第9話

(今日はデート、デート!陽葵ちゃんとデート!)


補習2日目。


俺は1日目とは違い中々のハイテンションで補習に臨んでいた。


とはいえ、今の俺はその約束が待ち遠しくて流行る気持ちばかりがあふれてくる。


授業に集中できるわけもなく、俺の補習で座っている席からは待ち合わせの場所である校門が見えるのもあり、俺は数分おきに待ち合わせ場所をチラチラ見ていた。


そして授業も残すことあと15分となったその時だった。


校門の前に陽葵ちゃんらしき人の姿が現れた。


(うぅ、遠くからだとどんな格好してる見えない……。)


一体陽葵ちゃんは今日はどんな格好をしているのだろうか。


それが気になって校門あたりをじっと見つめていた時だった。


俺と待ち合わせ居ている陽葵ちゃんに向かい、一人の男が近寄っていく姿が見える。


そしてその姿は驚くことに俺のよく知る人物だった。


「あれ……?あれって、樹?」


樹はどうやら陽葵ちゃんに話しかけたように見える。


(樹って基本女子に自分から話しかけたりしないよな……?)


普段見られない樹の珍しい行為に一瞬驚く俺。


だが次の瞬間にはその驚きは別の感情に変わっていた。


(ま、まさか陽葵ちゃんのあまりの可愛さにあいつ、ナンパしてるんじゃないだろうな!?)


普段女の子に話しかけたりしないくせに話しかけているということはそれだけ何かしら陽葵ちゃんに特別な何かを感じた事なのだと俺はすぐに思った。


(い、いや、でも待て。もしかしたら知り合いって説だって……――――)


足りない頭と覚えの悪い頭をフル回転させてみる。


だけど二人に接点がありそうと思えるようなことは何も思い浮かばなかった。


(そもそも樹は俺が中3の時に他県から転校してきたし、海外にいた陽葵ちゃんとは接点という接点があるように思えない。ということはやっぱり―――――)


考えられることはそう、一つだけ!


一目ぼれしてナンパしているかだ。


(ま、まさか俺が女の子といい感じって話をしたからあいつも彼女が欲しくなったとか!?どどど、どうしよう!あんなイケメンに話しかけられたら陽葵ちゃんだって……――――)


今はほぼ他人といえる俺たちの関係。


つまり俺と樹の立ち位置はそう変わらない。


そこで片や成績優秀のイケメンの樹に片や平凡な顔で平凡以下の頭の俺。


(は、張り合いにならねぇぇぇぇぇ!!!)


俺は心の中で悲痛に叫んだ。


駄目だ、勝てる気がしない。


(と、とにかく陽葵ちゃんが樹に落とされる前に授業よ、早く終われ―――――!)


陽葵ちゃんと樹が話し始めてからの約15分間は非常に、非常に長い時間に思えた。


けれど俺はそんな長い時間を耐え抜き、授業が終わると教室を飛び出し、陽葵ちゃんの元へと向かった。


そして校門近くまでかけてくると大きな声で陽葵ちゃんの名前を呼んだ。


「あ、阿久津さん!」


俺の声が聞こえた瞬間、振り返ってくれる陽葵ちゃん。


(……あれ?)


そんな俺の声に反応して振り返ってくれた陽葵ちゃんの表情を見て俺は少し固まってしまった。


(な、なんでそんな泣きそうな顔なの?)


今にも泣きだしてしまいそうな、そんな顔をしている。


そんな陽葵ちゃんの隣には浮かない顔の樹がいた。


(……何、この感じ。)


思っていた感じと大分違いすぎて戸惑ってしまう。


(なんで陽葵ちゃんは泣きそうなわけ?それに樹は樹で陽葵ちゃんが俺の知り合いだってことに驚いた感じがないって……。)


何だろう。


理解が追い付かなくて少し気持ち悪い。


「え、えっと、教室から見えてたよ!なんか二人で話してたみたいだけど、その……ふ、二人ってもしかして知り合い……だったりする?」


最初は樹がナンパしてるのかと思ったけど、明らかにそんな空気じゃない。


となると知り合いのほうがまだ考えられるわけだけど……――――


「別に。見慣れない子がいたからもしかしたら幸也のデートの相手かもって思って声かけただけ。そうだよね?えっと……名前聞いてなかった。教えてくれない?」


「え……?あ……す、杉坂陽葵です。」


樹に聞かれてひどく戸惑いながら答える陽葵ちゃん。


何だろう、少しおびえているように見えなくもない気がするけど……まさか、まさかな。


(いやいや、あれだよ多分。樹基本クールでちょっと女子に冷たいところあるから

怯え……―――)


「って、樹!お前女の子怯えさすなっていつも言ってるだろ!?」


怯えているわけがないと思おうとしたけど怯えているとしか考えられなかった俺は樹をしかりつける。


すると樹は唇を尖らせ、俺から視線を外した。


どうやら自覚があるらしい。


「あぁもう、陽葵ちゃん、樹がごめん!後であいつにはみっちり言い聞かせておくから!」


俺の友達が失礼な態度をとってごめんなさい!


そんな思いから謝罪をする俺だけど、そんな俺に陽葵ちゃんは慌てたように「大丈夫」といってくれた。


なんて優しい子なのだろうと感心していた俺。


そんな俺の肩に樹の手が乗せられた。


「夜、電話するから。今日は忘れるなよ?」


「え?お、おぉ……。」


なんだか不機嫌そうに電話の約束だけ取り付けると樹は俺たちに背中を向けて歩き出した。


「……う~ん、何しに来たんだ、あいつ。」


よく見ると樹の格好は制服ではない。


つまり別に学校に用があったわけではなさそうだ。


たまたま通りがかったとかなのだろうか?


(……馬鹿の頭では考えてもわからない。)


俺は早々に考えるのをあきらめた。


そして考えるのをあきらめた俺は陽葵ちゃんへと向き直り、陽葵ちゃんの手を取った。


「それじゃあ行こうか!陽葵ちゃん!」


陽葵ちゃんの手を取ると俺は笑いながらそう言った。


そして昔よく手をつないで歩いた癖で無自覚に陽葵ちゃんの手を掴んでしまったことを後悔するのはしばらく後の話だったのだった。

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