第2話 久しぶり

工場に書類を持っていったり、

確認したいことがあると

私は少しうれしくなる。


なぜなら……


「うえのさーーーん!!!」

少し私の姿が見えただけで

遠くから手を振ってくれる。


いつものことなので

用があるわけではないことはわかる。

手を振り返すとニコニコ満足気に持ち場へ戻る男性。


「おざーーーーーす!」

大きな声で会釈してくれる男性。

「おはようございます」

ぺこりと会釈する私。


「昨日は訂正処理ありがとうございました」

「間に合ってよかったですね」

「お礼に今度カップケーキ買ってきますよ」

「あはは。仕事だからいいのに」

「いや、俺が買いたいんで!」

「じゃあ楽しみにしてます」


彼らはどうやら私のことを気に入ってくれていて

それを全面に出してくる。


口説いてくるとか、

デートに誘ってくるとか、

そういうことはないので助かる。

別に嫌悪感などはなく、

仕事を円滑にやっていくにはありがたいし

心地いい。


この会社の人たちは本当にやさしい。

私の事を頼りにしてくれるし、

可愛がってくれる。


お局を除いては、だけれど。


私がお局よりも年下である以上、

いずれお局のいない世界がやってくる。

その日まで、長く働いていきたいなぁと思う。


我ながら、

お局に対してはかなりブラック思考だ。


明日急に退職することになって

もう二度と会えなくなっても

何とも思わないだろう。


同期のかよ姉とふたり、

何度涙を流したことか。


色々あって、今がある。


そんなこんなで

かよ姉と私はいつでも一致団結。

強いキズナで結ばれている。


あの頃はツラかったなぁ…とふと思い出し、

今がこんなにも充実していることに感謝する。


自販機で飲み物を買おうとしていると

横からスッと手が伸びてきて

100円が投入された。


「あ…」

「好きなもの、どうぞ」


にっこり笑う彼は現場の坂下さん。

彼もまた、私をかわいがってくれている一人。


「いただきます」

「どうぞどうぞ」


笑いながらもう一枚100円を投入して

私と同じミルクティーを買う。


「上野さん効果で俺もミルクティー」

「なんですか~私効果って」


笑いながら普通に話すけれど、

彼を見上げながら

内心バクバク。


腕まくりしている腕は程よく焼けていて

筋肉や筋や血管が…


目が合うと ん? と微笑む。

ううん。と微笑み返す私。



私は多分、坂下さんが好きなんだと思う。


いつもすぐ現場に戻ってしまうので

話をするのはこうして自販機前で会ったときくらい。


もっとゆっくり話したいなぁ……なんて。




2年前に彼氏にフラれた。


他に好きな人ができた。


そんな理由を告げて

一方的にすっきりされても。


私自身、誰かに依存するタイプではない。


「俺の事なんて大して好きじゃないんだろ」


今まで付き合った人には何度も言われてきた言葉。


嫉妬してほしくて浮気して

そのまま本気になったんだって。


そんな奴、こっちからお断りだわ。

後味悪い。


だからもう彼氏なんていらない。

男友達もいらない。


私は私だけで生きていく。


30歳を目前にして、この決意。



それでもやっぱり坂下さんと少し話す度に

もっと話したいと思うのは


恋なんだろうか。



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