…………サズウェル?」
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