目が覚めたよ。変なのに絡まれたよ

「――実兎みう、もう昼よ!」


 もう昼!? そんなに寝てたの!? と私はガバッと布団を捲り起きた。


「案外、元気そうじゃない」


 にっこりとお姉ちゃんが私を見た。

 元気そう?

 はて、私は何を。


「何呆けてるの? ホブゴブリンを倒してから気絶したのよ。実兎が」


 あっ、そうか。

 私は昨日のことを思い出した。


「昨日は色々あったね……おでぶなゴブリンちゃん死ん――ううん、私が殺しちゃったり……」


 そう。私はホブゴブリンを殺してしまった……。いくら魔物だったとはいえ、あんな殺し方をしてしまったのは、流石に後味が悪い……冗談めかしておでぶごぶりんちゃんとでも呼んでいないと、まともな精神状態でいられる自信がなか――いや、所詮魔物だよね……。割り切ろっと!


「そうね……あの時。ホブゴブリンに対して、手も足も出なかったのは情けないと思ってるわ……実兎にあんなことをさせてしまった私を許して……」


「気にしないで、お姉ちゃん。お姉ちゃんが無事なら、それだけで私は満足なんだから」


「実兎……」


「お姉ちゃんは怪我していないの? あとコリンも」


「大丈夫よ、私もコリンも元気いっぱいだわ!」


「そっかぁーよかった」


 私は安堵する。


「心配してくれてありがとね」


 お姉ちゃんはそんな私へ笑みを返し、パンッ! と手を打ち鳴らし、話を切り替えた。


「で、修道院いって、諸々のことは済ませてきたわ」


「さっすがお姉ちゃん!」


 私は目を煌めかせ、感激した。


「というわけで、病み上がりだから、まあ今日は安静して、町でもブラつきましょうか」


 うわ……めっちゃ、楽しそうな提案!


「それいいね。賛成!」


 私は即座に食い付いた。


「気分転換って大事よね」


「そうだね」


 ということで、私たち姉妹は町に繰り出した。




 観光気分で町をぶらりんこ。二人でぶらぶらするのはデートみたい。らぶらぶのカップルかのように自然に手を繋ぐ。しかも恋人繋ぎでお顔が熱くなる。きゃー恥ずかし。

 美味しい食べ物に引かれ、食い歩き。女の子が二人並んで食べ物を食べるって映えるのかな、通行人に見られてて、恥ずかしくなっちゃった。

 そして、お洒落なお店でお買い物。

 この世界にはブラジャーとパンツがちゃんとあって、手にとってじっくり見ると、私たちの世界とデザインも触り心地も大体同じだということがわかった。素晴らしいね。

 お姉ちゃんは昨日買ったとのことで服も下着も買ったのは私だけ。

 あとね。おまけに、生理用品もあったんだよね。流石に見た目はちょっと違ったけどね。まあ、見た目よりも性能じゃん。問題あったら嫌だな。と思ったけど、お姉ちゃんが「大丈夫だったわ」と教えてくれて杞憂に終わった。

 それで買い物は大体終わり。会計へと移る。

 そうして払ったお買い物の代金は、お姉ちゃん曰く、昨日私が謎の力でぶっ殺したおでぶゴブリンの生まれ変わりらしい。あんなおでぶちゃんが掌に乗る小さなコインに変貌するなんて……思いもよらなかったよ、異世界って凄いなぁ……。しみじみ。

 おでぶゴブリン討伐の報酬はわりと多くて助かっちゃった。しばらくはお金には困らなそう。尽きたら? その時はその時でしょ。

 そうして、店を出たときに、両手一杯に替えの服を買ったはずなのに、お姉ちゃんに渡すと、不思議なことになくなっちゃった。あら不思議。まあどうでもいっか。それよりも――


「そういえばさ、サナってまだ来ないの?」


 道すがら、私はお姉ちゃんに気になっていることを訊いた。

 サナとは、冬部サナという私たちの友達のこと。

 どうやら女神であるらしくて、神名はサナティスっていうらしい。

 私たちがこの世界――異世界に来ることとなったきっかけであり、この異世界に送った張本人でもある。

 タイムラグがどうたら言ってたけれど、いつ来るの……?


