第1話
俺ことクラウンは元日本人である。訳あって死んでしまった俺を嘆いた女神様とやらが俺をこの異世界フィムスに転生させてくれた。
だが、最初から異世界満喫ライフをおくれていたわけでもない。俺の転生先は捨て子の赤ん坊でそれはもう幼少期は苦労したものだ。
そんな苦労人である俺は今何をしているかというと...美少女、ディアと買い物に来ていた。
ディアの身長は俺のへそ下あたりまでしかないため傍から見たら兄弟に見間違えられているかもしれない。
それなのにというべきか。それにしてもというべきか。まったく、周りの男どもからの視線が熱いぜ。俺が見せつけるようにディアと手をつなぐと周りを歩く男どもからの視線は羨望のそれではなく、殺意的なあれになってしまっていた。
「おっさん。スコップ1つ。」
筋骨隆々のいかにも冒険者といった格好の男が武器屋でスコップを買っている。今の冒険者稼業にはスコップが必要なのだろうか。
「あ、俺も。」
「俺にもくれ。」
お、やっぱり人気があるようだ。
「俺には惚れ薬を。」
「「「抜け駆けは許さああああん!!!!」」」
「うるせぇぇ!!ディアたんは俺のもんだぁぁぁぁぁ!!!」
危うく俺が埋められてしまうところだったらしい。とりあえず最後の一人は俺のブラックリストに追加しておこう。
俺もまだ死にたくないのでディアとつないでいた手を離す。
するとディアがあからさまに落ち込んでいたのが分かった。
「...分かっててやってる。クラウン、ばか。」
「す、すまん。」
美少女からの一撃は見事に俺の鳩尾に直撃した。
「言葉の力は偉大だよね...。」
俺が肩を落としていると、そんな俺の視界に一瞬目がくらむような光が入ってくる。
そして次の瞬間。
<ドゴオオオオオン!!!!!>
巨大な雷が俺たちのいる村の広場の中心あたりに落ちてきた。
「な、なんだ!?」
俺を含めあたりにいた全員がうろたえ始めるが、隣を見るとディアは全く動揺せずにただ落ち着いていた。
ディアは何かに気づくと俺の服の裾を引っ張りその何かを伝えようと指をさす。
「ん?どうした、ディア?...って、なんかいる?」
徐々に砂埃が収まっていく。
ディアの指し示す方向を見ると、そこにはたくさんの人影のようなものが見えた。
辺りでは人影に気づいた者たちが武器を構え戦闘態勢に入っていた。
砂埃が収まった。そして砂埃の中にいた人影たちがその姿を現す。
「っ!!」
俺は驚き、唾をのんだ。
そこには完全武装したこの世界に存在するあらゆる種族たちがいた。その数は優に五百は超えているはずだ。
そして戦士一人一人が持つオーラは明らかに異質なものでそれが事の異常さをより鮮明に表していた。
「な、なんだあれ。」
「...わからない。」
額から冷や汗を垂らしながらディアに尋ねるがディアは一呼吸おいて首を横に振るだけだった。
一瞬周りから音が消える。それも相まって次の瞬間、雷とともに落ちてきた戦士の一人から放たれた言葉は俺の耳に嫌というほど届いてきた。
「ここ...どこだよ。」
それはここでは絶対に聞こえることのない、俺の故郷の、日本の言葉。
「ははっ、ほんと言葉の力は偉大だな。」
乾いた笑いとともに俺の口から吐き出されたのは苦し紛れの冗談だった。
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