オペレーターへ尊敬と笑顔を
ぐちゃぐちゃと、ナメクジのような気味の悪いモンスター達が街を埋め尽くしていく。
そんな存在によって、当然民衆はパニックに陥る。ある母親は泣き叫ぶ子どもを抱えながら逃げ回り、ある男性は靴が脱げたのも気にせず走り去る。
しかし、俺はその場で泣きじゃくるばかりで、逃げられなくなっていた。親と逸れてしまった事で、甘ったれの自分は二進も三進もいかなくなってしまったのだ。勿論、そんな格好の的を、モンスター達が見逃すはずがない。ドロドロの体で、俺を呑み込もうとした。
そこで漸く、俺は命の危機というモノを覚えた。死にたくない、誰か助けて。そんな言葉が頭の中を埋め尽くすが、コールタールのような粘ついた何かは、俺の目と鼻の先に迫っていた。
……もう駄目だと、諦めかけていた。
しかし、突如として周囲にいたモンスター達が一掃されたのだ。
「大丈夫かい? 少年」
金色の耳飾りを揺らめかせながら、ひらりと俺の前に降り立つ青年。その手には、一振りの刀があった。
浅葱色の羽織を纏う彼を、俺はヒーローだと信じて疑わなかった。同時に、彼のような人になりたいと、強く願ったのだ。
なんていう願いは叶うワケないというのが、この世のセオリーらしい。
情けない鼾によって仮眠から覚めた大人の俺は、今や立派に人々を守る正義の味方――ではなく。その彼等をサポートするオペレーターになっていた。
この世界に蔓延るモンスターを倒す正義の味方である魔法使いになろうと、何度も何度も適性検査を受けた時期はある。しかし全て無残な結果に終わり、負け惜しみで必死に勉強して縋り付いた結果がこれだ。将来の夢の欄に書かれたモノになれなくてすまん、昔の俺。……そんな虚しさを覚えながら、仮眠室代わりの休憩スペースに設置されたソファから身を起こす。
現場で命懸けてる魔法使い達とは比べるもんでもないが、裏方であるオペレーターの仕事もかなり過酷だ。なんせ二十四時間体制。更には人手不足なので、休みなんて奇跡の存在。採用が決まった際に大学の友人達から憐みの表情で合掌されたのは素敵な思い出である。
ふへっ……と気味の悪い空笑いが疲れのあまり漏れてしまうのを手で押さえつつ時間を確認すると、休憩時間はまだ残っていた。しかし、懐かしい夢のお陰ですっかり目が冴えてしまったので、外の風に当たってくるかと屋上に向かう。
城址に県庁と県警、更には議事堂を建てたもんだから、この県の公務員の大方はお堀に囲まれながら仕事をする。
城好きなら好条件な職場なのかもしれんが、俺は別に好きでも何でもない。というか、若干濁ったお堀やコンクリートビルの下にある石垣を見かける度に、時代錯誤どころの話じゃない職場環境で心が死にそうになる。
暗い夜の中、光を吸い込みそうなぐらい真っ黒なお堀の水が辛うじて見える。その水面で僅かに波打つ水紋が、鯉の生存を証明していた。
手すりにもたれながら、ぼんやりと水紋を眺めていると、黒に光が現れた。あぁ、日の出だ。そう思ったのと同時に、何となしに日付を確認すると、……まさかの今日は一月一日だ。
『わー、初日の出見られるなんてラッキー』なんて言ってられない。公務員なのに年末年始ぶっ続けで働いてるなんざ洒落になんねーわ。
