第2話

完全に聞こえてきた。


俺が、ここにいる人間の中で俺だけは聞き間違えることのないその言葉。


あれは間違いなく俺と同郷の、日本から来た人間達だ。


俺と同じ転生者?いや...だとすれば赤ん坊からのはず。てことは転移の類の何かか...


俺はこの理解不能すぎる状況で一周回って落ち着いている自分に驚きつつも周囲をもう一度見渡す。


この世界の住人はいきなり現れた正体不明の存在に警戒心をむき出ししている一方で、日本人たちは自分の顔をぺたぺたと触ったりあたりをきょろきょろ見たりと動揺をあらわにしている。


「いったい何が起きてんだ。」


俺がそういった間際、空に大きな亀裂が走った。


その亀裂は徐々に大きさを増していく。そして亀裂の拡大が収まると同時に亀裂の中から神々しい金髪を揺らしながら大きな顔がにょきっと現れ、すぐに上半身まで亀裂から出てきた。。


女性の顔だ。その女性は目をつむっていた。あたりが一斉にその女性に注目する。


「ふっふっふ...」


女性が不敵な笑みを浮かべる。そして閉じた瞼を開けた。


その瞬間、性別を問わず生きとし生けるものそのすべてが彼女の翡翠色の眼に心を奪われた。


「おいおい、なんであんたがここにいるんだよ。」


俺は苦笑いを浮かべる。


俺もあの眼に一度は心を奪われた一人だが、彼女と会うのはこれで二度目。周りの者よりは耐性がついており、苦笑いを浮かべ軽口を吐く程度の余裕はあった。


「僕の神名はタルタル。この世界を統治する女神であーーる!」


彼女、タルタルがにっこりと笑っている。そう、彼女は女神。この世界の親にして唯一絶対の存在。


「んーと、ひーふーみーよー...もう!数えるのやめ!みんなちゃんと転移できたかなー??」


彼女は両手で双眼鏡の形を作り、日本人の数を確かめるそぶりを見せた。


「て、転移って。一体何なんだよ!あんた一体誰だよ!」


「そーだ!てめー一体何者だ!」


「ここはどこなのよ!」


「そうだ!何カップかぐらい答えろ!!」


日本人たちは激しく女神を問い詰める。一方、この世界の住人達は彼女の出現に慌てふためいたり、涙を流し手を合わせたりしていた。


とりあえず最後のやつはよく言った、もっと言え。


「はーい、皆さん落ち着いてーー。今から全部説明してあげるからさ。」


タルタルは一度大げさに咳払いをして見せると口を開いた。


その調子でカップ数も教えてください。


「うおっほん。では、おめでとうございます!あなた方日本人は来訪者としてここ異界フィムスの地に降り立ちました!」


周りではまだタルタルの言っていることの意味が分からず、ぽかんとしている者が数多くいた。


「そんでもって来訪者の皆さんには神の遊戯に付き合ってもらっちゃいます!」


徐々に自分の置かれている立場を理解してきた日本人たちは顔を青く染め出す。


かく言う俺もこの状況に理解が追いついており、口を開けて呆けていた。


これはカップ数とか言ってられないかも知れない。


「女神タルタルよ!それは一体どういうことだ!それでは私たちがあなた方神の暇つぶしのために用意されたおもちゃのようではないか!?」


突然大声でタルタルを怒鳴りつけたのは黒ぶちメガネをかけたこめかみあたりの髪の毛だけが赤い黒髪の男性。命名メガネ君としよう。


メガネ君は怒りで燃え滾ったような黒ずんだ赤色の眼でタルタルを睨んでいた。


「んー、暇つぶしか...うん、否定はしないかな。神たちの暇つぶし、さしずめ神の暇つぶしゴッドフィムスってとこだね。」


「なっ!」


メガネ君は神の理不尽な物言いに衝撃を隠せないでいる。


「それじゃあ、現状把握も大方すんだはずだし。そろそろ。ゲーム内容の説明と行こうかな。んー、そりゃあ!」


タルタルはおもむろに人差し指を天高く上げると勢いよく下にさげた。


途端に空から不気味な崩壊音のような音が聞こえ、その音は次第にこちらに近づいてくる。


<ドオオオオオン!!!!>


音の正体は落下のスピードを止めることなくついに地上の俺たちの目の前、村の中央広場のど真ん中に落ちてきた。


それは真っ白な塔だった。何人の穢れも持たぬ、神が生み出した至高の塔。


「これが君たちのバトルフィールド。名を...神からの贈り物ミスチーフとでも名付けようか。君たち来訪者には今よりこの塔を攻略してもらう。」


「なんでそんなことしなきゃならないんだ!」


「家に帰して!!」


「そろそろ何カップか教えろよ!」


「俺にはスリーサイズを教えてください!!」


同志が増えただと!?いいぞ同志たち!もっと言え!!


女神の横暴さにしびれを切らした者たちが次から次へと不満の思いを吐露する。


「だーめ。言ったでしょ?神の暇つぶしだって。君たちには頑張ってもらわなきゃ。まあ、元居た世界に帰る方法がないわけでもないけど。」


女神の一言で来訪者たちから不満の声が消える。


「君たちが元居た世界に帰る唯一の方法。それは、ミスチーフの完全攻略だ。ミスチーフは全百層構造。その一層ごとにエリアボスが存在する。

そいつらをどんどん倒して百層のエリアボスを倒した時点で完全攻略っていう仕組みだ。」


女神は続ける。


「うすうす気づいているとは思うけど、君たちがいまいるこの世界フィムスは君たちのもといた世界の大人気ゲームとそっくり、というか同じ世界設定なんだ。

 君たちも元居た世界の自分たちと見た目も体格も違うはず。厳密にいえば自分たちがゲームで使っていたアバターそのままのはずだよ。

 まあ、それもこれも全部僕の仕業だったりするんだけどね。当然、ゲームで使っていた武器、技、知識そのすべてが君たちのものだ。」


女神が両腕を広げた。


「この意味が分かるかい?君たち来訪者一人一人がこの世界の英雄並みの強さと知恵を持っているということだ。そんな君たちの全力をもってこの塔に挑む。ワクワクしてこないかい?」

 

女神は来訪者達に語りかける。


関係ない俺でさえも鳥肌が立ち、闘志がみなぎっていくのを感じた。


それは多分来訪者たちも同じであるに違いないはずだ。


女神おそるべし。


「ルール説明はこのぐらいかな。さあ、挑むも挑まぬも君たちプレイヤーの自由。君たちが英雄となるか、もしくは神をも欺く何者かになるか、楽しみにしているよ?」


女神がちらっと俺の方を見た気がしたのは気のせいなんだろう。うん、そうだ。僕ちん関係ないもんね。清廉潔白、真っ白なんだから。


「それじゃあ、皆の衆。あ、言うの忘れてたけどここでの死は元居た世界の死とおんなじだから。頑張ってねー。」


そうして女神は亀裂の中へと姿を消した。


あ、あの女神様最後にとんでもない爆弾おいてったぞ。


爆発まで、3,2,1...


「「「「「「ふ、ふざけんなあああああ!!!!!」」」」」」


ドカーンですわ...


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