霊装顕現
暴漢を成敗したお姉ちゃんは、深刻そうな顔で言う。
「病み上がりの
「……そうかも、つまり魔法を覚えてほしいってこと?」
「いいえ、それも正解ではあるんだけど……、今日やってもらうのは、聖霊の装備、すなわち霊装の顕現よ!」
ビシッと決めたところ悪いけれど、ノれなかった。
「……霊装?」
私は「なにそれ……?」と首をかしげた。ピンとこなかったから。
「もうちょっと解説ほしいよ……」
ぽつりと、そういう厨二的なお言葉よくわからない、なんて呟いてみた。
お姉ちゃんため息ついて、
「これから馴染みの物になるんだからわかってくれないと困るわ。というか開花してるでしょ?」
やれやれポーズ発動しちゃった。
言われてみれば、開花していた。
「ほんとだ。けど、いいじゃん、そんなのわからなくたって。死ぬわけじゃないし……」
「この世界では死ぬの。失望ポイント+1ね」
……なんで?
「そんな風にとぼけた顔してたら生き残れないわよ」
「そうなんだね、異世界怖い」
「そう怖いのよ、あんなおっかないゴブリンもいるんだし」
例のおでぶちゃんのことを思い出したのかブルルと身震いしたお姉ちゃんは、ともあれ、なんて言って、この町の外側――門がある方向を向いた。
「百聞は一見にしかず。見せてあげるから、町の外の平原にいきましょう」
そう言うお姉ちゃんに腕をグイと引かれ、町の外の平原へと向かった。
途中、門番に会釈、お姉ちゃんは身分証明書のようなものを二人分見せた。
町の外の草原に出ると、お姉ちゃんが身分証明書? を一枚私に差し出すので、受け取る。
「これ、実兎のなんだけど、自分で管理する?」
渡されたのは確かに身分証明書だった。名前欄と思われる箇所には『ミサト・ミウ』と書かれている。
「……うん」
私はちょっと考える、すぐに結論を出して、頷いた。なんでもかんでもお姉ちゃん任せにするってよくないしね。
「この辺でいっか」
草原をちょっと歩くと、お姉ちゃんは立ち止まる。開けた場所だ。おそらく、回りに人がいないかつ魔物が来てもすぐわかるといった理由で、お姉ちゃんが選んだのだろう。
「……さてと、じゃあ見せてあげるわね」
ワクワクする私。だって、霊装だよ! そんなの見たいに決まってるじゃん!
「じゃあ行くわよ。しっかり見ててね」
お姉ちゃんが念を押すので、
「うん!」
私は大きく頷いた。
すると、お姉ちゃんは、精神統一するかのように目を瞑る。お姉ちゃんの回りに濃密な力のようなものをひしひしと感じ取った。
お姉ちゃんに集うこの力……。もしかして、創作物でよく出てくる、マナ、的なものかな?
ここでいうマナとは、魔法を行使する際に力の源となるものである。
数秒経って、お姉ちゃんが目をカッと見開いた!
「出でよ! 雷鳴の三叉槍――サントラ君!」
お姉ちゃんが呼び掛けると、それに応えるかのように、ビリビリバチバチし、やがて
お姉ちゃんは口をパクパクする私を見てニヤリとし、
「実兎もやってみそ」
と言った。
ほら来た、無茶振りだよー。
「あいあいさー」
自画自賛出来るほどにやる気に満ち溢れた返事をし、とりあえず、やってみる。別にダメならダメでいいし。
私もお姉ちゃんの真似をして目を瞑る。
目を瞑り、集中すると、何か暖かいものがキタキタキタ。
――これは、いけるかも?
「お願い、私の呼び掛けに答えて」
『出でよ』は、私にはかなりハードル高いし……、オリジナル文言を紡ぐよ。
《――蒼氷の剣『無銘』を召喚》
「名を付けた方がいいわよ」
とのことで、さいですか、と即興でやってみる。
「蒼氷の剣――えっと……――
考えに考えて、口にしたのは泡沫という、私が思うかっこいい熟語。
――泡沫は儚いし、名前としては不味いかな? まあ、剣が
そんなことを考えている内に、
そして。どこからかプシューと冷気が発生し、集った泡はカチンコチンに固まった。
水が氷になるかのように状態変化した元泡は、気付くと剣の形を成していた。
中空に浮かぶ形成された剣を掴むと、すべすべとしたさわり心地。
しかもひんやりとしている。
――これが私の剣、蒼氷の剣、泡沫……なの……?
