第40話 戦争
数日前にあった地球連邦軍・真珠湾基地と周辺住民との交流会で、アキラは地元の少年少女たちと
友達ができたのは久しぶりだった。
幼い頃はいた。だが小学校に上がって成績に対する父の要求が厳しくなってからは元いた友達とは疎遠になり、新しく友達ができることもなくなった。
勉強と運動に追われて友達と遊ぶ時間がなかったし、同年代の子供たちは競争相手となり、どの分野でも誰よりも劣る自分には妬ましい者ばかりで、仲良くする気になれなった。
父が死んで彼の呪縛から解放され、中学校に上がってからも、自ら望んだ士官学校に入るための受験勉強を始めたため、その意識は変わらなかった。
そうでなくても。
できたかどうか。
アキラは友達の作りかたを忘れていた。カグヤと仲良くなれたのは、競争相手にもならないほど彼女の能力が雲の上のもので、また彼女のほうからグイグイ距離を縮めてくれたおかげだ。
アーカディアンも家の地下のシミュレーターで独りでプレイして、同じ中学の誰かと一緒にすることはなく、オンライン上でも対戦相手と交友することはなかった。
そんなだから、交流会で初めて会う同年代の地元の学生たちと一緒に遊ぶことになった時は気おくれしたのだが……遊んでみると拍子抜けするほど、あっけなく仲良くなれた。
⦅対戦だと少しも勝てないの、ぼくもだよ⦆
⦅勝ちとか負けとか
⦅真面目な試合じゃない、遊びなんだから⦆
CPUが操作する敵軍に挑むステージに、全員の協力プレイで、しかもクリアするまで撃墜されても何度でも復活できる〔無限コンティニューモード〕というヌルい条件で挑んだ。
そんなこと、いくらやっても実戦の予行演習にはならない。ブランクラフトの正規パイロットを目指すアキラには時間の無駄とも言える。
だが、それがよかった。
勝ち負けのプレッシャーから解放され、ただブランクラフトを操縦して戦うのは驚くほど楽しかった。
そもそも負けつづきの人生でアキラはあらゆる勝負事に辟易していた。それでもロボット愛からアーカディアンは好んでいたが、それさえ勝負の要素はないほうが楽しめると気づかされた。
仲間たちと助けあう一方で足を引っぱりあいもして、それでも気にせず、撃墜されてもゲラゲラ笑いあいながら戦線復帰して、最後には力を合わせてステージをクリアした。
あんなに楽しく遊んだのは初めてだった。
たった1日だったが、その時間を共有した連帯感から3人とはもう十年来の親友のような気がしていた。今夜そんな彼らと再会して、誕生日を祝ってもらえた。
オオクニ艦長とツキノ大尉と一緒に博物館に行った帰りの車中で2人と親子になり、幸せにひたっていたら到着した先の公園でまた交流会が開かれていて、それが自分の誕生会でもあった。
自分が演壇上で会場の人々にお礼を述べたあと、3人が1つのバースデーケーキを一緒に持って運びながら演壇に登ってきた。彼らが傍に来たらアキラがケーキに刺さった14本の蝋燭に灯った火を吹いて消すはずだったが──
ケーキが反転しながら落下。
火は下敷きになって消えた。
アキラの足下で。その向こうではケーキを手から落とした3人が演壇に倒れて……その下から周囲に赤い液体が広がっていた。
「タツキ? リズ? ジーン?」
3人とも動かない。その体は、素人目にも死んでいると分かるほど損壊している。暗くてよく見えないが、見えていたら正視に耐えないだろう……中身が色々こぼれている。
3人が倒れている傍にはドアほどの大きさの金属片が刺さっている。突然それが降ってきて3人を直撃して、こうなった。
アキラが知るよしもないが、それはルナリア帝国軍タケウチ隊に攻撃された軍艦の、爆発で千切れとんだ装甲の破片だった。
「嘘、だよね……?」
悲しくはなかった。それはアキラが悲しいことが起こったと認められずにいたからだった。だって、さっきまで幸せの絶頂だったのに。それが壊されたなんて信じたくなかった。
「アキラくん‼」
「ツキノさん⁉」
アキラはツキノ大尉に肩の上へと担ぎあげられた。それで現実に引きもどされ、それまで聞こえていなかった周囲の音が急に聞こえてきた。
「ウワァァッ‼」
「イヤァァァ‼」
タタタッ!
ドォン‼
ボガァン‼
泣き声、悲鳴、銃声、砲声、爆発音……
それらが絶えまなく方々から響いてくる。
あちこちで火の手が上がり、赤く照らされた夜の町を、人々が半狂乱で逃げまどっている。その中を自分を担ぐツキノ大尉、その部下のパイロットたち、艦長や他の軍人たちも走っていた。
「ツキノさん! 艦長! みんなが‼」
「黙って! 舌を噛むぞ‼」
「敵襲だ! 艦に戻るよ‼」
「ああああああ‼」
アキラは拒絶していた現実をついに実感してしまい、麻痺していた感情が爆発した。
涙でにじむ目で天を仰いだ時、そこに見知ったブランクラフトの姿が飛びこんできた。
地上を疾駆し、人々の頭上を跳びこえていく16mの巨体はすぐに見えなくなってしまったが……
金色のボディ。
(じゃあ、他の4機も……?)
高取山でカグヤを連れさった……もとい、カグヤ自身が呼びよせた彼女の部下たちが
いや、あの時と同じパイロットが乗っている確証はないが、そんなことはいい。分かっていることだけで充分だ。
自分の愛する伯父の作った機体をルナリア帝国軍が奪い、それを使って自分の大切な人々を殺害した。そしてまだ悲劇を撒きちらしている。敵国の軍人ばかりか民間人まで巻きこむ攻撃で。
アキラは分かっていなかった。
1週間前も戦争の中で人の死に直面した。それが自分のせいなこともあって恐ろしくはあった。
そして
今、初めて戦争の中で大切な人を喪った。唐突に、一方的に、理不尽に……これが戦争なのだと、アキラはようやく理解した。
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