第10話 お見通し

お前、上野さんのこと好きなの?


突然坂下さんにそんなこと聞かれるとは…


「…気になります?」


本心が漏れそうになる。

というか、八割、漏れてる。


「まぁ、気になるよね」


目をそらさず、じっとこちらを見る坂下さん。



「…好き、だった が正解ですかね」


無理やり過去形にした。

実際そうだし。


「へぇ?俺も聞くけど、気になる?」


「いや…まぁ、気になりますよね」


「ははっ、素直じゃん!」

男でも見惚れそうな笑顔で笑う坂下さん。

色気あるんだよなぁ。この人。


「偉そうに聞こえるかもしれないですけど、坂下さんって結構よく見てますよね。知り合いだってこともなんかすぐ気付いてたし…。でも、社内では言わないでおこうってことになってるんで、このことは…」


「いいよ。大丈夫。俺良い奴だからさ。

でもさ、先輩にカマかけるのは良くないんじゃない?」


「…すんません」


「俺さ、本当に久しぶりに好きな子ができてさ、

今ちょっと浮かれてんのかも。今日あのメモに番号書いて渡したんだけど、おっさんにはハードル高すぎたかな?」


坂下さんはどことなく恥ずかしそうに笑う。


「歳、気にしてるんスね」

「うるせーわ」


笑いながらガシッと肩を軽く殴られた。

「はは、すんません」


「知り合いってことは秘密にしとくけど、俺らの邪魔はすんなよな」

あぁ、これが本心だろうな。


「しませんよ。もう過去なんで」

そう、これが俺の本心。


坂下さんならきっと

あいつも甘えられるだろう。


「今日、上野さん帰るの早かった?」

「そうっすね。定時と同時に猛ダッシュでした」

「…そか。俺やっちゃったかなー避けられてる」

「え?でも……」

「いや、なんだよ。言えよ」

「あのメモ、もらった後、めちゃくちゃ嬉しそうでしたよ」

「…マジで?」

「はい」

「…じゃあなんで避けるんだろ?」

「避けてはないんじゃないですか?

なんか用事あったとか?」


突然じーっと俺を見つめる坂下さん。


「…立花って元彼なの?」

「え!!いや……まぁ……」

なんだよこの人。色々突っ込んでくる…!


「やっぱそーか…いつの?」

「高校のときですね…。でもなんかその…」

「……なに?」

「あんまり、続かなかったというか、自然消滅というか、付き合ってたという感じでもなくて」


「…へぇ?でも元彼なんだよな?」

「もう良くないっすか?!あやなとの事はあんまり思い出したくなくてっ!」

恥ずかしいやら苦しいやらでもう耐えられない!


「わりーわりー。何があったか知らないけど、もう聞かないようにするよ」


ふぅ…。

坂下さんは何でもお見通しか…。

でも、悪い人ではない。

きっと綾菜も、今度こそ…。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る