第7話 広がる感情
上野さんとの今の関係が心地よくて
前に進めば崩れるかもしれないと思って
進まずにいたのになぁ…。
でもそんな思いとは裏腹に
やっと進めると思うとなぜか嬉しい。
スーパーで半額の惣菜を3つと缶ビール。
いつものパターン。
同棲してた彼女と別れて早3年。
今どきのアパートは
小さくてもカウンターキッチンで
家具も家電もついてるんだから
有り難い。
結婚に踏み切らなかったのは
彼女が浮気していたから。
女の浮気はマジできつい。
ヤリたいだけとかじゃないんだもんな。
他に好きな人ができたのって
一方的に告げられて
すっきりされてもなぁ。
そっからはもう特定の彼女なんていらない。
傷は思ったよりも深くて。
転職したのもあいつをよく知る同僚に
破局を伝えにくかったから。
まぁ、実際前の職場の人間関係は最悪だっから
元々辞めたいとは思ってたんだけど。
1人ものんびりしてていいもんだ。
女なんて懲り懲りだと思っていたけど
毎日なーーーんか目で追いかけては
お疲れ様です だけで癒されてしまって
今や番号登録を希望してしまった。
レンジで1分半。
まわる惣菜を見て、考える。
あいつ、立花。
上野さんと親しげだったけど
どういう知り合いなんだろうな。
年齢も同じくらいか。
……番号渡すのどうしよう。
まさか引かれたりしてないよな。
こういう感じ、久しぶりすぎて
上野さんの反応をちゃんと見てなかった。
やべ。
嫌われたらどうしよう。
あいつなんで番号とか言ってきたの?
気持ち悪い!
とか
思われてたら…
かなりチキンハートだな。俺。
あぁー!
明日さっさと渡してしまおう!
心に決めて、惣菜に箸をつける。
…もう冷めてんじゃん。
次の日。
なんか朝から気合いが入る。
ここ数ヶ月、
まともに髪なんてセットしなかったのに
今日はワックスつけたりして。
おし!
会社に着くと、見知らぬ車がとまっている。
あ、立花か。
ちょうど降りてくるところだった。
「あ、おはようございます!」
「はよーす」
若いってだけで、爽やかだな。
細身のスーツがよく似合う。
ガチガチ体型の俺は
スーツが似合わない。
「あの、坂下さん」
急に追いかけてきた。
「ん?」
「あや…上野さんのことなんですけどっ」
「……なに?」
「いや、なんもないっす…」
少しムッとした俺の声色を感じ取ったのか、
立花は言葉を濁して立ち去った。
あやな って言いかけたよな?
あー…なに?そーゆー関係?
じわりと広がる胸の中の感情は
嫉妬なのか?怒りなのか?
今日絶対に番号を渡す。
そう決めて現場へ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます