次の方針決め。ミネスト領の村にて

「フレイアさんもどうぞこちらへ」


 サナがフレイア王女にスペースを空けてあげる。

 完全にシスコンの域に達しているフレイア王女は即座に食いつき、喜色満面をあらわにした。


「私もレシアちゃんを愛でていいんですね!」


「そりゃあ、もちろんですよ」


 サナが再度許可を出すと、レシア王女のもとへ、るんるんと寄っていたフレイア王女がレシア王女と密着する。


「レシアちゃん、ようやくこれで仲直りですよね?」


「……ふん」


 レシア王女は鼻をならし、そっぽを向く。

 可愛げがないなぁ……。

 見ていられず、私は二人の間に介入することにした。


「素直じゃないね。こういう時は、素直になった方が楽しいよ?」 


 というわけで、容赦なく首輪の効果を発動してあげた。


「ぐっ、」


 さすがサナ謹製の品である、すぐさま効果が現れたのか、レシア王女がぐっと歯を食い縛る。快楽を耐えているのだろう。


「快楽を感じているはずなのに一生懸命に衝動を堪えているレシアちゃんもかわいいです♡ でも、恍惚に身を委ねたらもっとかわいくなるとお姉ちゃんは思うのです」


 フレイア王女がそう語りかけるも、


「……んぅ、」


 レシア王女は必死に我慢している。


「膠着状態ですね。どうしますか? フレイアさん?」


「こうします」


 ならばとフレイア王女はレシア王女にさらにくっついた。


「これがレシアちゃんのお姉ちゃんですよ。お姉ちゃんをもっとその身に感じてください」


 お姉ちゃんを強く意識してしまったのか、レシア王女は敏感な反応を示し、達してしまった。


「ああんっ♡」


「レシアちゃんが蕩けてしまいました……」


 はぅ……♡ ってな感じで、フレイア王女も恍惚の表情になっている。

 すると、


「素晴らしいです!」


 全てを見届けたサナが大はしゃぎする。


「パーフェクトな解答でした! やはりフレイアさんは見込んだ通りの女の子でした」


 そう絶賛して、姉妹丼は好物ですとばかりに二人の王女にさらにサナが重なった。


「……ということで、二人ともいただきます♪ 姉妹丼たまらん!」


 結果、二人の王女に纏めてサナが愛を注ぐことに。

 なんでそうなった……。

 欲望のままに行動しているからか、随分と怪しい位置に手がいってしまっているサナ。

 そんなサナにまさぐられながら、


「ところで見込んだ通りとはどういう意味なのでしょうか?」


 嬌声を我慢しているのかフレイア王女が口端から涎を垂らしそうになりつつ、なんとか問い掛ける。


「すんばらしいということですよ。レシア王女の禁断の愛を引き出したのは貴女が真性の女の子好きだからです! サナノ姫全恥の書によると、夜な夜な妹たちのことを考えてシているそうではありませんか! 前からそっちの素質ありすぎると思っていました!」


「お願いですから、人前でそういう赤裸々なことは……」


 フレイア王女はとても恥ずかしそうにしている。

 うわぁ……。って感じで、なんか顔を隠してしまった私も顔を真っ赤にしちゃってるかもしれない。共感性羞恥心ってやつ。

 てか、否定しないということは事実ということでよろしいね?

 サナもうっかり口を滑らしてしまったのだろうか。(わざとの可能性も大いにあり)

 ちょっと申し訳なさそうに、


「ああ、ごめんなさい。でも、ここには女の子しかいませんし、セーフです」


 そういうわけで会話は途切れ、愛でるのを再開した。


「(……じーっ)」


 目の前に繰り広げられる百合の楽園をしばらく呆然と見詰めていた私は、やがてはっとする。

 というか、そろそろ戻らないと心配されるだろうということで苦言を呈することに、


「皆来ちゃうし、早く済ませた方がいいかもね?」


 するとサナはまだまだ時間に余裕がありそうな素振りを見せた。


「その心配はありませんよ。柚月さんには伝えましたし。あと、他のお仲間の方をこちらに来させるように神殿に伝えました」


「コリンたちをこっちに? どういうこと?」


 私の疑問に、


「この後の展開のためにどうしても必要なので」


「なるほど理解しました」


 サナとフレイア王女は分かってるらしい。

 物分かりがいいのは美徳だね。

 すると、


「もちろん私も分かってるわ。こうなったらもう仕方ないわね……」


 レシア王女が張り合うように声をあげたと思ったら、がっくりしてしまった。

 この後、レシア王女にとっては嫌な展開になるのだろうか?