「いつか来るでしょ。予兆あったら、修道院から連絡来る手はずだし、大丈夫よ」


「そっかぁ……」


 スプラッターで気を失った身としては、バックレだったら承知しない……いくらサナが女神でサナティスとはいえ、手加減なしで滅多滅多にするよ、お姉ちゃんが。

 まあ、スプラッター見たのは、厳格にはサナのせいじゃないけどさ。遠因はあるじゃん?




 そんなこんなで、なんでか路地裏に迷い混んじゃった。ぼんやりしてたのかな? 姉妹揃って? 

 ――ん?


《――耐性『催淫』を獲得》


 なんでかそんなものを会得した。なんでだよ……。意識も直前よりもクリアになった気がする。というか、直前まで意識が何かおかしかったみたいだ。今さらそれに気づいてぎょっとする。

 怖くなってすがり付いたお姉ちゃんも怪訝そうな顔をしている。

 するとふいに気配を感じた。

 前方を見る。そしたら――、


「ケケッ、釣られてきたようだぜ」


 不気味に笑う男の傍らを見ると、木箱に乗ってなんか怪しい感じのお香があった。

 お香からは煙が漂っているんだけど、匂いは漂ってこない。おかしいな。おかしいけれど。今はそれを考えているときではない。なぜこんな状況に至っているか、を考えるときだった。しかし、答えを出すのは簡単だった。

 男の発言から鑑みるに――。まあ、つまり、お香から放出した何らかの不思議な力が籠った香りで私たちを誘い出したということだろう。

 そう結論に至ると、腹が立った。

 ……マジふざけるなし、こいつらのせいでお姉ちゃんとのデートが台無しじゃん!

 そう。他にも男が居たんだよ。女はいない。

 すると、男二人がなにか喋り始めた。


「おお、べっぴんさんじゃねえか!」


「こりゃあ、いいな」


 こんな奴らに褒められても嬉しくない。他には誰もいない……よね?――一応、確認。気配なし。

 つまりだね、路地裏には合計三人の男がいたというわけ。

 私たちを狙っているのだろう舌舐りをしているやつがいる。

 そんな三人に向けられる舐め回すような視線と来たら、もう、嫌だ、気持ち悪くて、鳥肌が立っちゃう……。

 すると、隣からため息。発生源は、もちろんお姉ちゃんだ。

 お姉ちゃんは不愉快そうに言った。


「あんたらねえ……」


 三馬鹿の視線がお姉ちゃんに集中した。

 それでもお姉ちゃんは全く動じずに続けた。


「相手を見てものを言いなさいよ?」


 そして勇ましく前に出た。

 昨日のホブゴブリンと相対したときとは、別人のように違うけれど、こっちが本来のお姉ちゃんである。

 お姉ちゃんが、さりげなく私を守るような立ち位置に付いたのを私を見逃さない。怒りで状況がよく理解できてなかったけど、相手は武器を持っている。対して、私たち姉妹は無手。お姉ちゃんは、格闘はからっきしで無手じゃあまり戦えない私を庇ってくれたみたいだった。

 ――ありがとう、お姉ちゃん。

 私はお姉ちゃんのそんなところが好きなんだよ。


「なんだぁ? やるのかぁ? 武器もなしに」


 と、三馬鹿の一人が嘲笑いつつ、言った。

 その言葉に、お姉ちゃんは首をかしげて、逆に問いかけた。


「やるって何を?」


『決まってるだろ』


 と三馬鹿の総ツッコミ。すると、ややあってお姉ちゃんは理解したような顔をする。


「ああ、なるほど」


 お姉ちゃんは合点がいったかのように頷いた。そして、続けて発言する。


「私があなたたちを打ち負かす、簡単な遊びをね」


『……は?』


 三馬鹿は呆気にとられたような顔をして口を揃えて、そう言った。

 それと同時に。

 お姉ちゃんが突風のように滑り込み、そのまま一人の顎をバコーンと蹴りあげた。


「先制攻撃いただきー♪」


 足をあげたままの姿勢でお姉ちゃんは、声色に喜色を浮かべて言った。


『ずりいぞ!』


 二人が文句を言う。蹴られた一人は声を発しない。失神したのかな?

