第13話

陽葵ちゃんと出かけてから一日空けて日曜日。


俺は陽葵ちゃんが浴衣を持っていないというので樹たちとの浴衣購入会に誘った。


「うっわ!めちゃくちゃかわいい子じゃん!」


可愛い子が大好きな明夫は陽葵ちゃんを見るや否やテンションがひどく上がった様子を見せる。


樹はそんな明夫のすぐ後ろで陽葵ちゃんに会釈をした。


そして陽葵ちゃんも樹に会釈を返す。


陽葵ちゃんを見る限りもう樹を怖い人と持っていなさそうでよかった。


(誘った後に思い出したけど二人の初の対面はあまり良好って感じじゃなかったから心配してたけど、問題なさそう。)


楽しいことはみんなで共有が一番!


陽葵ちゃんが今日もたくさん楽しんでくれたらいいなと思いながら俺たちは早速浴衣コーナーへと移動した。


「ねぇねぇひなちゃん!この浴衣なんてひなちゃんにどうかな!?」


浴衣コーナーにつくや否や、明夫が女性用の浴衣を陽葵ちゃんに見繕いだした。


というか、なれなれしくあだ名をつけて呼んでいるのが少し気になる。


「幸也、顔怖いぞ。」


「只今嫉妬中なんです~。」


樹に顔を指摘されて俺は俺の内心を語る。


なんか俺よりも陽葵ちゃんと距離感詰めているような気がして少しむかつく。


明夫のあのフレンドリーさを俺も少しは見習うべきなのだろうか。


「彼女楽しそうだな。」


「うん。それは正直にうれしい。」


楽しそうに明夫と浴衣を見ている陽葵ちゃん。


彼女の隣で一緒に選んでるのが俺じゃなくてちょっと残念だけど、楽しそうな姿を見れただけ良しとしよう。


なんて思ってた時だった。


「おーい、幸也!お前どっちの浴衣が好みー?」


すこし離れた場所から明夫が大きな声で両手に浴衣を持って聞いてくる。


公共の場なのに大声だすなよ……なんて小さく言葉をこぼして俺は明夫と陽葵ちゃんに歩み寄った。


「で、なんで俺の好み?」


「まぁまぁ、いいからいいから!」


どういう意図で聞かれてるのかわからないけどとりあえず聞かれたからにはこたえなければと俺は明夫の手に持たれている二つの浴衣を見る。


正直、よくわからない。


「うーん、俺はこっちの黒色かな。なんか綺麗な感じがする。」


よくわからなくてもよくわからないなりにちゃんと考えて答えを出す。


明夫が持っていたのはピンク色の浴衣と黒色の浴衣だった。


正直浴衣の良し悪しはわからないけど、単純な好みでいうと落ち着いた色のほうが好みといえば好みだ。


「だってさ、ひなちゃん。」


(ん、ひなちゃん?)


ひなちゃんということは陽葵ちゃんが俺の好みを知りたかったってことなのだろうか。


そういうことなのか陽葵ちゃんは「それじゃあ」といって俺が好みだといった浴衣に手を伸ばそうとした。


その時だった。


「俺はあんたにはそっちのピンクの浴衣の方が似合うと思う。」


黒色の浴衣に手を伸ばそうとする陽葵ちゃんの手が樹の声かけで止まる。


そしてそんな声かけをした樹を俺と明夫はひどく驚いた顔で見つめた。


だって――――――


「樹が女子に素直にアドバイスしてる……。」


俺と明夫は声をそろえて同じことを言う。


樹はどこか女子に冷たく、わざとか無意識かよく女子に無神経な物言いをしては「サイテー」と怒られている。


そんな樹が皮肉めいたことも何も言わずアドバイスしていることに正直驚かずにはいられない。


「……何、お前たち。そんな珍しいもんでも見たみたいな顔。」


「いや、だって事実珍しいじゃんかよぉ!お前、まさかひなちゃんに気が!?」


不快そうに顔をゆがめる樹に明夫が食い気味で言葉を返す。


明夫の言う通りだと俺も明夫に同調してうなづく。


すると樹は大きなため息をはいて俺をジト目で見つめてきた。


「え?な、何……。」


何でそんな顔で見つめられてんの?


って思う俺だが樹はそんな俺の反応を見てまた盛大にため息を吐いては口を閉じる。


俺、なんかやらかした?


「まぁ何であれ、あんたが気に入った浴衣選ぶのが一番いいと思う。俺らのはあくまで参考程度にして選んだら?」


どうやらどちらの浴衣にするか悩んでいたらしく、俺の発言によって黒を選びかけていた陽葵ちゃんは樹の声かけにより結局どちらにするか悩み直してしまっているようだ。


(俺も樹みたいに陽葵ちゃんのこと考えて選ぶべきだったな……。)


確かにかわいらしい陽葵ちゃんの印象から陽葵ちゃんに似合うのはどっちだと思うと聞かれたならピンク色と答える。


とはいえ今更なんか意見を変えるのもなと思いもう女心の分からん俺は何も言うまいと決めた。


ただ、どっちを着ても陽葵ちゃんは可愛いんだろうなって思う。


来週がひどく楽しみだ。


「なぁ幸也、俺たちは杉坂さんがどっちの浴衣を選ぶかは当日の楽しみにして先に自分たちの浴衣選ばないか?とりあえず後の事は女好きの明夫に任せてたら大丈夫だろ。」


「当日の楽しみか……うん、なんかそれもいいな!んじゃ二人とも、俺たちは先にメンズのほうに行ってるな!」


樹の提案に同感できた俺は樹と一緒に女性用の浴衣コーナーを離れた。


それに正直、俺たち二人の意見が分かれたわけだし、別々の好みを提示した二人の前では少し選びづらいかもしれないと思った。


(ここはお前に譲ってやる、明夫……。)


陽葵ちゃんと楽しく浴衣選びなんておいしい事本当は俺がしたかったけど俺は自分が思うにセンスがない。


陽葵ちゃんの浴衣選びの最適のパートナーになれない俺はおとなしく樹と共に自分が着る浴衣を選ぶのだった。

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