第44話 辻褄合わせはとっても大事

裸一貫の手助けもあり、衛兵隊とミーナはなんとかラナンを逮捕した。

素体が良かったのか、見かけによらず無駄に強いことが判明してしまった。


「ボクを拘束して、いったいどうするつもりですか!」

屯所で簀巻きにされているラナンが、衛士達と行きがかり上巻き込まれた裸一貫に必死に弁解しているローザとミーナに割って入る。

「お前こそ、拘束が解かれたらどうするつもりなんだ」

「決まってるじゃないですか。そこのたくましいジャガイモくんと、いけない事をしてみようと思っていますよ」

直球で怖え! 衛士たちは動揺しざわつく。


「そっちの褌一丁さんでしたっけ? お兄さんも素敵ですね」

「裸一貫だっつーの! まあ同じようなモンだけどな」

隊長は、いつもより当たりが弱めの裸一貫の発言に違和感を感じる」

「どうした裸一貫、キレが悪いな。なんかあるのか?」

「いや、もしかしたらこの緑野郎、野郎じゃないのかもしんねえと思ってよ」

「なんだ、てっきりおまえのジャージがボロボロになった事にショックでも受けてるのかと思った」

隊長は肩をすくめた。


「んなこたねえよ……って、ヨレヨレ過ぎて気付かなかった! 俺がくれてやったジャージじゃねーかソレ! おまえなにモンだよ、全体的に緑だし行動はアレだし……オマケにチチまであるじゃねーか!」

「なんですの裸一貫さん、まさかそんな目でラナンを見ていらしたの?」

ミーナの目つきに険が立つ。

「まあまあミーナ、ラナンは女の子だって説明が省けたから話が早くなったとしようなの」

ローザもジト目で取りなす。


「ちょっと待て、この危険な変態が女ってのは本当なのか? 証拠はあるんだろうな裸一貫!」

「ああ、そこのジャガイモからひっぺがす時に胴体を掴んだら、胸の膨らみが大胸筋の感じじゃなかった」

「見た目どおりエッチだね。裸一貫の兄さん」

プロの衛士にガッチリと簀巻きにされていたラナンはあっさりと縄を抜け、優雅なボウ・アンド・スクレープ……男性貴族の礼を取る。


「やっぱり男だろ!」

「このジャージでは、さすがのボクもカテーシー……淑女の礼を取ることができません。ですが、ご覧ください!」

ラナンはジャージのジッパーを降ろし、上半身を晒す。

そこには清らかで控えめの一対の乳房があった。

「というわけで、ボクは若草色の乙女ラナン、今後ともよろしく……特にジャガイモくんは」

よく見れば誰もが羨む中性的な麗人だが、ガタイ系衛士はすっかりトラウマを植え付けられ怯えている。


「……というわけで、いつもどおり丘にバオバブの恵みをいただきに行ったら、ラナンが眠っていたの」

帝宮の丘の巨大すぎるバオバブは、悪意や害意に敏感に反応することが既に知れ渡っている。逆に感謝の念にも反応することは神聖ヴァチカニア帝国皇帝ザンパーノが自ら証明した。

いつも肥料を積んではバオバブの巨大樹に赴き、実と葉を持ち帰ってくるミーナとローザは飽きるほど秘訣を聞かれた。

ローザの本体だからとも言えず、感謝の心とだけ答えていた。そしたら、今日はラナンが居たと端的に答えた。


「裸で、か?」

「記憶も何もないようでしたから、とりあえずラナンと呼ぶことに致しましたした」

服を着ていたかどうかへの答えは慎重に避ける。

「なんで居たんだ?」

隊長はそこを怪しむ。


「最近、バオバブの樹を神体と称する変なカルト宗教がいくつも発生してますわね。神聖教会への信仰を非難しておりますわ」

「ああ、国をまたいだ悪魔崇拝組織か。気をつけろよ、あれはフランクの撹乱工作だ」

フランク共和国、革命で王族をすべて処刑し貴族の貴族による貴族のための血まみれの共和制を敷いた国だ。

他人を見下すゲルマンに他人を利用するブリタニアに他人を搾取するフランクと、ヴァチカニアはつくづくタチの悪い国々に囲まれていますわ!


「……って事はアレか、害意のない乙女を生贄にすれば神への感謝になると思ってる救いがたいバカの集まりが、って感じか」

裸一貫が名推理を披露する。

「……ありそうな線だな」

隊長も重々しくうなづく。

天網恢々てんもうかいかい疎にして漏らさず? なの」

ローザは敢えて難しい言葉でスッとぼけてみせる。


少し前に神聖教会が奇跡を讃えてバオバブの木の下で盛大な礼拝を行ったが、教会内の悪魔崇拝者だけがピンポイントで呑み込まれ、礼拝参加者全員に

『礼には及ばず』

と神託を与えた。

ご丁寧にも呑まれた悪魔崇拝者の居た場所に銅銭を一枚づつ地面から吐き出した。

もちろんローザ流の外宇宙生命体ジョークである。そういう事も背景にあった。

神聖教会は悪魔崇拝の実態を異端審問官が暴き出し、また神託の解釈に百家争鳴状態となった。


「そういう事なら、まあ、しょうがないっすね」

ジャガイモくんを含めた全員が、なんとなく辻褄が合った事に安心し、ミーナたち一行は裸一貫とともに屯所を後にした。

「そういや、なんでこの裸一貫様まで屯所から出てきたんだ?」

裸一貫は騒ぎを聞いて駆けつけたものの、本来の用件があったことを思い出し、トンボ帰りで屯所に戻っていく。


さて、ラナンにいつまでもヨレヨレのジャージを着せているわけにもいかない。修理を依頼していたゴブリンクイーンの装備を受け取るべくキャンプ用品店へと向かった。

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