第5話
「あの、どうぞ。」
「お、お邪魔します。」
校門で陽葵ちゃんに声をかけられた俺は自分の家の隣にある陽葵ちゃんのうちにお邪魔することになった。
(ってか隣の家に帰ってきてたんだ。でも、そうだよな。陽葵ちゃんの家、売ったわけじゃなさそうだったし。)
表札はいつまでたっても杉坂のままだった。
元々ここに帰ってくるつもりはあったということなのだろうか。
にしても……
(陽葵ちゃん、俺と一定の距離を開けて歩いてる。それになんか本当、ひどくよそよそしいというか……。)
校門の前で会ったときに俺は「家にきませんか?」と声をかけられた。
もしかして俺のことを思い出してくれたのかもと思ったけどそれはやっぱり勘違いらしい。
ここに来るまで全然会話もなかったし……。
話しかけられなかったから話しかけていいものかわからず俺は会話を切り出せなかった。
それに話せば話すほど彼女は俺のことを覚えていないと実感させられる気がしてなんか虚しくなったというのもあるわけで……
何はともあれ、現状俺はこうして家に御呼ばれした理由が全く持って理解できていなかった。
(昔みたいに仲よく遊んだりはもう、難しいのかな……。)
なんて思っていた時だった。
俺の尻のポケットの中に入れていたスマホが震える。
それは樹からのラインの通知だった。
(あ~……そういや俺、帰るの待ってるって言われてたよな。忘れてた……。)
すまん樹。薄情な俺を許せ!
というか忘れっぽいことを許してくれ。
(まぁとりあえず隙を見て返すか。)
今は陽葵ちゃんに連れられて移動中だ。
そんな中スマホをいじれるわけもなく、俺はスマホを尻のポケットに直した。
(ってかどこに連れていかれるんだろう、俺。)
幼少期何度か来たことがある陽葵ちゃんの家だが今俺は始めていく部屋へ案内されていると見える。
何と俺は今地下へと続く階段を下っているのだ。
正直こんな道は記憶にない。
少なくとも幼少期にこの場所に着ていたらヒーローものの秘密基地みたいだと深く印象に残り、忘れたりはしないはずだ。
でも覚えていないということはこの先に行くのは初めてなんだと思う。
そんなこと思いながら階段を降りると扉が一つ見えた。
陽葵ちゃんはその扉の前で立ち止まり、扉を軽くノックした。
「陽葵か?入ってくれ。」
扉の向こうから男性の声が聞こえる。
この声の主はもしかして、と思いながら陽葵ちゃんに招かれ地下室へと足を踏み入れると、そこには一人の男性が白衣を着て立っていた。
その男性の顔は陽葵ちゃんの顔とどこか似ていた。
そしておそらく彼は俺が想像していた人物だ。
「あの、もしかして、陽葵ちゃんのお父さんの……えっと……」
「
博之さんはそういって静かに俺へと歩み寄ってくる。
そして俺の頭をポンポンと優しく叩いた。
「元気そうで何よりだよ、幸也君。陽葵、悪いけどお茶を持ってきてくれるかな?すこし彼と二人で話したいからゆっくり頼むよ。」
「うん、お父さん。」
にこにこと優しい笑顔を浮かべながら陽葵ちゃんにお茶を頼むと陽葵ちゃんはそれを快諾して部屋から出ていった。
(なんだ、俺に用があったのは陽葵ちゃんじゃないんだ。)
いや、覚えられていないのに一体どんな用を持たれるというのだろうか。
解りきっていたことだがそれでもなんていうか……肩を落とさずにはいられない。
「ごめんね、幸也君。突然呼びつけてしまって。」
「あぁいえ。でもなんでわざわざ俺の高校の前まで迎えに?」
家が隣なんだし、俺の帰宅を待てばいいだけの話だ。
というか、俺の高校を知っていたということは俺の高校に来るために大方母さんにでも俺の高校を聞いたりしたのだろう。
なんか考えれば考えるほどただ手間がかかっているとしか思えない。
「陽葵がね、君を高校まで迎えに行きたいと言い出したんだ。」
「陽葵ちゃんが?あれ、でも陽葵ちゃん昨日は俺のこと覚えてないって言ってたのになんでそんな奴のことを迎えに?」
まさか一晩で思い出したとでもいうのだろうか。
いや、だとしたら今日のあそこまでのよそよそしさは理解できない。
だったらいったい何故陽葵ちゃんは俺を迎えに来てくれたのだろうか。
そりゃ別に高校もここから徒歩で行ける距離にはあるけど、やっぱり手間だと思う。
「君とこの街を歩きたかったそうだ。」
「え?」
「……座って話そうか。良かったらそこの椅子に座って。」
「あ、はい。」
博之さんに促され、俺は自分の近くにあった椅子に腰を掛ける。
その際ついついゆっくりと腰を下ろしながら部屋の中を見渡してしまう。
どうやらこの地下室は何かの研究室みたいだ。
大きなケースがあって、そこにいろんな機械から管がつながっている。
ここで何か大がかりな研究でもしているのだろうか。
というか……
(なんかドラマの世界に来たみたいだなぁ。)
ドラマとかで見る大がかりな研究所のセットみたいな場所に今いることが少しだけ信じられない。
別段大きな部屋というわけじゃないけど、狭いからこそ機材まみれなこの部屋がなんか男心をくすぐるというか、なんかちょっと興奮せずにはいられない。
「さて、それじゃあ君にわざわざ足を運んでもらった理由から話させてもらおうかな。」
「あ……は、はい!」
あたりをぶしつけにもきょろきょろ見回していた俺に博之さんが声をかけてきたことにより俺の背筋がピンと伸びる。
なんかこういう場所でする話って内容が何かはわからないけどドキドキするっ……。
しっかり話を聞かなくては。
ついつい身構えながら博之さんの言葉を待っていると博之さんは突然頭を下げだした。
「博之君、どうかお願いだ。君の1年を陽葵のために使ってもらえないだろうか。」
「…………え?」
突然想像もしていなかったお願いをされた俺はの口からは間抜けな声が零れ落ちてしまう。
そんな俺の声を聴いた博之さんは静かに下げた頭をあげ、浮かない表情を浮かべ始めた。
そして――――――
「幸也君、今の陽葵に残された生きる時間はもう
一年もないんだよ。」
浮かない表情で力なく耳を疑いたくなるような話しを話し始めたのだった。
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