第12話

陽葵ちゃんとパンケーキを食べた後、俺たち二人は近くのデパートの中の店を色々見て回った。


本当に楽しい楽しいデートの時間は過ぎるのが早く、気づけばもう夕方だった。


「それじゃあ阿久津さん、また。」


「うん、また――――――あ、陽葵ちゃん、ちょっと待って!」


家の前についたことで別れのあいさつを交わしていた時、俺はふとあることを思いついき、陽葵ちゃんを引き留める。


そして俺はスマホの検索画面を開き、とある文字を打って検索をかけると目当てのものはすぐに見つかり、その目当てのページを陽葵ちゃんに見せた。


その目当てのページというのは再来週、近くの神社で行われる夏祭り特設ページだ。


「これ、一緒に行かない?って言っても今日あった樹ともう一人明夫っていう友達と行く約束してて、陽葵ちゃんさえよければ陽葵ちゃんも一緒にどうかなって。」


どうせ行くなら大人数のほうが楽しいに決まっている。


そうおもって提案したんだけど、陽葵ちゃんはすこし困ったような表情を浮かべじめた。


「あの、それは私邪魔じゃないですか……?」


絞り出すように疑問を口に出す陽葵ちゃん。


別に興味がないわけじゃない様子に俺は安堵した。


「邪魔なわけないって。それに多分陽葵ちゃんが一緒だと明夫はすっげぇ喜ぶと思う。あいつ可愛い女の子大好きだからさ。あ、でも仮に明夫に言い寄られても絶対良いななんて思っちゃだめだからね!あいつ、女の子皆にすぐ好きだとかなんだ言い出すから!」


明夫はいわゆる気が多い男だ。


だから仮にも陽葵ちゃんが明夫に惚れるだなんてことがあったら大変だと思い忠告をする。


すると陽葵ちゃんは笑いながら「はい。」と答えてくれる。


そして俺たちは一緒に夏祭りへ行くことになった。


幼いころにその神社の夏祭りに一緒に行ったことがあるけど、陽葵ちゃんはそれを覚えていない。


だから陽葵ちゃんにとってこの町で初めての夏祭りになるその祭りを陽葵ちゃんにいっぱい楽しませてあげたいなという思いを胸に抱きながら俺は陽葵ちゃんと別れ、家に入った。


その後、帰宅後は食事、入浴を済ませ自室へと戻った俺はタイミングを見計らったかのようなベストタイミングできた樹からの電話の着信に気づき、昨晩のように電話を取った。


っていうかごめん樹、今日も忘れてた。


とはいえさすがにそれを伝えるのは申し訳ない。


電話を取ってすぐに「今日は覚えてた?」と聞かれた俺は「もちろん」と嘘を返していた。


「んで、今日の電話はどういう電話?」


昼間もしかして何か俺に用事でもあって学校へ来ていたのだろうか。


なんてことを思いながら問いかけてみる。


すると樹は返答の間までに少し間を開けてから俺の問いかけに答えた。


『……あのさ、あの子と付き合い始めたわけ?』


真剣に低い声で問いかけられ、一瞬固まる俺。


しかし俺はそう間を開けることなく口を開いて言葉を返した。


「ううん、違う。っていうか付き合うことはないと思う。」


『幸也はあの子に対して恋愛感情はないってこと?』


「いや、俺はあるよ。でも付き合うとかはないと思う。」


樹の問いかけにこたえる俺の答えに理解ができないのか樹は電話の向こうで理解が難しそうにうなる。


普通に考えると俺が振られただの、向こうにその気がなさそうだの想像できそうなもんだけど、多分そう思わないのは昨日の晩、電話でめちゃくちゃ思われていた確率があるといったから俺の返答に疑問を抱いているんだろう。


普通だったら思い合っていたら付き合うものだろうし……。


でも俺がその選択肢を視野に入れないにはもちろん理由がある。


それは陽葵ちゃんに残された時間が後一年あるかないかだからだ。


仮に残りの期間のうちに陽葵ちゃんが俺に好意を持ってくれて、付き合ったとしても俺たちの恋は期限付きの恋。


陽葵ちゃんの記憶を消すと同時に俺たちの関係もリセットされる。


今は友達だから忘れられてもまた友達に戻れる。


だけど俺の思いを伝えて恋人にでもなろうものなら俺はその現実を受け入れられる気がしない。


だから俺は陽葵ちゃんにそういう意味で好きになってもらおうっていうよりは単純に今を楽しんでもらいたいって気持ちで接している。


とはいえ、これを樹に話すのはプライバシー的に良くない。


俺の返答にいまいち理解ができない樹には悪いけど、俺はそれ以上付き合う気がない理由について話すのはやめた。


「あ、そうだ。樹、陽葵ちゃん夏祭りに誘ったから。」


話題を変えようかなと思った際、ちょうどいいやとおもい先ほど陽葵ちゃんを誘ったことを樹に伝える。


すると樹は大きな声で「はぁ!?」と返してくるものの、俺はそんな樹に冷静に語り掛けた。


「祭りは人数多い方が楽しいじゃん?それに樹と陽葵ちゃんはもう顔見知りだし、明夫は女の子大好きだから気おくれしたりしないじゃん?それに何より、陽葵ちゃんには少しでも楽しいって思える時間をたくさん過ごしてほしいんだ。」


記憶を消すとき、多分今の陽葵ちゃんは「死ぬ」という表現でいいんだと思う。


最後の瞬間、眠りにつくときは幸せな思い出をたくさん抱いて眠ってほしい。


そんなことを思いながら樹に理由を話すと樹は俺の言葉に大きなため息をついた。


『……誘ったものは仕方ないから何も言わない。でも相談するとかくらいないわけ?』


「あはは、ごめんごめん。でも樹は俺のお願い断らないじゃん?」


『お前……あぁもう、好きにしてくれ。』


俺の返しに盛大な溜息をつくと樹はあきらめたように言葉をこぼす。


なんだかんだで俺に甘い樹に俺は心の中で感謝をしながら樹との電話をつづけた。


明日は土曜日ということもありその日は朝まで俺たちの電話は朝まで続いたのだった。

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