第10話
楽しい楽しいデートの始まり。
そう思い浮かれていた俺だったけど――――――
「…………。」
「…………。」
現在お互い無言で気まずい状況で街を歩いていた。
一体何があったのかというと、それは先ほど俺が何も考えず陽葵ちゃんの手を引いてしまったからだ。
別に嫌だということを言われたわけじゃない。
ただ、ここまで来る道中商店街を通ったことがまずかった。
買い物が終わってか否か店の前や道すがらで話をしているお母さん方に「かわいらしいカップル」だの「初々しいカップル」だの言われてしまい、お互い意識してしまって今に至るというわけだ。
もちろん俺としては可愛い陽葵ちゃんとそんなふうに見られるのはうれしいわけだけど、陽葵ちゃんはいまにも顔から火が出そうなくらい顔を真っ赤にしていて、申し訳なくなって手を離したら距離が生まれたのだ。
そして俺もつられてひどく恥ずかしくなり、今ではお互いに赤面しながら無言で歩いていた。
話しかけようにもひどく恥ずかしそうにうつむいてる陽葵ちゃんを見てるとなんか話しかけられない。
とはいえずっとこのままでいいわけもない。
とりあえず恥ずかしい思いをさせたことを謝ろう。
「ひ、陽葵ちゃん。その、ごめん。俺が考えなしに手をつないだせいでその、恥ずかしい思いさせちゃって……。」
とりあえず恐る恐るちらちら陽葵ちゃんの反応を気にしながら謝罪をしてみる。
とはいえ、これで「すごく恥ずかしかった」と返答されると傷つきそうと口から出した後に謝罪文に問題があったと気づいてしまう。
なんていわれるのだろうか。
そう怯えながら言葉を待っていた時だった。
陽葵ちゃんが俺のベストを軽くつかんだ。
「あ、あの、私の方こそごめんなさい。彼女と間違われるなんて迷惑じゃなかったですか……?」
上目遣いで顔を真っ赤にさせ、さらに口ごもりながら頑張って話しかけてくる可愛い陽葵ちゃん。
何これ、俺、興奮しすぎて鼻血でそうなんですけど!
あまりにも可愛すぎる陽葵ちゃんに一瞬見とれて言葉を失くす。
しかし俺はすぐに我を取り戻し足を止め、陽葵ちゃんに向き合い言葉を返した。
「迷惑なんて絶対ないよ!むしろ俺としてはうれしいっていうか……陽葵ちゃんみたいなかわいい子とカップルに間違えられるなんて俺、役得すぎて世の男たちみんなに恨まれそうだよ。」
すこし照れくさくなりながら俺は何一つ飾らない俺の本心をぶつける。
そんな俺の言葉を聞いて陽葵ちゃんの表情は一瞬明るくなった。
だけどその次の瞬間、陽葵ちゃんの表情が陰りだした。
「で、でも、その、私とそういう関係だって勘違いされると困る方がいるんじゃないんですか?その、樹さん……とか……。」
恐る恐る口にされる言葉。
その言葉を聞いた瞬間、俺は首をかしげることしかできなかった。
何でここで樹の名前が出るのだろうか。
(別にここに樹はいないし、恋人思われて俺に恋人ができたとクラスで言いふらしてからかうタイプではまずない。というか俺はむしろ陽葵ちゃんとなら勘違いされたいと思うし……。)
考えれば考えるほどわからない。
「えっと、ごめん。どうして樹の名前が出てきたか聞いていい?」
考えてもわからないことは聞くに限る。
しかしその俺の問いに陽葵ちゃんはよりいっそう困ったような表情を浮かべ始めた。
「その……えっと……樹さんとは特別な仲……ではないんですか?」
「特別?いや、普通の友達。あぁでも、なんだかんだ数年は一緒に居るから特別な友達ではあるのか?」
特別というのはどこからが特別でどこまでが違うのだろう。
正直まぁ、それは人それぞれの価値観だろうと思う。
「うーん……まぁよくわかんないけど、俺にとって今一番特別なのは陽葵ちゃんだし、陽葵ちゃんが勘違いされて不快じゃないって言ってくれるならそれでいいかな!」
「そ、そんな!不快なわけありません!!」
優しい陽葵ちゃんは俺の言葉に力強く返答してくれる。
その言葉に俺は「あぁ、幸せだなぁ。」なんて思ってしまう。
だってこれ、絶対脈ありだよね!?
(記憶喪失って言っても思い出す可能性があるって言ってたし、心のどこかで俺の事覚えてくれてるのかな。)
別に好かれていたという保証はないけど、確実に嫌われていたわけではないとわかった今、俺はちょっと調子に乗ったことを考え始める。
さらに調子に乗った俺は陽葵ちゃんに俺得な提案を持ち掛けた。
「あのさ、陽葵ちゃんさえよければその、この道抜けて駅前に言ったら人増えるし、はぐれないように手、つながない?」
むっつりだなんだといわれても構わない。
はぐれないようにという口実でただただ俺がつなぎたいだけだ。
そんな俺の下心など気づいてか否か、陽葵ちゃんの手はセーターから俺の手元へと移動してくる。
「あの、よろしくお願いします。」
恥ずかしそうに手を差し出してくる陽葵ちゃん。
そんな陽葵ちゃんがかわいすぎて俺はこうして肩を並べて歩ける時間が永遠に続いてほしいと願うばかりなのであった。
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