第15話

浴衣を選びに行ってからの夏祭りまでの一週間、俺は何度か陽葵ちゃんを交えて明夫や樹と遊んだ。


その間、どんどん明夫と陽葵ちゃんの距離が近くなっていって、陽葵ちゃんはついに明夫の事を明夫と呼ぶようになった。


え?俺はって?


今も変わらず阿久津のままだ。


「俺さ、ひどい勘違い男なのかな……。」


祭り前、俺は樹に着付けをしてもらいながら俺の思いを聞いてもらっていた。


もう悲しくて俺は自分の顔を自分の手で覆い隠しながらずっとため込んでいた叫びを口にした。


「勘違いって……何?実は好かれてたかもって話とつながってる?」


俺の浴衣を手際よく気つけてくれる樹の返答に俺は頷いて見せる。


そう、まさにそう思わせられることがあったため勘違いしていたのかもしれないという話だ。


「パンケーキ一緒に食べに行った時もさ、幼少期に陽葵ちゃんが嫌いで俺が好きだったフルーツがあるんだけど、記憶を失ってから何故か興味が出てーって陽葵ちゃんが俺の好きなフルーツ好きになってたりとかさ?記憶を失う前に俺と一緒に過ごしたいとか親父さんに言ってたり……これ、別にそういう事じゃないのかな。」


恋愛経験のない俺は正直、ちょっとしたことですごく喜ぶ。


だから過剰に喜びすぎた結果、そう珍しくないことを好意があるが故の事と勘違いしていたのだろうか。


そしてもし俺がとんでもない勘違い男だというのであれば……


「うぅ……陽葵ちゃんの顔がまともに見れない。」


恥ずかしくて目を合わせられる気がしない。


それに――――――


「正直、どんどん陽葵ちゃんと仲良くなっていく明夫が妬ましい。今日だって陽葵ちゃん、明夫に迎えに来てほしいって言ってたしさ……。」


そう、何故俺が樹の家で着付けを受けているかというと陽葵ちゃんに祭り会場の神社んまで一緒に行こうと言って断られたためだ。


断れた悲しみで樹に電話したら「浴衣着たことないだろ?」といって家へ招いてくれたのだった。


陽葵ちゃんと向かうつもりでいた俺はネットで着付けを検索して何度も練習していた。


だから6回に1回はちゃんときれるようになっていたけど、それでもまぁ不安はあったし、何よりショックが出かかったため浴衣をもって樹の家へと上がり込んでいたのだ。


「ま、どうしても目を合わせられなくて気まずいなんてことになったら俺だけ見てたらいいよ。幸也がハブられないように俺がペアになってやるから、さ。」


樹は俺の帯をきつく締めて仕上げてくれる。


帯だけじゃなくて今日の俺の過ごし方まで決意させてくれた。


樹の言う通りあまりにもつらくなったら浴衣選びの時みたいに樹と絡んでおこうと思った。


だって……――――


(俺が話したいとか、一緒に居たいとか、そんな我儘押し付けるより陽葵ちゃんにはただただ楽しんでもらいたいし……。)


陽葵ちゃんには祭りをめいいっぱい楽しんでもらいたいから。


なんてことを考えている間に樹に浴衣を着せてもらった俺は今度は樹が着るというので樹のベッドに座って樹先生の着付けを見守ることにした。


そしてふと思う。


(本当、まじで何で寄りにもよって明夫なんだよ。)


イケメンの樹でなし、お隣さんの俺でなし。


やはり明るくてトーク能力があるほうがいいのだろうか。


だけどやはり悔しいけど――――


「俺が女なら間違いなく樹を選ぶんだけどな。」


なんて思ってしまう。


普段野郎の着替えなんてじろじろ見たりはしないけど、着付けというのもあって樹の体系をじろじろ見ていた俺はそう思わずにはいられなかった。


顔良し、スタイルよし、それにまぁそっけないところもあるけどいい奴だし。


そんなことを思っていると樹は俺を見て笑みを浮かべた。


「何、告ってる?」


ニヤニヤと笑いながら聞いてくる樹。


これは樹さん、どうやら俺をからかってくるつもりのご様子。


「もし何かのはずみで女の子になったら貰ってくれる?」


からかってくるつもりであろう樹に冗談めかしく言葉を返してみる。


ちょっと我ながら気持ち悪いとも思うけど口元に軽く握ったこぶしを当てて、かわい子ぶりっ子下ポーズを取りながら。


すると樹は盛大な溜息をついて自身の浴衣の帯に視線を落とす。


「ありえないもしもだな。でもまぁ……。」


慣れた手つきで浴衣を着終わる樹。


すると樹はゆっくりとかわい子ぶりっ子したポーズの俺へと近づいてくる。


そして――――――


「幸也が女だったら貰ってやるのは大歓迎。」


座っている俺の尻のすぐそばに腕を下ろして立った状態から上体をまげて俺に顔を近づけて答えてくる樹。


そんな樹の返答に一瞬驚いて見せると樹は俺の額にデコピンを食らわせてくるのだった。


そして「バーカ。」と笑いながら俺から離れると「そろそろいくぞ」といって部屋を出て行ってしまうのであった。

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