こみ上がってくる感慨に、私は叫びたくなった。……けど、気を落ち着けて、自制する。自制したのは、お姉ちゃんの前ではしゃいじゃったら「子供みたいね」と馬鹿にされそうだと思ったからだよ。思春期の心は複雑で、別に子供でも良いんだけど、良くないって言う感じなの。
まあ、何はともあれ。こうして私は、霊装を手に入れた。
「おおー、いい剣ね! ワンダフル!」
お姉ちゃんが私が顕現した蒼氷の剣を見て、褒めてくれる。
「うん。エモいね」
感情に訴えかけてくるものを感じた私は、お姉ちゃんのお褒めの言葉にそう答えた。
そして、私は、蒼氷の剣――愛しい、泡沫ちゃん――に頬擦りをする。
「ひんやり、すべすべー」
氷属性っぽい武器は、とてもちべたい。
「実兎ったら……。その剣のこと、すっかり気に入ったようね……」
そう言う、お姉ちゃんの様子は、どことなく悲しげだった。
あれれ? もしかしてだけど――、もしかしてだけど――、
「ヤキモチ?」
「――なっ! ……ち、違うわよ! 剣に焼きもちとかアホでしょ!」
お姉ちゃんのお顔が瞬間沸騰。
顔を真っ赤にして、両手をふりふり、必死に否定している。
どうやら図星だったらしい。かわいい。
「素直になろうよ……お姉ちゃん……、回りには誰もいないんだから……」
「……実兎」
私は蒼氷の剣をポイし、お姉ちゃんに近付く、お姉ちゃんも雷鳴の三叉槍をポトリと落とした。
蒼氷の剣と雷鳴の三叉槍はマナへと
そんなことは露知らず、私たち姉妹は桃色空間を形成しようとした。――と、その時。
「――私が居ますよー」
むくりと邪魔者が生えてきた。気づくと、邪魔者の両手は、開花するお花を表すように、万歳していた。
『きゃああっ!』
私たち姉妹は同時に奇声をあげて尻餅をついた。
「……いててて……」
「……うー……、いたいよぉ……」
私たち姉妹は涙目になりながら立ち上がり、そして、邪魔者に恨みがましい目を向け、特定する。邪魔者は桃色の髪の美少女――もといコリンだった。
「コーリーンー!!」
お姉ちゃんがぷりぷりと怒り、コリンをゆっさゆっさ。
「……もう、びっくりさせないでよ」
と私が言うと、
「すみませんー。悪戯心が芽生えちゃってー、花開いちゃったー」
てへっと舌を出すコリン。
「まったく、もう……」
「……コリンったら……」
私たち姉妹は嘆息した。
「――で、何しに来たの?」
急に現れた、コリンに問うお姉ちゃん。
すると、表情を不満げにしたコリンが、ぶーたれた。
「酷いよー、お夕食を一緒に食べようーって声をかけようとしたのにー、すたすた町の外まで行っちゃってー」
「それは…………ごめん、気付かなかったわ……」
お姉ちゃんが、声のトーンを落とし、心底申し訳なさそうに謝る。
「いいよー、その代わり、お夕食は一緒に!」
「はいはい、わかったわよ……」
お姉ちゃんが面倒くさげにぼやいた。
そうして、コリンを連れて、宿へと戻る私たち。
「こっちが近いですよー」
とコリンに先導され、路地裏へ。
路地裏ってだけで、お姉ちゃんが警戒した。
「まさか、また変なのに絡まれたりしないわよね……」
結局。絡まれはしなかった。
でも、事件は起きちゃった。あちゃー……。
繰り広げられたのは、こんなシチュエーションだった……。
視線の先には――
「……あっ、チャラ男が……」
「チャラ男? ……ってゼファーじゃない……あらら……まあ……、これはひどい怪我だこと……、他にも怪我人が……、この格好は騎士さんかな? またしても厄介事のようね……」
お姉ちゃんが述べたように、チャラ男と鎧を着た騎士たちが、通りにボロ雑巾のようになって捨てられていた。騎士たちに目立った傷はなく出血もない、全員気絶しているだけみたい。
「うわぁ……治安わっる……」
思わず呟く。
それにコリンが反応して、
「最近貧民が色々知恵を付けて、治安維持に苦労しているみたいなんだよー、騎士団長閣下も自分の仕事は王族の身辺警護と悪の手先を滅することだけだー、とか言っちゃって、王女たちへの下心丸出しな上に、非協力的だしさー。まあ、悪の手先に、自分の人生計画めちゃくちゃにされたから強い怨みがあるのはわかるけどねー、武功と家格で、あんなんでも騎士団長の地位に置かざるを得ないんだよねー、参っちゃうよねー」