県庁の役人という安定した職業のはずなのにどうしてこんなに人から憐みの目を向けられる過酷な業務なんだろ⁇ とつい思考停止しそうだった。せめて、もう一人ぐらいオペレーターを増やして欲しい。県内に駐在する二十人以上の魔法使いのサポートを俺一人にやらせるレベルの予算カットは、流石に横暴すぎやしませんかね県知事。
眩しさと現実の酷さに呻きながら元旦の朝日を見届けていると、前方が賑やかな事に気付いた。ドローンによる現場中継の見過ぎと、昨晩ぼた雪が降り続いていた所為で真っ白になっている風景によってショボショボする目を凝らしてみれば、発生源は県庁のご近所にある神社からだった。初詣に訪れた女の子達が纏う振袖のきらびやかさが目に染みる。
豆粒のような人々を見下ろしながら、疲れで緩んでる口から変な笑いを零している半泣きの俺。明らかに怪しい風貌だ。警察の方々が見たら、絶対に職質してくるだろう。いや、モンスター討伐の際に毎回交通規制やら避難誘導をして下さる交番のお巡りさんは、そっと栄養ドリンクを生暖かい目で渡してくるかもしれないが。
「魔女子さんだ! 今日は戦わないの?」
……魔女子という独特な渾名。それを聞き逃さなかった俺は手すりから身を乗り出し、塵一つ見逃さない勢いで目をかっぴらく。
「何で残念がるんだ。平和が一番でしょ」
「だって。モンスターと戦う魔女子さん、かっこいいんだもん」
「……ありがと」
トンチキが過ぎる職場の立地を今回ばかりは感謝した。お堀に掛けられた無駄に立派な橋の上を探せばすぐに目的の人物を発見出来た。
「魔女子ちゃーん! 珍しいですねー‼ 大型モンスターの討伐報告でしか此処に来ないのにー‼」
手を振りながら全力で声を出すと、魔女子ちゃん……県の心臓といっても過言ではない市一帯を守ってくれる魔法使いのお嬢さんは、遥か上にいる俺に気付いた。すると、これでもかと顔を引き攣らせる。……あれ?
「魔女子さん、あの変なおじさん誰?」
「見ちゃダメ。変なおじさんになっちゃうよ」
「えー! やだー‼」
「ほら、早くお父さんのところ戻りな」
「はーい。またね魔女子さん」
小学生ぐらいの男の子と別れた魔女子ちゃんは一瞬此方を見上げたかと思えば、小さく溜息を、……溜息⁉
ショックで俺が固まっている間に、深緑のスカジャンを翻した魔女子ちゃんは県庁内に入り、姿が見えなくなってしまった。
此処に着任した頃は何時も不機嫌な様子で、市民から怖がられていたが、最近は余裕を持てるようになったのか穏やかな様子になり、子ども達から人気になり始めている魔女子ちゃん。俺にも多少はフレンドリーに接し始めてくれていると思っていたのに……。やっぱりあれか、俺考案のコスチュームをまだ恨んでいるのか……? 試行錯誤で娯楽メディアを参考にして開発したアイテム類が、他の市街を担当している魔法使い達からは好評だったからと魔法少女コスプレを提案した過去の俺の過ちを抹消したい。あの時は二十連勤を軽く超えており、頭がどうにかしていた。
鼻を啜りつつ、若干よれてるジャケットのポケットからクシャクシャの煙草箱を出し、使い捨てライターでシガレットに火を付ける。そして、吸い口から煙を吸い込むと、アップルミントの爽やかな風味がボロボロの体に染み渡る。あぁ、辺りに漂う伽羅の香りと共に心を落ち着かせる……って、なんで伽羅なんて高級品の香りがこんな場所で漂ってんだ?