 文句を言った二人に向かって、お姉ちゃんは不敵な笑みを浮かべて返した。


「油断していたのが悪いわ」


『なにをぅ!』


「それに、ずるいのは数でまさってるそっちなのは明白よ」


『ぐぅ……』


 お姉ちゃんの鋭い指摘に、男二人は悔しそうな顔をして唸った。

 ――そんな中、私は戦況の分析をする。

 男一人が沈黙。残りの二人。

 沈黙とはいっても、顎を蹴りあげたくらいじゃ死にはしないだろう。大きく仰け反りはしたけど……。ああ、でも下手すりゃ脳震盪のうしんとうがあるか……。まあとにかく復帰して来ない。こっからじゃ、見えないけど白目を剥いているのかもね。

 とりあえず、一人が一時戦力外になったとみていいのかな……?

 なら、復帰するまでに二人を倒してしまえばいい。そのくらい万全のお姉ちゃんになら出来るかも……?

 そこまで考えると、状況が動き始めた。


「どうしたの? 怖じ気づいちゃった?」


 あおるお姉ちゃん。


「てめぇ!」


「舐めんじゃねえぞ!」


 二人がお姉ちゃんへと同時に襲いかかる。


「素人臭い動き、所詮ごろつきね。気概を感じないわ。あなたたちやる気あるの? ウォーミングアップにもならなそうね」


 そう評しながら、二人の男の攻撃をお姉ちゃんは落ち着いて対処する。お姉ちゃん、無手の上、ナイフとか棍棒を振るわれてるのに、余裕綽々だね……。


「ちぃ……!」


「聞いてた話と違うじゃねぇか!」


 二人の男は舐められていると思ったのか、怒り心頭でお姉ちゃんに猛攻する。しかし、連携が全くといっていいほどに上手くいっていないのもあり、お姉ちゃんは余裕をもって、攻撃のことごとくを難なくかわしていた。

 そして二人の男は私には全く構わない。完全に私は二人の男の意識の外となった。

 徐々にお姉ちゃんを襲う、二人の男の息が荒くなっていく。お姉ちゃんに完全に翻弄されていたのである。

 ――そうして数分が経過した。


「……畜生! ……なぜ当たらねえ!」


「おかしいだろ、こんなん!」


 ぜぇぜぇと荒い息を吐きながら行われる先程よりも鈍くなった二人の攻撃に、お姉ちゃんは溜め息をついた。


「つまんない……。もう終わりにしていいかしら」


 それを聞いて男二人が激昂した。


「てめぇ、遊んでいやがったのか! ふざけんなよ!」


「そんなことってあるか!? こんな少女に弄ばれるなんて、ありえねえだろ。さてはお前、何か特殊な訓練を受けてるな、ずるいぞ!」


「まったく喧しいわね……」


 お姉ちゃんはそんな抗議なんぞに聞く耳を持たず。なおも懲りずに、振り下ろされる棍棒を、今度は回避し、間髪いれずカウンターで蹴り飛ばす。続けて、振るわれてきたナイフに至っては、指で白刃取りするかのように掴んだ。蹴り飛ばされた棍棒の男は、頭を打って悶絶している。


「なによこれ、バターも斬れそうにないじゃない」


 お姉ちゃんはナイフを凝視しながら言った。

 続けて、ナイフの男に向かって、にこりと微笑む。


「次来るときはもっと高級な玩具を持ってきなさいよ? まあ、次なんてないだろうけど」


「ひぃ……」


 と男が怖じ気づいたその時――、

 お姉ちゃんが力を込めたのかバキッと折れるナイフ。


「そんな馬鹿なっ!?」


 ナイフの男が驚愕に目を見開いた。


「まったく。そんなんじゃいつまでたっても路地裏のごろつきのままよ……」


 そう嘆いたお姉ちゃんは、ナイフを持っていた男の顔面にパンチを繰り出し、一発KO!

