第11話 幸せの絶頂

何年ぶりだろう。

番号を書いたメモをもらった。

しかも相手は坂下さん。


…すきなひと。


なのになんでこんなに憂鬱なんだろう。

心底喜んでたはずなのに

いつかの弱い自分が出てきて

踏みとどまってしまう。


また浮気されたらどうしよう。


こんな私に好かれても、

迷惑なんじゃないだろうか。


おかしいな。

この会社ではうまくやってたはずなのに。


みんな可愛がってくれて

優しくしてくれて

裏切られたことなんてなかったのに。


こんな気持ちになるなら

好きにならなきゃよかったな…。



仕事しながら、ポケットのメモを意識しては

頭の中でずっとこんな感じ。



『坂下さんはそんな人じゃないよ!』


背中を押す自分と


『でもあの渡し方は手馴れてるよね(笑)』


足を引っ張る自分


まるで天使と悪魔が囁くみたいに

あがっては落ち、落ちてはあがる。



そしてそれを客観的に見ては

なにやってんの…と呆れる。



坂下さんと顔を合わせたくなくて

ダッシュで帰ってきたのは良いものの、


テーブルに置かれたメモとスマホとにらめっこして

またため息。



いや、私が登録しなきゃ何も変わらないんだって!


恐る恐る手に取ると同時に着信音がなる。


「うわっっ!」


びっくりした時に きゃぁ!と言える女になりたい…


知らない番号だけど、出てみる。


「もしもし…」

「あ!もしもし。坂下です」

え!!!??!

慌てて手元のメモと、表示された番号を見る。


うそー!同じだーーー!!!

「え!わ!なんで…!?」

「その感じだと、登録してくれてないね?」


あ…傷つけた…


「…信じてもらえないかも、しれないけど、

ほんとに今まさに登録しようとしてて…」

ほんと私、最低だ。


「ふっ。信じるよ。大丈夫。」

電話越しの優しい声。

あぁ、泣きそう。


「突然電話してごめんね。

なんか…その、待てなくて。」


待てなくて。

その言葉がじーんと広がる。


「…ありがとうございます。ほんと…

でも、どうして番号……?」

坂下さんが私の番号を知ってたのなら、

番号渡さなくてもよかったんじゃ…

「あ!えと…緊急連絡網に番号載ってたから…

ほら、緊急だったし?」

「ふふ。緊急だったんですか?」

「そりゃそうでしょ。

逃げるように帰ったから。緊急事態!」


あぁ、バレていた。

でも、それを緊急って…

そんなの……嬉しすぎるんですけど。


「…坂下さん、わたし実は、」

「あ!待って!迷惑だった?!」

「え?いえ、迷惑だなんて」

「もしかして、彼氏いる?!」

「え!いませんよ!」

「……」

「…??もしもし?」

坂下さんは無言だ。

電話、切れたのかな?


「……よかったぁ……」

「??え?」


「俺、そのへん確認してなかったから…

奇跡だわ。まじで。」

「奇跡?」


「上野さんみたいな子、彼氏いないのが奇跡」


「!?なっ、なにいって…」

電話越しで見えるはずないのに

手がアタフタしてしまう。


「俺ね、この歳になって、まさか好きな子ができるなんて思ってなかったんだよね。だから、めちゃくちゃ頑張りたいんだけど、いい?」


「そんな……何言って…」

あぁ、恥ずかしい。

嬉しすぎてもう

自分の顔が赤いのがはっきり分かる。


「はっきり言いたいけど、電話だし。

続きはまた会ったときに言う」


「…や、もう私、どんな顔して会えば…?」

手で顔を押さえていることに気づく。

だから、電話だってば。


「…上野さんほんとに可愛いな」

「!!!」

はぁ…もう死んでもいい。


「明日いつも通り、可愛い上野さんを見れたら、

俺はそれで十分かな。」


「……私ももう、十分です……」

「ははは!」


あぁ、なんかもう今スグ会いたい。

笑ってる坂下さんを見たい。


「じゃあ、また明日ね」

「ぁ……はい」

あ……電話、切れちゃう…。


「…めちゃくちゃ名残惜しいんだけど」

「え!!わ、私も……」

きゅん死する……。


「上野さん、今家?」

「はい」

「ちょっと出てこれる?会ってメシでも」


「!…はい!!」


わぁ……!!!何これ!!!

しあわせのぜっちょう……!!

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