「相変わらず、僕達魔法使いに対して熱烈だね」
「うぉっ……⁉ えっ、あっ⁉ りゅ、龍之進さん、し、失礼しました!」
「いいよ、そんなに改まらなくて。休憩時間中だろう? リラックスしてよ」
何時の間にか隣にいたのは、この国の中で最高峰の魔法使いと名高い方だった。きらきらと朝日に輝く彼の耳飾りで、また涙が滲みそうだ。
「こ、こんな辺鄙な所に何のご用件でしょうか……」
「実家の用事で、ちょっとあそこに。ついでに此処にも新年の挨拶をね」
彼が指差したのは、さっきまで俺が眺めていた神社だった。
「神社……。そういえば、ご実家は関東の神宮でしたっけ。あと、ご先祖様は歴史の教科書に載るぐらい有名な方とお聞きしました」
「はは。君ぐらいの優秀なオペレーターさんだと、情報の撹乱は無理か。僕は経歴不明扱いのはずなんだけどなぁ」
「ずっと昔からのファンですから‼」
「ほんと熱烈だねぇ」
古参アピールをしてみるものの、彼ほどになるとそんなモノ珍しくもないのだろう。にこにこと笑われるだけだった。はは……、そりゃそうか。この国一番の魔法使いなんだから、ファンなんて数え切れないぐらい存在しているんだろう。
「……なんだか懐かしいですね、その恰好。昔はそういう姿で戦っていたのに、今はスーツしか着ていないので、寧ろ目新しく感じます」
着流しに、浅葱色の羽織を纏う姿は、先程見た夢と変わりない姿だった。そう、当時の俺を助けてくれたのは、彼だ。
あのナメクジのようなモンスター達が、俺の故郷である街を襲ったのは、突如として最新兵器では歯が立たないモンスターが世界中に現れたばかりの頃。しかもこの国で初めて観測されたモンスターだった。しかし彼は、未知の存在である筈のモンスター達を刀一つで、更にはたった一人で撃退してみせたのだ。ああいうのを一騎当千と言うのだろう。
更には、今のモンスター討伐関連の政策の基盤を作り上げたという素晴らしい功績を残しているのに、それらをボランティアだからと謙遜しているという聖人君子っぷり。彼のような人こそ正義の味方と称されるべき存在だ。俺のような凡人なんて、彼にとって店先に並べられた野菜程度の存在だろう。きっと当時の俺の事だって、助けた大勢の人々の中にいた少年Aに過ぎない。
「驚いた。それって僕がロクに魔法使わずにチャンバラやってた頃じゃないか。そんな昔からファンなんだね」
「…………えっ⁈ あ、はい! この国に初めて現れたモンスターを貴方が撃退した時からずっと、ファンです!」
まさか驚かれるとは想定していなかったので、チャンバラなんてチャチなモノではなかったぞと突っ込むのも忘れ、俺は全力で首を縦に振る。此処で首が捥げても構わない。せめて、少年Aというぼんやりしたモノよりもはっきりした印象を抱かれたかった。
「……あぁそうか。君、あの時の少年か」
「え。もしかして、……お、憶えているんですか?」
「親と逸れて、逃げられなくなっちゃった子だろう? いやはや、懐かしいな。今の今まで気付かなくてごめんね。まさかこんなに大きくなっているとは思ってもみなかった」
「そ、そうですね……。もうとっくの昔に成人してしまいました。けど、貴方は昔と変わらず、お若いままだ」
不自然な程に全く老いが見られない彼は、微かに笑う。そして、俺の手の中にある煙草箱を指差した。
「一本、貰っても?」
「あ、こんな安モンでよければ……」
何処からともなく燐寸箱を出した彼は、慣れた手つきでシガレットに火を着けた。何となく方向品性なイメージがあったので、喫煙者なのは意外な事実だ。
「……僕は、君に尊敬されるような奴じゃないよ」
「え?」
貴重な喫煙シーンを目に焼き付けていた途中で、そんな言葉を言われた。虚を突かれた俺はまだ熱が残っている煙草の灰を手に落としてしまう。しかし、寝不足で痛覚が鈍っているのと、予想外の言葉によって熱さなんて感じなかった。
「僕がモンスター退治し始めたきっかけなんて、将来の事を考えなきゃならない時期にやりたい事が無かったから、丁度タイミングよく現れたモンスターを退治すりゃいいかって、そんな大雑把なモノだよ。実家の家業と似たようなものだったしね」
