第11話
「いらっしゃいませ、何名様ですか?」
俺たちがパンケーキ屋に入ってすぐの事。
また新たなお客さんが店にやってきた。
俺たちが入ったころにはすでにすごい人だったんだけど、それでもさらに人は増え続ける。
どうやらひどく繁盛しているようだ。
ただ……―――――
(男の数の少なさやっば……。)
割と広い店内ほぼ満席だというのに男の比率が1割いるかいないかという比率。
本当に陽葵ちゃんがいなければ俺は一生この店に入れなかったかもしれない。
いや、というか陽葵ちゃんがいても正直なんだか肩身が狭い。
なんて思うけど、目の前で写真付きのメニューを見ながら目を輝かせている陽葵ちゃんの姿が目に映るとなんかもう、そんな肩身の狭さなんて気にならなくなった。
「陽葵ちゃん、注文するの決まった?」
俺は大好きなイチゴがふんだんに使われているパンケーキ1択だったためすぐに決まった。
すこしラズベリーやらクランベリーやらが使われているパンケーキも気になったけどイチゴがとんでもない量トッピングされている写真を見るとイチゴのパンケーキを頼まずにはいられないと思った。
「決めるのが遅くてすみません。こんなにおいしそうなのがいっぱいだと迷ってしまって……。」
俺の質問に少し申し訳なさそうな表情を浮かべる陽葵ちゃん。
そんな陽葵ちゃんの顔を見て俺は「しまった」と思った。
普段女の子と出かけたりなんてしないからどうやら「気遣い」というものができていなかったらしい。
明らかに注文が決まっている素振りの俺にどうやら申し訳なさを感じているらしい。
もう少し悩んでる素振りでもして気を遣わせないようにするべきだったと今更ながらに反省した。
「お、俺のことは気にしないでゆっくり選んでよ。本当においしそうなのいっぱいだから迷う気持ちもわかるしね!」
とりあえず全然待つという意思を表示してみる。
だけど陽葵ちゃんは相も変わらず少し申し訳なさそうだ。
どうしよう。そんなことを思っていた時、陽葵ちゃんは自分が持っていたメニューを俺に向けて見せてきた。
「実はこのイチゴのパンケーキとベリーミックスパンケーキで迷ってるんです。」
「…………え?」
写真を指差しながら何で悩んでいるのかを教えてくれる陽葵ちゃん。
そんな陽葵ちゃんの選択肢に俺は驚きを隠せなかった。
だって、俺がいいなって思ってたパンケーキと俺が注文する予定のパンケーキで悩んでいるなんて、なんだか俺たちの相性がいいように思えなくもないじゃないか。
なんて調子に乗ったことを考えていると後で神様にいたずらされそうな気がして俺は冷静さを保てるようににやけそうになった口元を引き締めた。
「あ、あのさ、陽葵ちゃん。もしよかったらだけど、俺イチゴのパンケーキ頼む予定だからその二つを頼んで半分ずつ分けない?俺もちょうどベリーミックスも気になってたんだ。」
男同士だと普段はシェアなんてしないけど、クラスの女子たちはよくシェアしたりするらしい。
ってことは女の子たちにとっては割と普通な事なのかもしれないと思い提案してみると陽葵ちゃんの表情は明るくなった。
どうやら俺の提案は不快ではなかったらしい。
その後俺の提案を快諾してくれた陽葵ちゃん。
俺たちはイチゴとベリーミックスを頼み、パンケーキの到着を待ち始めた。
楽しみなのかそわそわした様子の陽葵ちゃん。
そんな陽葵ちゃんを「可愛いな」と思いながら見つめているとふと昔の記憶を思い出した。
(そういえば陽葵ちゃん、昔イチゴとかベリー系とか苦手じゃなかったっけ……。)
俺が知る幼いころの陽葵ちゃんの好きなフルーツ。
それは桃とブドウだった。
(別にメニューにはどっちもあるよな……。)
どちらも候補に挙がっていなかったが少し驚きだ。
だけどもしかすると記憶を失ったせいで好みが変わったりしたのかもしれないし、成長する過程で好みが変わったのかもしれない。
あまり昔の話をするのは記憶を取り戻させそうで避けたい。
疑問には思ったけど俺は口にするのは控えようと思った。
その時だった。
「あの、阿久津さん。阿久津さんはイチゴとかラズベリーとか……ベリー系がお好きなんですか?」
「え?あ、うん。」
考え事をしていた最中に突然声をかけられて俺は少し驚きつつも返答を返すがとっさの質問だったためちょっと返答がそっけなくなってしまう。
急ぎ何か言葉をつづけようと思い口を開こうとするが、俺よりも先に陽葵ちゃんが話し始めた。
「阿久津さんは小学生時代の私を知ってらっしゃるんですよね。でしたらご存じかもしれないんですが、記憶喪失になる前はイチゴも含めベリー系ってあまり好きじゃなかったんです。でも、中学に上がった頃にイチゴを見たとき、苦手なはずなのにひどく興味が沸いて、口にしたら気に入ってしまって……。今少しだけ、阿久津さんの影響なのかもしれないと思ってしまいました。」
少し照れくさそうに肩を狭めながら話す陽葵ちゃん。
そんな陽葵ちゃんの素振りは言うまでもかわいく、さらに発言まで南下可愛すぎるときて俺の胸の中にひどく熱い感情が芽生えてくる。
(っていうか俺の影響でって何!?めちゃくちゃ嬉しすぎない!?)
俺が好きだったものをなんとなく覚えていたみたいな感じなんだろうか。
俺の記憶なんて全くないと思ってたけど、本当にかすかには今の陽葵ちゃんの記憶の中に俺はいるのだろうか。
だとしたらそれはとても嬉しい。
嬉しいんだけど……――――――――
(やばい、なんか気恥ずかしくなってきた……。)
目の前のひどくかわいすぎる陽葵ちゃんに気恥ずかしさから視線を向けられなくなってしまった俺はパンケーキの到着までずっと視線を前にいる陽葵ちゃんではなく、下に落とし続けたのだった。
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