 サナになされるがままのフレイア王女がレシア王女を愛でていた手を止め、真面目な顔で質問した。


「サナティス様、レシア王女とローゼフ騎士団長の処遇は私どもで決めてもよろしいでしょうか?」


「ローゼフさんはともかく、レシアちゃんは駄目です! 私たちの監視下に置きます! もう首輪付けちゃったもんね! 実兎ちゃんにしつけてもらって、私のことが大好きになるまで返しませんよ!」


 そこでふとサナが私の方を向いて、じとーっと見てきた。


「で、さっきからガッツリ見てますが、実兎ちゃんはむっつりさんなんですか?」


「ち、違うよ?」


 慌てて否定するも、


「……ふぅん、でも私、実兎ちゃんたちが姉妹二人で百合漫画をお読みになられてるの知ってますよ。それも濃厚なのがお好きなようで」


 サナには全て知られていた!

 なんでバレてるんだよぉ……。

 ぐぬぅ……。




 落ち着いたところでサナに今後の方針を聞くことに。

 もちろん場所移動をし、今いるのは廃教会の傍にあった村である。聞けば、ここもミネスト領であり、常駐の兵士がいるのと、ローゼフやレシア王女の主導のもと敵が攻めてくる都度に防衛していたおかげで、まだ悪の手先に占領されていない村らしい。悪の手先側がそれほど侵攻に積極的ではなくなっているのもあるらしいが果たして……。


「で、これからどうするの?」


「レシアちゃんとローゼフさんが自分たちでミネスト領都を奪還するからって言ってたから、焦らされても我慢していたんですが、二人とも役に立つどころか、私のことが嫌いすぎて、私の嫌がることばっかり企てるし、もういいや! まあ、友達にちょっかいかけられてムカついたのもあって、レシア王女を調教開始しちゃいましたし、ローゼフの腐った性根もいい加減目に余るから叩き直すことにしちゃったしね。それに、やっぱり悪の手先を野放しにしておくのは気分が悪い! どちらにせよ、悪の手先を退治するのは決定事項なんです! いっそ、やっつけちゃいましょうか!」


 するとお姉ちゃんも乗り気だった。


「うんうん! 私もサナに賛成よ。コリンも、『領民の皆を早く安心させてあげたいよねー』とか言ってきっと乗ってくれるわ!」


 というわけらしい。

 ルルカだったら、『ご主人様のご意向に従います!』かな?

