第4話 秘密

前々からいい子だなって思ってたけど

最近急に目で追いかけてしまって

可愛いなって思うようになった。


いつもみんなを気にかけていて

掃除や片付けは率先してやっていて

誰かの失敗を咎めたりしない。


フォローも嫌な顔ひとつせずやってくれて

話す時はいつも笑顔。


たまに現場に来たら、

必ず誰かに声をかけられていて。


気づけば俺もその1人。



あーゆー子を癒し系っていうのかな。

顔を見るだけで嬉しくなる。




コンパも飽きてきた最近。

34にもなって独身なんて

いい加減にしろって周りは言うけど。


明らかに男に媚びるタイプには

なんとなく嫌悪感。


理由はわかってる。


上野さんが気になるからだ。


正直、彼女の見た目は普通。

でもそのナチュラルさがまた良くて。

性格めちゃくちゃ良いし、

本当に素直。


会社の懇親会では

率先して料理を取り分けてくれるし

空いてる皿もさげてくれる。

店の人にも偉そうにしないし

いつも謙虚。


何年か前の懇親会でもそうだった。


上司の席から戻った俺は

タバコ吸いながら、

楽しそうに橋口さんと話している上野さんを

無意識に目で追っていた。


「上野ちゃん、いいっすよね。」

横から山本さんが擦り寄ってきた。


「…そうだね」

灰皿にコンッと灰を落とす。


「おっぱい大きいしね♪」


「ふっ。山本さんは大きいのが好きなの?」


「そりゃ小さいよりは大きい方がね!

でも上野ちゃんならどっちでもいい~。」


酔ってんなコイツ。


「でも束縛する彼氏がいるってウワサですよ。

そりゃそうだよなー。モテるだろうしなー…

うえのちゃーーーーん!」

突然大声で上野さんを呼ぶ。


にこにこしながらジョッキを持ってやってきた。


「それ、何飲んでんの?」

「カルピスでーす」

「かーわいー!」

「カルピス飲んでるだけで可愛いんですか?」

あははっと笑って山本さんジョッキで乾杯してる。


…かわいい。

そりゃ彼氏もほっとけないだろうな。

実際に職場に狙ってる奴こんなにいるんだし。


「坂下さんも、かんぱーい」

「乾杯♪」


「そうそう、〆の雑炊、食べたくない?」

山本さんがキモチワルく甘えている。


「作りましょうか?」

ナイス山本!


上野さんが手際よく作ってくれた雑炊は

めちゃくちゃ美味かった。


俺らの席なのに、

別の席からも上野ファンがやってきて

あっという間に雑炊はなくなった。


「ごちそうさま」

「おそまつさまでした」


みんながキレイに完食した器を重ねていく。

やってきた店員がさげるのをごく自然に手伝って、

店員は彼女にお礼を言う。


お開きになり、店を出るときも

1番最後に忘れ物をチェックしてから、

店員に「ありがとうございました。美味しかったです。」と笑顔でお礼を言っていた。


彼女のこんな姿を、みんな知っているんだろうか。


しっかりしていて、愛嬌があって、

可愛くて、気配りできて……って

最高やないか!!


彼氏がいても、別にいい。

手を出す訳じゃないんだし。


あの日から、俺は上野さんから

目が離せなくなったんだ。



そして今さっき。

今日から入社したアイツと話している所を見た。


面識があるって?




モヤモヤしながら戻ろうとすると

さっきのアイツとすれ違った。


「立花くん」

「はい!」

爽やかに振り向いた立花。


「……上野さんとは、知り合い?」


カマかけてみた。


「……いや、まぁ…」

確信。

ただの知り合いでは、ないよな。



「知り合いだとマズイって感じ?」

「…すんません」

素直だな、コイツ。


「気にしないで!俺ちゃんと秘密守るからさ」

「…ありがとうございます」


現場に戻ってもまだモヤモヤしていた。


知り合いかぁ…



ここ最近、正直俺は

上野さんといい感じだと思っていたけど

面倒なのが入ってきたな…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る