 お見事!! ――私は称賛の拍手を送る。

 そういえば、サナが精霊の力がどうたら言ってたけれど、この強さもそうなのかな……。まあ、お姉ちゃんは、地球あっちでも、かなり強かったけどさ……。

 そんなことを考えていると、続けて流れるように動いたお姉ちゃんが、棍棒を持った方の男に向かって行く。

 棍棒の男が再度、棍棒を振るう。が……、お姉ちゃんはまたしても回避し、カウンターで回し蹴りをお見舞いした。

 棍棒を振るってきた奴が、バランスを崩している隙に、お姉ちゃんが足でバコンッと金的した。下から突き上げるように蹴りあげたのである。


「おぅふ! うぐぉぉぉ!! いでぇぇぇよぉぉぉ!!」


 金的された奴は、苦悶の声をあげ、泣き叫ぶ。

 ――いくらお姉ちゃんでも、金的はひどいと思うし、痛そうで可愛そうだとも思うけど……、結局は、自業自得というやつでしょ……。それとも因果応報? まぁ、どっちでもいいか。

 そして奴は、痛みにたまらず棍棒を手放してしまう。

 あっ、空中に奴の棍棒が飛んじゃった。奴は慌てて掴もうとするけど、それよりも早く、お姉ちゃんがすかさず棍棒を掴み取っちゃったキャッチ

 うわっ……お姉ちゃん、えげつな……。

 急所打ちからの武器奪取――それは、妹である私ですら引いた手際の良さ。


「もーらいっと。――はい、没収ねー」


 棍棒を奪い取ったお姉ちゃんは、にんまりとした。

 あーあ、勝ちの目である棍棒がお姉ちゃんの手に渡ったし、こりゃもう勝負付いたかも……。逆にお姉ちゃんが棍棒を振るうターンが来ちゃったようだしね……。

 お姉ちゃんは、武器を奪われて愕然とする男に向かって、棍棒をバットのように、フルスイングしぶちのめす。おー、すごい。

 三人目がようやく復帰するも、もう襲い、二人の男が倒れているのを見てぎょっとして逃げ出そうとしたところを、またしてもカキーンと吹っ飛ばす。今の当たりは、ほーむらん?

