第5話


「ぎゃああああああ!!!!」


俺の叫び声は静けさ漂う夜の村には十分に響く大きさだった。


俺は村中に響く自分の声に多少の恥ずかしさを感じながらおっちゃんに問いかける。


「お、おっちゃん。これは一体どういう状況...??」


「おお、クラ坊か。どうもこうもねえんだ。さっきからこんな調子でよお。こんなのが店の前にいたら商売あがったりだぜ。」


「こんなのとはひどいな、おっちゃん。」


「そうだぞ、おっちゃん。」


「訂正を申し立てます、おっちゃん。」


「おっちゃんおっちゃんうるせえ!!」


土下座していた獣人たちが上体を起こしおっちゃんに異議を申し立てる。もちろん彼らの相棒たちもこんにちわしていた。本当にひどい光景だ...。


「と、とにかく!うちには泊められねえよ!あんたら来訪者は俺たちにとっちゃ不気味なんだ!」


まあ、そーだよなあ。いくら村長たちが頑張って取り決めてもいきなり空から現れた得体のしれない存在を自分の宿屋に泊めたいと思う変わり者はそういないだろうしな。


「そ、そんな!私たちほかに行くあてもないんです!お願いします!」


その声の主はいままで獣人たちの後ろでフードに隠れた顔を赤くしながら立っていた女性だった。全身を白いローブで隠していても分かるほど彼女にはなにかオーラがあった。


女性はフードを取ると綺麗な金色の瞳を濡らし、桃色の腰まである髪を揺らしながらおっちゃんに頭を何度も下げている。


肌も雪のように白くきめ細やかで身長は俺の肩程まではある。胸は控えめだがそれもまた男心をくすぐるポイントなのだ。


要するに...


「そこの麗しき女性よ。私の宿屋に来ませんか??」


超絶美人なんです。思わずナンパしちゃいましたよ、はっはっはっ。


「クラウン...何してる?」


「でぃ、ディア!?なんでここに!?」


「クラウン帰ってくるのいつもより遅かったから。」


ディアからとてつもない殺気が放たれているよ。はっはっはっ...。


「て、天使か??」


「俺たちは幻覚でも見させられているのか...?」


「ワンダフル...。」


おい、虎の獣人さんよ、なるなら犬でなく猫だろうが。


いや、そんなことはこの際どうでもいい!このままでは俺の体裁が!命が!!


「と、とりあえず!あんたら泊まるところに困ってんだったら俺の宿に来いよ。」


「い、いいんですか??」


いいんですよ。話を逸らせればなんでもいいんです。


というか美人さん、そんな上目づかいは反則ですたい。


「助かるぜ!クラ坊!」


おっちゃん、気持ち悪い上目遣いを見せてくるな。吐くぞ。


「ああ、困ったときはお互い様だしな。」


俺はにこっと笑って見せる。すると美人さんの頭から湯気が吹き出し、顔が真っ赤になっているのが夜の闇の中でも分かった。


「失礼、あなたとそちらの少女のご関係は??」


エルフが脱いでいた服を着ながら尋ねてきた。鬼人と獣人も唾を飲み込みながら目をかっぴらいている。


「ああ、それはな...」


俺はわざと下卑た笑みでこう言うのだ。


「秘密だ。」


途端に彼らの目から光が消え、俺と同じような笑みを浮かべる。


「なるほどなるほど。秘密ですか。」


「俺っちもそれなら野暮なことは聞けねえなあ、秘密なんだもんなあ。」


「ああ、そうだな。秘密ならしょうがねえ。」


「ああ、お前らみたいに存在が下ネタみたいなやつとディアを関わらせたくはないんでなあ?」


「「「「ま、これからよろしく。」」」」


そして四人は握手を交わす。彼らの手には血管が浮き出ていた。


ここに汚い男の友情が結ばれましたとさ。


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