「家業? 神職とモンスター退治って、関係ありますか……?」
「さっき君が言ったじゃないか。ご先祖様は教科書に載るぐらい有名人だって。ご先祖様は武士でね。酒呑童子とか鵺とかの伝承みたいに、尊い御方の勅令で化け物退治していたのさ」
「格好いいですね。昔から、貴方の一族が化け物の脅威から皆を守っていたなんて」
「だから、僕はそんな御大層なモノじゃないよ。それに、初めてモンスター退治をした時も知り合いが殺された事にかっとなって――」
「俺は龍之進さんが助けてくれたお陰で生きていています。憧れの正義の味方にはなれなかったけど、その彼等をサポートするオペレーターになれました。そして、他の奴等じゃ出来ない事を成しえていると自負しています。貴方のきっかけは大雑把かもしれませんが、それによって俺という最高のオペレーターがこの県に配属されたんです。凄いじゃないですか」
疲れた様子で遠くを眺める彼の姿によって、思わず言葉を捲し立てた。さっきまで縋り付いただけとか、過酷な職場にうだうだ文句を連ねていたのに、都合のいい奴だと我ながら思う。しかし、彼の寂しげな様子を見てしまったら、そんな思いなんて些細なモノだと何処かに吹っ飛んでしまう。
「……凄い、か。そうだね、君がいなきゃこの県はあっという間に陥落してたよ。ありがとう。ちょっとだけ、正義の味方になれた事が良いもんだと思えた」
「良かったです」
その後、二人で他愛ない会話を交えているうちに、二本の煙草が携帯灰皿に捨てられた。……というところで、背後にある出入口の扉が開く。
「……何で旅人さんがいるの」
「君と同じく新年の挨拶に来たのさ。そんな嫌そうな顔しないでよ、酷いなぁ」
「魔女子ちゃん⁈」
まさか彼女が此処に来るとは思わず、盛大に動揺してしまう。その間に彼女は此方に接近し、片手に持っていた紙袋を突き出す。
「これは……?」
「あげる」
ん、と促してくる魔女子ちゃんに従うがまま、紙袋を受け取って中を見れば、甘酒の缶が何本か入っていた。
「仕事馬鹿な貴方の事だから、どうせ初詣行きやしないんでしょ。気分だけでも味わせてあげようと思ったの」
「魔女子ちゃん……!」
ありがとう、ありがとう……とうわ言のように呟きつつ、さっそくプルタブを開けて、一口飲む。すると、エナドリの人工的な甘さで馬鹿になっていた舌と体に、温かさと麹の自然な甘みが染み渡った。なんか、こう、体に優しい感じがする。
煙草と不眠と過労で機能不全まっしぐらだった体が歓喜しているような錯覚に陥り、思わず目から涙が零れた。あ、待って待って、やばい、魔女子ちゃんの優しさが染み渡り過ぎて涙止まらない。
「ちょっ、……何とかしてよ旅人さん」
「嘘泣きなら止めさせられるけど、本能的な涙は対処できないなぁ」
「役立たず」
「酷い言われようだ。僕は年始の休暇中だから、役立たずなのは大目に見てくれないかな」
「どうせ、新年の挨拶なんて建前でしょ。本当は、実家にいると貴方のお姉さんに顎で使われるから逃げたんだ」
「えっ、そうなんですか?」
「………………あの人と実家で顔合わせるぐらいなら、大型モンスターを一人で討伐する方が余程マシさ……」
子どもっぽくそっぽを向き、口をへの字にする龍之進さん。そんな姿によって、涙を忘れてつい吹き出してしまった。俺の態度が気に食わなかったらしい龍之進さんは、何笑っているんだと言いたげに小突いてくる。
「お姉さんから聞いたよ。高二の頃にしょうもない事でお父さんにキレて、奄美まで逃亡したんだって? 嫌な事から逃亡するの、高校生から変わってないの?」
「こ、高校生が関東から奄美まで家出? すっごいガッツですね……」
「ハハハハハ、若気の至りだよ……。今回は香港に行くのを思い留まったから誉めてほしいぐらいさ」
いや、パスポート必要な所に逃げようとしているから、寧ろ悪化してるじゃないか。海外逃亡する気だったのかこの人。
「まさか、そんな事を教えられているとは……。何時の間に姉さんと連絡し合う仲になったんだい、魔女子ちゃん」
