第57話 布勢 主人
『その機体に乗りゃゾーンに
アキラはもう反論しなかった。
「はい。ボクは強い……本当に。あなたのおかげで、やっと自分でもそう思えるようになりました。ありがとうございます。評価してもらえて、凄く嬉しいです」
『へへっ、そりゃよかった!』
『……おっと、つい話しこんじまった』
「はは、そうですね」
『んじゃ、そろそろ続きといこうぜ!』
「え──?」
ダッ‼
直立不動だった
ブォン!
和んだ空気に完全に呑まれていたアキラはぎょっとしたが──信じたとおり、
バヂィッ‼
「あッ──⁉」
だからゾーンに入っていない今のアキラでも反応が間に合って、左スティックの十字ボタンを押したのだが、まだ甘かった。
アキラの乗るルシャナークが左手のビームサーベルで自動防御したところ、
カラーン!
「くっ……!」
アキラは慌てながらも右スティックの主武装選択ボタンを押して、ビームサーベルの使用モードを〔二刀流〕から〔両手持ち〕に変更した。
バヂィィィッ‼
ルシャナークが右手に残ったビームサーベルを両手で持ちなおし、再び斬りかかってきた
そのまま光刃同士をがっちり噛みあわせた鍔ぜりあい──にはならず、またすぐ
バヂッ──バヂィィィッ‼
「うわっ、ちょっ、とぉッ⁉」
アキラも両スティックと両ペダルを慎重に操ってルシャナークを歩かせ、回りこまれないよう位置取りと向きを保ちつつ、右スティックの十字ボタンによる方向指示で剣の向きを微調整しながら
それはやはり、先ほどの空中戦とは比較にならないほど遅い、今のアキラでも紙一重で対処できる攻撃……ただ、こちらが慣れるに従って徐々に速くなってきている。
ゾーンに入っていない今の自分を瞬殺する気はなく、こうして集中力を引きだしてまたゾーンに入れるように誘導してくれている……親切だが、そもそも襲わないでほしい!
「フセさん⁉」
『カズトでいーぜ、アキラ!』
「カズト! ナニすんのさ⁉」
『言ったろ? 続きだよ、殺しあいの‼』
「嫌だ……もう、君とは戦いたくない‼」
『いいね、その台詞! ロボットアニメみてーだ‼』
「本気で言ってんだけど⁉」
¶
ガシャッ──ズダァァン‼
バヂッ──バヂィィィッ‼
星空の下、山頂の平地を巨大な足で踏みならし、黄金と紅蓮、全高16mの機械じかけの巨人が2人、光の刃を灯した剣を打ちつけあう。
どちらの踏みこみも剣閃も瞬間的には速くなるが、次の動作に移るまでは緩やかで、型をなぞるように規則正しく、まるで剣舞のよう──だが手順など決まっていない、剣戟。
その片割れ、紅蓮の巨人サラマンダーを駆る伯爵──
(やっぱオメーは
基本に忠実で、なによりブランクラフトの操縦が大好きなことが伝わってくる、よい動きだ。彼でもついてこれる速度域で動いている今、それが顕著に分かる。
ただ、さすがにこの速度のままでは怖くない。やはりゾーンに入ってもらわないと。ゾーンに入っていた先ほどのアキラは最低でも自分と互角、あるいはそれ以上だった。
ずっと、こんな強敵を求めていた。
実戦の殺しあいの場で、死力を尽くしても勝てるかどうか分からない限界バトルをさせてくれる、最高の好敵手を。
それほどの強者はカグヤ、
なにせ一度、戦いそびれている。
1週間前、自分たち5人が高取山から連邦軍の5機の新型ブランクラフトを奪ってカグヤと共に去り、西太平洋で連邦艦隊と交戦中だった帝国艦隊の旗艦に着艦したあとのこと。
カグヤを追って高取山から飛んできた
その時も戦いたいと思ったが、直後に5人で奪ったばかりの5機で、自分はこのサラマンダーで出撃した時、ルシャナークはもう引っこんでいて戦う機会はなかった。
もう戦えないと思っていた。
ルシャナークに乗っていたのがカグヤの従弟、月の皇帝タケウチ・ツヅキにとっては甥に当たる人物だと、カグヤから聞いて知っていたから。
地球連邦にとっても〔敵国の皇帝の身内〕となれば重要人物、戦場になる危険のない安全な場所に隔離されると思ったから。
それで先ほど敵艦の中から現れたルシャナークを見ても、乗っているのが1週間前と同じ人物だとは思わなかったので、名前を聞いた時には耳を疑った。
連邦の指導部はなにを考えている?
ここハワイの重要性は戦略上の常識、次に攻められることくらい予想できなかったのか。だとしたら、アートレスであることを差しひいても信じがたい無能だ。
だが、ありがたい。おかげでアキラと、こうして戦える!
「さぁ! ゾーンに入れ、アキラ‼」
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