第56話 承認
『そーそー。で、その機体がタケウチ・サカキ博士の開発した6機目だろ? オレたちが見落とした。姫サン、盗んだ5機がイーニー並の性能しかなくて愕然としてたらアンタがソレで大暴れしたんで〝本当の新兵器はアレだ〟って騒いでたぜ』
「このルシャナークの性能は他の5機と変わりません」
『そーみてーだな。それは手合わせしてみて分かった』
フセ・カズト
対峙している敵機──奪われた5機の新型の1つ──サラマンダーのパイロットの馴れ馴れしさが、アキラは癇に障った。
1週間前のあの夜には地球連邦軍とルナリア帝国軍、双方に多数の死傷者が出た。
帝国軍の、
なのに悪びれも、恨みもしていないような。
どうして、こんな平然としていられるのか。
今夜だって彼らの襲撃で真珠湾は地獄と化して、自分ともその中で遭遇して、さっきまで戦っていたのに……そこまで考えて、アキラはふと気づいた。
「あの。真珠湾での虐殺も、カグヤが……?」
『姫サンなら隊を離れて月に帰ってるよ。今は他の奴が隊長代理をやってる。さっきの無差別攻撃はソイツの考えだ。姫サンなら民間人を巻きこむ作戦は立てねーし認めねーさ』
「そう、ですか」
よかった──と言いかけて。
よくはないと思いとどまる。
「その隊長代理の命令で、あなたもしたんですか? 軍人でもない民間人を巻きこむ、無差別攻撃を」
『ああ、した』
「‼ ……最初の爆発で、飛んできたなにかに当たって、ボクの民間人の友達3人が、死にました」
『その友達を殺したのはオレかも知んねーし、他の4人の誰かかも知んねー。だが誰だろーと関係ねー。部隊の仲間は一蓮托生、連帯責任。オレはアンタの友達のカタキで間違いねーよ』
ドクン
「軽く言いますね。人を殺して、なんとも思ってないんですか」
『アンタ、自分の友達を殺した奴が〝本当は殺したくなかったんですぅ〟なんて言ったら許せるか?』
「……いえ、余計にムカつきます」
『だろ? 謝罪も贖罪もしねー。するくらいなら初めから殺さねー。作戦上、必要だから
アキラは圧倒された。
許しを請わない姿勢は潔いが、取りつく島がないとも言える。許しあい和解する道を自ら閉ざしてしまっているのだから。
だが、それなら自分はこの人に謝ってほしかったのか? 謝られて許したかったのか? いや、許せない、許してはいけない。
「ならボクもドラグーンのこと、謝りませんよ」
アキラは会話の着地点が分からなくなり、取りあえず流れに沿ってそう言った。奪われた5機の1つ、ドラグーンは先ほどアクベンスが艦砲射撃で撃墜していた。パイロットは即死だろう。
『アイツを
仲間の死を持ちだせば
「違いますけど、あの船はボクの家ですから」
『そっか! あー、全然いーぜ。てかアイツのカタキなら、もう討ったしな! そこはマジで気にしてねーって』
「カタキを……討った? いえ、艦は不時着水しただけで沈んでませんし、乗員だって生きてますよ、まだ大勢!」
『戦闘不能にしたんだから充分だって。艦を沈めて乗員を皆殺しにするまでオレの気は済まないとでも思ったか?』
「……ええ、まぁ」
『そもそも軍人同士、戦闘中のこと、恨む筋合いじゃねーしな。そんでも仲間を
敵に属する者の全てを憎んで殺しつくすまで復讐を続けます、などと言われるより、よほど穏健で理性的だ。
だが、そんな割りきれるものだろうか。軍人同士の戦いで飛行科の8人が殺されたことを割りきれていない自分を矮小に感じ、みじめになる。
「やっぱり苦手です、あなたのこと」
『っちゃー、そうかー。でもオレはアンタのこと好きだぜ! ワクワクさせてくれる
「ッ……あなたと戦えたのは、伯父さんがこの機体に搭載してくれた装置のおかげです。これがなきゃボクはシミュレーターのイージーモードでしか勝てない底辺プレイヤーです」
『ゾーンに入ってたんだろ? それはオレもだし、自力で入ろうが他力で入ろうがゾーンは実力を引きだすもんでしかねぇ、アンタ自身の強さじゃねーか』
「……え⁉」
『オレは自分の意思で入れるからな、ゾーン。特に
「あなたも、ゾーンに入っていた……」
これほどの強敵と戦えているのは自分だけがゾーンに入って、相手は入っていないからだと思っていた。互いに潜在能力の全てを引きだした、対等な条件で戦っていたとは。
アキラは鳥肌が立った。
『おう! てか底辺からあそこまで強くなんのスゲーな、オレはそこまで変わんねーよ。アンタの戦いかたが、よっぽどゾーンの高速思考と相性がよくて、普通の状態には向かないってことか』
アキラもそれは理解していた。
低速のイージーモードでは落ちついて戦えるが、現実の高速戦闘では反射神経が追いつかず、なにもできなくなる。ゾーンに入って初めて現実でもイージーモードと同じように戦える。
そのゾーンから、アキラはいつのまにか戻ってしまっていた。これだけ話しこんでいれば当然か。最弱に戻ってしまった今、急に
だが、この人はそんなことはしない。
敵を信用してしまっている。
とうとう自覚して、アキラは観念した。
⦅オメー、
そう褒められた時から、アキラは
それは彼のせいで死んだ自分の大切な人たちへの裏切りになるからと、認めたくなかった。好きになってはいけない、嫌いなままでいなければと。
だが、もう誤魔化せない。
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