 飛ばされた奴は、さっきの木箱へとダーイブ。どんがらがっしゃんと音が鳴る。

 そしたら、木箱ばーらばら。お香もぶっ壊れて、計画全部おじゃん。

 あらら……。


「えいへーさん!」


 お姉ちゃんが大声で呼び掛けると、衛兵が何人か登場。


『どうしましたか?』


 と、こっちに来る衛兵ら。横並びに並んで走ってきていて、統率感がある。


「こいつら暴漢クズよ! しょぴいて頂戴ちょうだい


 クズらに指を指し、ピシャリとお姉ちゃんが指示をした。

 衛兵さん達は、私とお姉ちゃんと暴漢達を見比べ、納得したのか。


『かしこまりました! ご協力感謝します!』


「襲われたからその報いを受けさせただけよ」


 お姉ちゃんにビシッと敬礼し、そして衛兵らは3人をしょぴいていった。

 お姉ちゃんは恐るべき手際の良さで、事件を解決へと導いたのだった。流れ作業のように、3人をぶちのめし、気絶する3人を、衛兵呼んで、しょっぴいたというわけ。

 お姉ちゃんがいなければ、気の弱い私は、あやうく手篭てごめにされてたかも……、酷いことを要求されていた可能性だってあるんだ……。

 そう思うと、助けてくれたお姉ちゃんには感謝しかない。


「はい、おしまい」


 お姉ちゃんは「いっちょあがりー」と手をはたいた。

 お姉ちゃんにとっては、あの程度、マジで、『簡単な遊びだった』んだね……。


「さっすが、お姉ちゃん! すごい、すごい!!」


 あっという間過ぎるよ……。最初遊んでたけど。

 整理できない私は手をパンパンとし拍手をおこす――とりあえず、お姉ちゃんを褒めちぎることにしたの。


「妹を守るのは、姉として、当然の勤めよ!」


 お姉ちゃんが誇らしげに胸を張った。

 ――こうして、悪は滅され、平穏が訪れたのだった。




 そして念のためかの事情聴取である。残った衛兵さんにこの場で聞かれる。


「どのような経緯で襲われたんですか?」


「怪しいお香に引き寄せられたのよ」


「なるほど。他になにか気になることは……?」


 聞かれて思い返す。引っ掛かることがあった。

 そのまま口に出してみる。


「そういえば『聞いてた話と違う』とか言ってなかった?」


「あー、ね」


 お姉ちゃんが納得を示す。


「もしかして誰かの陰謀……?」


 何者かの陰謀かと思うと、不安になった。


「かもね。精霊の力を見誤ったってところかしら」


 なんか精霊の力とか言ってるけど、さっきのはお姉ちゃんの素の実力もあるよね。

 私じゃあ、いきなりあんなに果敢に立ち回れない……わけでもないかも。

 お姉ちゃんの為ならば勇気も湧くというのは、昨日のホブゴブリン戦も含め、自覚があった。

 お姉ちゃんは私の沈黙をどう解釈したのか。


「黙りこくっちゃったけど、そんなに不安?」


 なんて顔を覗き込んできた。

 

「そういうわけでは……」


 あるかも。

 狙われているかもしれないなんて思うと、一介の女子高生でしかなかった私にとっては不安てんこ盛りだ。


「まあ、おいおい分かることでしょ。今はそんなに気にすることじゃないわ」


 あっけらかんと言うお姉ちゃんはとても頼りがいがある。きっと何があっても守ってくれるはず。曇っていた気持ちが楽になった。

 そしてお姉ちゃんは、ふと思い出したかのように言った。


「あとナイフがやたら脆かった」


 鳴らした指向けて、重要な事柄を見付けたぞ、みたいな顔をして言われても……。


「それは精霊の力でしょ。たぶん」


 素の能力でナイフぽっきりする女子高生とかあり得ないよね……?


「えー、でも安物っぽかったわよ」


 流しにかかる私に、不満げなご様子。

 謎に食い下がるなぁ……。


「うーん」


 なんとなく「うーん」なんて言ってみたけど、ナイフのことなんてどうでもいい気がする。

 だからそれとなく、そのそんなことどうでもよくない? ってニュアンスを伝えることに。


「……それって重要なのかな?」


 私によーく考えてみてよ、みたいな感じに促されて、お姉ちゃんはそうでもないかもって考えにシフトしたみたい。


「まあ、どうでもいっか」


 そしてお姉ちゃんもナイフについて考えることを止めたらしい。

 だよね。


「棍棒もちょっと軽い気がしたけどね。フルスイングしたのに思ったより威力でなかったし」


「それは思った」


 今度は納得する。

 すると会話の切れ目を見計らったのだろう、衛兵さんが纏めてくれる。


「ナイフはともかく、誰かからの指示を受けて行動に移ったようだということですね」


「おそらく……」


 私があくまで憶測で自信無いけどって感じで返事すると、お姉ちゃんがぼやいた。


「女神の眷族である精霊に楯突くなんてね」


 なんか偉そうな言い方。権力者になった気分ってやつかな。

 まさか本気で偉ぶっているわけではないよね?


「ふふっ」


 冗談交じりだろうと思い、笑った。

 まさか……ね。

 すると、私たちに聴取していた衛兵さんとは別の衛兵さんが、


「念のため、お香と折れたナイフと棍棒を分析しましたところ。お香には聖なる者を引き寄せる作用と女性への催淫作用があるらしいことと、ナイフと棍棒には女性への催淫効果が付与されていました」


「そうか、傷付ける目的ではなく、淫らな行為に及ぶことが目的だったのか」


「まったくおぞましいわね」


 お姉ちゃんが嘆いた。


「気持ち悪い……」


 私も同感。ゾッとして身震いする。

 まあ、精霊の力のお陰でお香の効果は中和出来てたらしいけどね。


「ありがとうございました。もうお帰りになられて結構です」


 というわけで解放される。どうやら現場を片付けるみたい。お姉ちゃんがド派手にぶっ壊したお香とか木片となった元木箱等を広い集めている。……大変だね。

 このままここにいては邪魔になると思い、早々に立ち去った。

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