 従順だし。

 ややあって、サナに脅されたらしいローゼフ閣下が早馬を飛ばして呼んだ兵たちに合わせ、女神親衛隊にコリンたち仲間と、合流する。

 その中のルルカとニノを見て、サナがはてなといった様子で、


「ところで、何故、妖狐や猫又がいるんですか? それも……おっと、これは言わなくていいことですね」


 言い掛けたことが気になったが、聞かないでおいた。

 それよりも、


「いちゃいけないの?」


「だって、妖狐や猫又はあちらサイドに属しているのが基本じゃないですか。いったい、どういう風の吹きまわしで……」


「ルルカは変わり者で、ニノもおそらく同じなんだと思う」


「変わり者って……」


「ルルカちゃんは自ら奴隷になりたがったド変態だよねー」


 ルルカはピキッと反応したけれど、女神の御前であるからか堪えた。


『そういうことです。私たちは悪い妖怪じゃありません』


 居心地悪そうに黙していた二人だったけれど、ここぞとばかりに喋った。ほとんど同時なのが面白い。


「ニノ! 台詞被らせないでください!」


「いけませんか? いきピッタリでいいじゃないですか」


 言い争う二人の間に挟まるサナ。


「頼もしいです! ――あっ、もちろんご存知でしょうが私はサナティスです! 女神やってます! ルルカさんに、ニノさん、どうぞよろしくです!」


『よろしくお願いします』


「……」


 合わせて、セリファーも会釈した。


「あっ! 私の代わりに二人を護衛してくれてたんですよね。どうもありがとうございました」


 セリファーに気づいたサナがお礼を言う。

 あんまり護衛になっていなかった気もするけれど、言わないでおく。


「悪の所業で声を封じられ、挙げ句の果てにはタレント『虚弱体質』。そんな貴方の未来に幸あらんことを!」


 サナはそう言って、喉に手を当てた。神々しい光がぱぁーっと発生した。

 どうやら治してあげたらしい。


「ありが、とう……」


「あっ、無理しないでください! 急な発声は喉がビックリしてしまいます!」


 セリファーも納得したようで、頷いた。

 声出せるようになって、よかったね。

 一方、ルルカとニノはというと、


「また台詞被せてきましたね!」


「わざとじゃありませんよ」


 そんな感じだった。

 自己紹介も済んだところで、早速出陣と相成った。口喧嘩(ルルカが一方的に因縁付けてるようにも感じるけれど……)は続いているし、二人の間にコリンが挟まってさらにヒートアップし始めたけれど、まあいっか。




 百鬼夜行の都と化したミネスト領の領都。

 領館の窓辺にて、一息つく、絶世の美少女。

 まるで氷の彫像のようである。

 誰もが羨む精緻な美貌と透き通るような肌を持ち合わせている。

 ――何を隠そう、その美少女こそ、私こと、雪女のキョウカ(元の世界では白波しらなみ京華きょうか)である。

 魔軍の幹部である私は、主君の命により、今日もサナノ神聖王国攻略の最重要拠点であるミネスト領の領都の管理に勤しんでいる。


「キョウカちゃん、こんにちは。ご休憩中ですか?」


 後ろから声をかけられ、はっと振り向く。

 そこには幼女がいらっしゃった。

 彼女こそが、我らが主君、ジュリ様であらせられます。

 敬愛する主を前に、私は、すぐさま、居住まいを正した。


「ジュリ様!」


「いつも領都の管理ご苦労様です」


 ジュリ様に労われるなんて、感謝感激雨霰!


「そんな! 滅相もありません!」


「謙遜しなくてよろしいのですよ。貴女はよくやってくれています。現に今もこの領都は我々の手中にあります」


「そこまで言ってくださるとは……幸せです!」


 感動する私。

 すると、ジュリ様が、


「そんな貴女に悪い知らせがあります。女神サナティスが降臨しました」


「は?」


 ジュリ様により、唐突にもたらされた女神サナティス降臨の知らせに唖然とする。

 理解が及んでくると、身体がガクガクと震える。


「キョウカちゃん、大丈夫ですか?」


「……はい」


 いきなり最悪の知らせなんですが……。


「加えて、サナティスの眷属が二名、姉妹です。貴女が知る時代の数百年後の日本人ですね。数世代の歳の差があるのでジェネレーションギャップを感じることでしょう。彼女らからすると、貴女も相当おばあちゃんですよ」


「やめてください」


 聞きたくない聞きたくない。いろんな意味で。

 そんな私に、ジュリ様が優しく諭す。


「……現実をみましょう。キョウカちゃんならば、どんな困難であろうと乗り越えられると信じていますよ」


「ジュリ様……」


 ジュリ様の信頼に応えなければ……!