「途中から愚痴になってるよ……。けど、領民とかの為じゃないんだ……」
「ローゼフは私欲と私怨のためにしか動かないからねー」
「くっちゃっべてる場合? ゼファーがなにか伝えてるわよ!」
たしかに。
「……そ、この、建物……」
そこまで言って、チャラ男は力尽きた。
最後に、チャラ男が指さしたのは……見るからに怪しい、大きな建物だった。
――バビューン! と、コリンが光弾を打ち上げる。
「増兵を呼んだよー。これでここに倒れている人は、ひとまず大丈夫でしょー。ゼファーが気になることを言い残したし、とりあえず中に入ろうよー」
言うが早いか、「たのもー」とコリンは扉をバーンと開け放ち、建物内へ押し入っていった。
「ちょっ」
「……おいてかないでよ……」
そんなコリンに、慌ててついて行き私たちも突入。
そして。そこで見たものは――、
「ぐへへ。いい身体してやがるぜ」
「よし、食っちまおう」
「王女様の処女頂きってか?」
と下卑た笑みを浮かべながら言う男たち――クズめらがいた。私たちが来たのには全く気づく様子がない。
さらに。その視線の先に居るのは、天井に繋がれ、おまけに服を引き裂かれたのか、純白清楚なレースの下着姿をさらしてしまっている少女――クズめら曰く、王女様だ。素肌を晒した下着姿でも、高貴なるオーラを感じるので、まず間違いないだろう。下着も高級そうだった。
「きゃあー! それだけはやめてくださいー!!」
クズめらに悪戯されそうになっている王女様は、じたばたと暴れ泣き喚いている――。
……ひどい!!
その様子を見た私に、全身の血液が煮えたぎるような感覚が訪れた。
――このまま放っておいていいわけがない!
そして私は――キレた。
――そこからの実兎の動きは、クズめらには捉えられなかった。
そして実兎は、クズめらが反応出来ぬ程の速度で、相手の懐に飛び込み、切り伏せた。
ただ、それだけだ。
それが、
《――『
実兎の周りに、飛び散る氷の欠片が、淡く煌めいていた。
私は、驚愕していた。
隣にいたはずの実兎が、
少なくとも王女の近くにいた奴等は片付いたのだ。なら後は造作もない。
幸運にも? それに巻き込まれなかった奴等は、恐慌に陥った用に逃げ出す。――こっちに向かって。
しかしコリンは、それには気づかず、憤慨して、光の剣を何本も顕現させようとした。
が、しかし――、
「何本も必要はないわ。こっちに来る奴等なんて一本で十分よ」
それを私は、愚かにも逃げ出そうとした奴等を顕現させた雷鳴の三叉槍による峰打ちでぶちのめしながら、遮った。
「ユヅキちゃん。なぜ!? まだあっちに残ってる! あいつら女の敵だよ!! あの娘がどうなってもいいの!?」
とコリンが邪魔者をフォトンソードによる峰打ちでぶちのめしながら詰め寄るも、私は動じず――冷静に起こった事実をありのままに伝える。
「安心して、あいつらは
私がコリンにそう伝えると同時に、王女様? を襲おうとしていた奴らが、全員――倒れた。
「ほらね。残りは楽勝よ。過剰な力の行使は女神のお供として美しくないでしょう?」
気づいたら、私は、王女様の近くにいた。
手には、いつの間にか顕現していたのだろう、
――え、血濡れ? 私は一体何を……?
「……えっ?」
王女様が私の
……ん? ……なに?
私は示された先を見る。
すると、『何者か』の一太刀を浴びたクズめらが、裂傷部から血を流し、倒れ伏している。
そこには。――血の水溜まりが出来上がってしまっていた。
そして手には――血濡れの
「あなたは一体……、何者ですか……?」
と、王女様が
コリンやお姉ちゃんがこちらへ歩いて向かってくる。
でも、私だけは
お姉ちゃんたちとは、かなりの距離が離れている。
私の後ろには、煌めく氷の欠片が粒子のように漂っていた。
それは何者かが駆けぬけた
先ほど私が居た辺りから私の元まで続いていた……。
――全てが繋がった。
『何者か』ではなく、これはつまり……、
……こ、これを……私が……。
私は今起こった事の
……どうやら、意識が飛んでいたうちに、とんでもないことをしでかしたらしい。拐われた王女救出という名の。
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