第39話 真珠湾奇襲攻撃

 ルナリア帝国軍タケウチ隊の潜水艦は、日本の大阪から出港して太平洋の海中を東へと進むこと2日、ハワイ諸島の近海へと到着した。


 そこで浮上。


 星明かりに照らされた水面がゆっくり割れて、下から鯨のような黒い船体の上面が姿を現すと、その背中がぱっくりと割れる。その下には機械じかけの巨人の頭頂部が並んでいた。


 人型形態で直立して並ぶ5機のブランクラフト──天才科学者タケウチ・サカキが開発した地球連邦軍の新型を、タケウチ隊が奪取したもの。


 そこは以前は大型ミサイルを垂直に発射するため立てて収容しておくスペースだった。今は改修されて代わりにブランクラフトを──撃ちだす!



 バババババッ‼



 タケウチ隊・隊長代理のクラモチきんしゃくが〘白鳥天女ソレスチャル〙で、シマこうしゃくが〘金翅鳥ガルーダ〙で、フセはくしゃくが〘火蜥蜴サラマンダー〙で、オオトモしゃくが〘竜騎兵ドラグーン〙で、イソガミ男爵が〘スワロウ〙で出撃した。


 いずれも15歳の少年パイロットが駆る5機のブランクラフトは潜水艦から出るや即座に戦闘機巡航形態へと変形。敵のレーダーに察知されづらい海面スレスレの超低空飛行で、ハワイ諸島の中心地オアフ島を目指す。


 後方では潜水艦が背面ハッチを閉めて潜行していく。他の隊員たちには艦で先に合流ポイントに移動しておいてもらい、5機が作戦を終えて離脱したら帰投する手はずだ。


 前方に島影──オアフ島の西側面。


 夜闇の中、海岸線が町明かりで輝いている。特に右側が明るい。島南部にあるハワイの州都ホノルルだ。


 その手前、真珠湾の東岸に攻撃目標である連邦軍の施設が集中している。クラモチ公爵は無線で僚機たちに号令した。



『散開! 攻撃開始‼』


『『『『了解‼』』』』



 まとまって飛んでいた5機は散らばり、人型に変形して島西部の町をビルより低い高度で突っきっていく。足下の道路を走る車らから響くクラクションを背中に、真珠湾の西岸へ到着。


 また海面スレスレを飛んで湾を渡っていき、対岸の軍港に点在する桟橋に停泊している軍艦の内5隻を、各機1隻ずつ攻撃する──その手に持ったガンポッドで。


 空気抵抗を軽減するため円筒形をした銃火器、その外見こそ差異は少ないが、内蔵している武器はそれぞれ異なる。


 公爵クラモチのソレスチャルは磁軌砲レールガン


 侯爵シマのガルーダは激光銃レーザーライフル


 伯爵フセのサラマンダーは荷電粒子砲イオンビームキャノン


 子爵オオトモのドラグーンは擲弾発射器グレネードランチャー


 男爵イソガミのスワロウは機関銃マシンガン



 ドゴォッ‼



 磁軌砲レールガンからマッハ7で放たれた金属弾、灼熱の荷電粒子イオンのビーム、発射器ランチャーから飛翔した高性能爆弾の擲弾グレネードは、一撃で艦の装甲を貫いた。


 光を連射するレーザー、実弾を連射する機関銃は一撃では無理だが、同一箇所へと撃ちつづけて装甲の耐久を削りきり、やはり貫く!


 軍艦5隻は轟沈した。ここまで順調、奇襲は成功した。だが、この港の軍艦はこれで全てではない。可能なら全て沈めるが、それを敵──連邦軍が黙って見ているはずもない。



『各機、残る敵艦を狙いつつ反撃に備えろ!』


『『『『了解‼』』』』



 5機は移動を開始した。人型形態で足裏の推進器からジェットを下方に噴射して浮かび、海面スレスレ地面スレスレを滑るように飛んでいく。


 飛びあがれば敵艦の姿はすぐ見つかる。だがそうはしない。うかつに高度を上げれば残った敵艦が搭載している、また軍施設の各所に置かれているレーザーや機関砲の餌食になるから。


 無論、どこだろうと射線が通れば撃たれるが、低所なら建物が遮蔽物になって撃たれにくい。高所だと多数の砲から丸見えで一斉に撃たれる。


 それゆえ軍港に降りて戦う。


 だが、これにも短所はある。



「うおおおお! よくもやってくれたな化物ども‼」



 ババシュッ‼



 地上にいる歩兵──生身の兵士が持つ銃火器の射程に入ってしまうことだ。岸辺に現れた身体防護服ボディアーマーを着用した連邦軍の兵士たちが男爵機スワロウへと擲弾発射器グレネードランチャーを発射した。


 ブランクラフトが使う擲弾発射器グレネードランチャーよりずっと小さいが、ブランクラフトを破壊できる威力がある。そして身長2m弱の人間にとって全高16mのブランクラフトはデカくて狙いやすい。



『おひょっ♪』



 だが男爵イソガミは慌てず、左スティックに4つある副武装発射用の小型ボタンの1つを押した。すると彼の乗る漆黒の巨人、男爵機スワロウの頭の側面から伸びたアンテナが根元から旋回しつつ光る!



 ビーッ‼



 それは全てのブランクラフトの標準装備、近接防御用の小型レーザー砲塔。パイロットはボタンを押すだけで機体のコンピューターが標的を選定・捕捉・照準・発砲までしてくれる。


 ブランクラフトを撃破するには威力不足だが、敵の撃った実弾を撃ちおとすには充分。まして歩兵の撃った小さな弾など!



 ドガガガガッ‼



 小刻みに動いたアンテナの先端から放たれ虚空を薙いだレーザーは、擲弾グレネードを全て着弾前に誘爆させた──のみならず、それを放った歩兵たちを焼却して、絶命させた。



『ほほほほほ! 怖や怖や♪』


『だな。歩兵の始末が先決か』



 子爵オオトモがつぶやく。男爵イソガミの笑い声に怯えた様子はなかったが歩兵が脅威なのは事実。


 軍艦と、じきに発進してくるだろうブランクラフトは、その強力な砲をこちらに撃てば周囲の自分たちの土地まで大きく傷つけるため無闇には撃てないだろう。


 小さくて遠慮なく撃ってきて、こちらからは見えづらく狙いづらい歩兵のほうが、むしろ怖い。



『じゃ、手当たり次第か。仕方ねぇな』



 伯爵フセが嘆息した。ちまちま将兵の姿を探す必要はない、広範囲に攻撃すれば巻きこまれて人は死ぬ。ただ、それは彼の趣味ではなかった。


 即応してきたのは臨戦態勢で待機していた者たちだ。休憩などで臨戦態勢でなかった者たちは今から戦う準備をし、遅れて参戦してくるが──


 それを待つ義理はない。


 どんなに優れた兵士も武器を取る前は無力、今の内に殺ってしまえと、強者に戦う機会さえ与えないのは心苦しいが、それが奇襲。普段から身勝手な伯爵フセだが作戦を損ねるほどではない。



『では民家をさけて軍施設のみを──』


『いや、その逆だ。民家もろとも焼け』



 侯爵シマの発言を公爵クラモチが遮った。



『休憩中の軍人には基地から町に出ている者もいる。戻る前に殺せ。それに火事は大規模なほど生身の人間が戦いづらくなる』


『民間人を巻きぞえにせよと⁉』


『基地の傍にいて戦争に巻きこまれるのは当然だ。周辺住民も覚悟はできているさ』

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