第6話 ツラい。

やっっっと1日が終わった。

今日は色んなことがありすぎて長かった。


綾菜は俺の事なんて視界に入っていないようで

びっくりするくらいバリバリ仕事していた。


今日1日まともに話したのは朝だけで、

俺が席にいる間は一言も話すことはなかった。




そりゃそうだよな。

あんな自然消滅彼氏のことなんて

どーーーーでもいいよな。


昔から綾菜はさっぱりしていた。


一緒に帰るのはたまたま会ったときだけで、

デートの約束らしきものはいつも俺から。


甘えてきたこともないし、

初めてのキスはドキドキしたのに

「バイトの時間だから行くね!」と

振り向くことなく走っていった。


あいつは大人なんだ。

俺みたいなガキとは釣り合わないんだ。


葛藤むなしく、

綾菜が先輩から告白されたとウワサで聞いた。


その辺からだ。

俺は綾菜と距離を置くことにした。


先輩みたいな大人と付き合ったほうが

綾菜にはちょうどいいんだ。




定時になった。

綾菜は笑顔でお疲れ様ですーと会釈して

事務所を出ていった。


ふーーーー。

どっと疲れた俺。


トイレに行って帰ろうと席を立つ。


トイレ前には人はいなくて

この会社の人達は一体どこに集まってるんだと

不思議に思っていると

声が聞こえた。


坂下さんと 綾菜……!



なんとなく通りづらくて、

2人が去るのを待つ。


声が聞こえなくなり、ほっとして

トイレへ向かうと角に綾菜がいた。


「うぉっ!!!」

「ひゃっ……!!」


「ちょっと……びっくりしたでしょ!」

「俺も……もういないかと思ったのに……」


「え?……いつからいたの?」

急に綾菜が食いついてきた。

「や、さっきだけど…」


「…私今ね、坂下さんに番号登録しておいてねって言われたんだけど…」


?!


綾菜はすごく嬉しそうにしている。

あ、そういうことね。


「あ、裕貴に話しても仕方ないよね!ごめんね!」

お疲れ様!とバタバタ走っていく。



いや、仕方ない?

仕方ないけど、そんな言い方……。



それにあの嬉しそうな綾菜の顔。

あいつ、あんな顔するんだ……。



俺と付き合ってたとき、どうだったかな。

いや、そんなの比べても意味無いけど。



……元カノのあーゆーの見るって、

結構ツライんだな。


思ってたより、俺、あいつのこと

好きだったのかな。


坂下さんの番号か…。


あの人、綾菜のこと気に入ってるのか。


昔からあいつ、人当たりはいいからな。


モテてたけど、本人は気づいてない。

付き合う前と付き合った後で

あんなに変わらない奴も珍しい。


そこが、よかったんだけどな……。


だめだ。

今日はなんか、ツラい。

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