「キミが何度も私に東京来るように応援要請してるから、お姉さんに不審に思われたんでしょ」
「だって魔女子ちゃん、五回中四回は要請無視するじゃないか」
「私の担当エリアはこの市一帯。大人が未成年に甘えないでよ……」
「魔女子ちゃんが何時になく辛辣で悲しい……。……他にも何か、教えられてないだろうね?」
「小学校の頃、実家の蔵で――」
「言わなくていい! 言わなくていいから‼ 君の心の中で永遠に封印しておいて‼」
「また応援要請してきたら、うっかり霞ケ関の偉い人達にばらすかも」
「姉さんの所為で、魔女子ちゃんが大人を脅すような図太い子になってしまった……」
「お姉さんの所為じゃなくて、キミの所為」
「未来ある若者に、僕はそんな教育しないよ」
「ロクでもない大人の代表格みたいな旅人さんが『未来ある若者』とかほざいてる……。きもい……」
「きもいとはひっどいなぁ⁈」
国内最高峰の魔法使いであるはずの龍之進さんが、魔法使い歴二年程度の魔女子ちゃんによってたじたじになっている。何だか今日は、彼の意外な一面の発見の連続だと目の前の奇妙な光景を眺めていると、ぱちりと魔女子ちゃんと視線が合った。
「やっと消えたね」
「え?」
「此処。ずっと溝作ってると、不幸がプールみたいに溜まるよ。何時か溢れるんじゃないかって心配してた」
毎日のように化け物退治の為にワンドを振る細い指が、俺の眉間をつついた。
「そうなんですか?」
「私の持論」
「素敵な考えだ。……駄目ですね、俺。魔女子ちゃんに心配かけさせて……」
「私に甘えようとするそっちの大人より、キミの方が格好良いよ」
「えっ」
「私が初めて見た本物の正義の味方は、先輩達へ冷静に指示するキミだから。普段はどうしようもないけれど、仕事をする時のキミはこの世で一番格好良いと思っている。……けど、根を詰め過ぎて倒れたら、元も子もないから。キミが頑張り過ぎないように、ファンとして心配させてよ」
彼女の笑顔によって、寒冷地であるはずの此処に、ふわりと春の陽気が訪れたような錯覚に陥った。それぐらいに、優しい笑顔だったのだ。
…………え? 俺が、格好良い⁇ よれよれのスーツ着たおじさんの俺が未成年の女の子に褒められた? しかも、あの鉄面皮の魔女子ちゃんに、笑顔でファンと? 百人中百人が惹かれてしまいそうなビジュアルの龍之進さんが褒められるのではなく⁇
思いがけない事態に混乱していると、魔法使いさん達が唐突に下のお堀へと視線をやる。
「これはまた、新年早々元気だね」
「……最悪」
苦笑いする龍之進さんと、微かに渋い表情をする魔女子ちゃん。二人がそんな風になるなんて、一体何事だと下を見下ろすと、……何処かで見覚えのあるナメクジ擬きが、真っ黒な体を蠢かせながらお堀で大量発生していた。
「俺の初夢が正夢に……」
「随分と不気味な初夢だね。あれは……自然発生型の分類壹号か。いやはや懐かしい。個体じゃ滅茶苦茶弱いのに、ちゃんと絶命しないとプラナリアみたいにどんどん増殖するから討伐が面倒臭い。ああいうのを烏合の衆って言うんだろうねぇ」
「喋ってる場合じゃないでしょ。さっさと討伐しないと、県庁と人が集中してる神社に被害が……」
「えー。僕休暇中だからさ……。それにこの程度なら単騎でも十分だと……」
「あーとっても霞ケ関に行きたい気分になってきた。旅人さんが正月返上してくれたらこの気分が消える気がする」
「やめてくれ。あいつらあの手この手で僕を陥れようとするんだ。弱点でも掴まれたら、処分が面倒じゃないか」
「物騒な事言ってないで、さっさと手伝う」
「はいはい……」
手すりから身を乗り出した二人は屋上から飛び降りる。ひらひらと深緑と浅葱色を背中で靡かせるその姿は、正に正義の味方だった。
「やっぱ格好良いなぁ」
まぁ、俺は俺の出来る事をしよう。それが格好良いと言ってくれるファンがいるのだから。
小型インカムを耳に装着した俺は、大量の高画質モニタが待つ管制室へと向かうのだった。
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