 私はよりいっそう張り切った。


「続けますよ?」


「まだあるんですか……」


 これ以上、悪い知らせはないだろうという願望は打ち砕かれてしまうのだろうか……。

 そして、次の知らせは、驚愕に値するものだった。


「妖怪二名があちら側にいます。しかも同郷です」


 混乱しそうだった。けれどなんとか我を保ち、もたらされた情報を解釈して、質問をする。


「雪女……じゃなくて、つまり前世が日本人だと?」


「はい。神殿荒らしのどさぐさに紛れてこの目で見てきました」


「見てきましたって単騎で潜入したということですか……!? 危ないですから二度とやめてください」


「別に危なくないですよ。私からすれば皆赤子のようなものでしたしね。私に危険を感じさせることができるのはサナティスくらいなものです」


 私の忠告はしれっとした顔で受け流されてしまった。

 ジュリ様はそのまま続けて、


「それにしても貴女に比肩するほど、かわいいお顔でした。狐人の姿に化けた妖狐と猫人の姿に化けた猫又です。前世の時の名前は妖狐の方は朱宮しゅみや月花るるか――ってこっちは昔にも会いましたよね。猫又の方は青砥あおと仁乃にの、彼女はご存知ですか?」


 聞いたことあるどころの話ではない。


「よく存じています。前世では友人でした」


 とんだ女狐だった月花と猫みたいに懐いてきた仁乃を思い出し、郷愁に浸りかける――も、興味深げな声を発すジュリ様により呼び戻される。


「それがこうして再会することになるとは。なるほど、因果は巡るものですね。……少し妬けますね」


 なにやらしみじみといったご様子だった。最後の方はよく聞こえなかったけれど。

 話の腰を折るようだけれど、どうしても気になることがあったので訊いてみる。


「彼女らに前世の記憶はあるんでしょうか?」


「妖力が貴女ほどではありません。おそらく前世を思い出してはいないかと、まさしく老獪といった様子のルルカはちょっと怪しいですが、ニノはまだこちらに来て100年は経っていないようなのでまずあり得ないでしょう。どうやらニノは他の異世界でも人生を謳歌してきたようですね。なので、将来的な厄介さでは五十歩百歩といったところでしょう」


 ジュリ様による推測ではあるけれど、二人とも覚醒はしていないようでそれなら相手する分には良かったけれど、前世を思い出しているのが私だけなのはよろしくないだけでなく、やりづらい。

 いっそのことこちら側に引き込めないか、二人だって妖怪が生きづらい世の中に、きっと不満を持っているはず、やってみる価値はあるかもしれない。

 そうすれば、また三人で仲良く……。


「あと、サナティスとタレント『爆炎使い』を持ったラミア・ベネット率いる女神直属隊がこちらに向かってきています」


 せっかく明るい未来を夢想していたのに、一気に現実に引き戻される。


「ひぇっ!」


 爆炎使いなんて冗談じゃない。雪女として暑いのは苦手なの。冗談抜きで溶けてしまう。


「ラミア嬢は雪女である貴女には荷が重いでしょうね」


「……それでも頑張ります」


 きっと大丈夫、私の装備は耐熱仕様もある。

 と思ったのも、束の間、まだまだ悪いお知らせは続いていく。


「おまけに、サナティスの命により、フレイア王女主導のもと、サナノ神聖王国総出でミネスト領都を奪還しようとしている模様です」


「そんな……。それを自分の手柄にしたいレシア王女が妨害するはず。もしや、レシア王女は処理されたのでしょうか?」


 レシア王女はローゼフと組んでいて、皮肉にも私たちにとっては防波堤といった風な立ち位置なっていた。

 おかげでこちらは領都を支配し続けることが出来、陰ながら感謝すらしていたというのに……。

 もちろん、それに加え、帝国への警戒に兵を割かないといけないから、聖王国側も積極的には動けず、領都への対応は後手後手になっていた節もあった。


「いいえ、サナティスの眷属美里実兎に下りました」


「そうでしたか。つくづく運がない……」


「色々苦難はありますが、貴女ならきっと乗り越えられると信じています」


「そこまで評価されているとは、光栄です」


「キョウカちゃん、防衛の指揮は貴女に一任します。期待していますよ」


「はい! ジュリ様のご期待に添えるよう頑張ります!」


 お相手が本気すぎる。

 けれど、負けるわけにはいかなかった。

 ――月花、仁乃、待っててください。私が貴女たちをより良い環境に導いてあげますから。

 友、そして妖怪のより良い未来のために私は戦う。

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